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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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後片付け ②

「……なるほど、こういうことですか」


「うわー、どうなってんのこれ?」


「甘音、あまり近づかんようにな。 何があるか分からんぞ」


 カフ子に言われた通り、この事件の出発点である大広間へと戻ると、彼女が語る”原因”はすぐにわかった。

 なぜならはじめに遺体を見つけたちょうどその空間に、ガラスを砕いたかのような亀裂が無数に走っていたからだ。


  “これが「脱出口」です、デバガメを倒したことで異空間を維持できなくなったのでしょう”


「しかしなぜこんな中途半端に……」


  “おそらくですが、デバガメの核であるへその緒が完璧に消滅していないからでは?”


 そんなはずはない、と思ったがそのカフ子の言う通りか。

 わざとフィルムケースを見切れた形で撮影させた際、中身の何割かが写真の中に収められたはずだ。

 つまり塩の罠を逃れたへその緒が現存している分、この空間を維持する力が残留している。


  “念のために言いますがデバガメ本体は残らず平らげたのでご安心を。 たとえ力の源が残っていようと、霊体の体力が赤ゲージなら捕食に問題はありません”


(ずいぶんと俗っぽい説明ありがとうございます)


「それでおかき、これどうすればいいの? どう見ても人が通れるように見えないけど」


「ですよね、えーとここからは……」


  ――――……ぉー…………ぃ……


「……ん?」


  ……ぃ……ぉー……い……おーい! 誰かおるかー!?』


「この声……もしやウカさんですか?」


『おお、おかきの声や! やっぱ無事やったか!』


 空間に走った亀裂から聞こえてきたのは、親の神より聞いた神の声。

 しかもよく目を凝らしてみると、亀裂の隙間からはチラチラと横切る人々の影が確認できた。

 

『なんやお嬢の家で霊障起きた言われてな、急いで駆け付けたらこのヒビや。 どないなっとんねん?』


「あら対応早いわねSICK、けどもう霊本体はおかきが倒してくれたから大丈夫よー。 ただ今帰れなくて困ってたところ」


『そりゃええ知らせや、全員無事やんな? ほなこのヒビはどないしたらええんやろか……』


『おーいウカっち、そこにおかきちゃんたちがいるのか? 解析が終わったから少し離れてくれ』


『おっ、さすがキューちゃん仕事が早い』


 ウカさんと入れ替わって亀裂の前に立ったのは、こちらも親の声より聞いた声。

 ガチャガチャ聞こえる金属音は、この亀裂を調べるための測定装置だろうか。


『おかきちゃん、聞こえるかい? こちらで調べてみたがこの裂け目は非常に不安定だ、下手に突くと君たちがいる空間ごと潰れてしまう』


「それは困りましたね、対処法はありますか?」


『あるよ、少し乱暴だけどね。 こちらとそちらで同時にこの亀裂に強い衝撃を加えて穴を開ける、そして空間が潰れる前に脱出する』


「本当に乱暴ね」


『仕方ない、こちらで補助してるけど本当にいつ崩れてもおかしくないくらい不安定なんだ。 なる早での脱出が吉だよ』


「衝撃と言うのは物理でいいんですかね? では早速……」


『おーっととと、ちょっと待った! 物理で構わないがお互いに威力を合わせる必要がある、バランスが悪いとたちまち空間が瓦解するぞ!』


「それはまた面倒じゃのう……」


『あとパンチやキックじゃ全然足りないぞ、こっちは人外パワーの持ち主が揃ってるから何とでもなるけど』


『おるでー』


「なるほど……」


 こちらの人材で出せる最大火力は辛蔵さんの全力キックまで、それでもウカさんや忍愛さん級の火力には遠く及ばないだろう。

 仮に同等のパワーがあったとしても今度はバランスのとり方が難しい、強すぎても弱すぎても双方の均衡が崩れて空間が崩壊する。


「ねえおかき、つまりあっちもこっちもそっくり同じ攻撃を加えたらいいってことよね?」


「ええ、ただその方法と加減が難しいんですよね」


「なら簡単じゃない。 おじいちゃん、今から伝えるものを私の部屋から持ってきて」


「おう、大体わかったわい。 バケツとタオルは探せばあるじゃろ」


「バケツ? タオル? 何をするんですか甘音さん?」


「良い子は真似しちゃダメなことよ。 ねえキュー、ハッキングしてかまわないから私の部屋開けて同じの持ってきて!」


『おーい……なんだか嫌な予感がするぞぉ』


――――――――…………

――――……

――…


「まずバケツに放り込んだタオルに【規制済】と【規制済】を1ビンまるまるぶち込むわ」


「えっ」


「この時ガスが発生するからよく換気するか距離を取ってね、しばらくして反応が終わるとタオルの綿が【規制済】化してるはずよ」


「あの」


「甘音、入れ物はこれでよいか?」


「完璧よおじいちゃん。 このままじゃ火力が足りないからこの【規制済】と【規制済】の混合粉と一緒に詰め込んで……あとは余った【規制済】で導火線を引いて」


「甘音さん甘音さん、これはいったい何を作ってるんです?」


「見ての通り爆弾だけど」


「見ての通り爆弾だけど!?」


 甘音さんと辛蔵さんの作業を呆然と眺めていると、私の目の前で火薬類取締法が破られた。

 探偵としての敗北である。


「同じ素材、同じ分量、同じ手順で作った爆弾よ。 これなら威力はほぼそっくりそのままだわ!」


『うーん、たしかにおいらも威力は問題ないと思うけど……ガハラ様、その製法はどこで覚えた?』


「おほほノーコメントとさせてもらうわ。 あとは導火線の長さを揃えていっせーので着火するだけね、準備は良い?」


『あいあい、君たちも爆発後はひるまずすぐ飛び込んでくれよ。 あ空間に取り残されたらお陀仏だぞ』


「甘音さん、あとでこの件については詳しくお話しせてくださいね」


「おほほほその話はまた後日改めて前向きに検討する方針を固めさせてもらうわ……それじゃいっせーの……せっ!」


 甘音さんの合図の元、ライターによって灯された火が床に敷いた導火線の上を走る。

 そして……まあ、遵法精神を大きく欠いた甘音さんの作戦は見事成功し、私たちは無事に元の世界へ帰還したのだった。

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