善人じゃないのは最初からわかってたでしょう?
ごはんは適当に与えて、睡眠に、適度な遊び、それに学びを与えてのびのび育てる。まぁ面倒だから元の年齢まで時の進みを普通の人間の二十倍の速さで年をとるようにしたけど。
成長するまでの間も僕に力が流れるようにしてあるから、娘は魔力なし同然に過ごしていた。
魔力があるよなんてことワザワザ教えないし、彼女もそれで普通に暮らしているだから別にいいでしょ。
そして一年経つか経たないかくらいで拾った娘にも恋人が出来た。面白いことに僕の縄張りで娘と同じく捨てられていたどっかの国の王様の隠し子。つまりは何人目かは知らないケド王子にあたるみたい。
ふーん、でも関係ないしなぁなんて特に止めることなく見守ってたら何を考えたのやら、その王子の負った傷が治ったと思ったら。
「申し訳ないがあなたのような野蛮な男の元に彼女を置いておけない」
「父さん、いいえ……あなたを父と呼ぶのは金輪際止めます。どうぞ私のことは忘れて下さい」
二人で手を繋いで、仲良しなことで。
折角娘と父になってあげてたのに。窮屈な暮らしも可哀想だろうと自由も許したし、人間が好むだろう服に宝飾品に書物にとあれこれあげてきたのに。
この間死んだ本物の父親よりよっぽど父親らしく扱ってあげたってのに、野蛮だってさ。
……何だかね〜?
人間のガワを装ったままの首を僅かに傾け、僕は二人ににこやかな笑みを浮かべたまま答える。
「そうかいそうかい。ならこの森から出ていきなさい。僕は止めないよ。けれど一つだけ君たちが野蛮だと言う僕から忠告をしてあげよう」
“僕の娘はこの森から出てはいけない”
僕のかけた術は僕の側にいることで維持されるようにいじっておいたからね。足りない部分をツギハギした彼女がどうなるかを考えたら愛だの恋だの浮かれてる場合でもないんだけど。
フンと鼻を鳴らして僕を見下したように見た彼らは僕の忠告なんてお構いなしに立ち去っていった。
しばらく経ってから何とも言えない悲鳴のような雄叫びのような声が聞こえたけど知らないふりをして人間のガワを解いて洞穴へと戻り横になる。
「案外早く終わっちゃったな。次は何をしよう?」
娘の体を今度はどのくらい回収できるかな。そう思案しながら僕は眠りに就いた。
娘の力を得るのは寝ていても口に食べ物が入ってくるように便利なものだからここで完全に捨ててしまうのもなんだか勿体ない気もするんだけれど。
けど、育ててあげたのに不良娘になっちゃったから気持ちが萎えてしまった。僕自ら動くのも馬鹿らしくて嫌になる。
起きてまだ娘が娘として再生できるくらい残っていたら。その時はまた再生させて今度こそ立派に育ててあげようか。
甘やかし過ぎたら図に乗ったから、次の時は厳しめにしよう。