事例01-9 対面審理-2
「『ずっと』という言葉の意味を履き違えていたのです、そう私も、被告の3名も」
突如として放たれた理人の言葉に、翔真が困惑の表情を浮かべる。被告の3人も同様の表情を浮かべ、沈黙が支配する中、文が記録を綴る音だけが部屋にこだました。
「一般的な『他者強化』能力はそう長くは続きません、長くても数分、1時間続くだけでも特異な方です」
「そ、そうなんですか?!」
翔真が驚きの声を挙げる。
「ましてや一般的には効果時間中、目に見える何かが現れる。身体を包む光であったり、腕輪や指輪のような形を持ったり。ですが、井上さんの魔法にはそれが無い。発動の瞬間、ごく短時間だけ対象者の身体が発光し、すぐに消える。それは間違いないですね?」
「は、はい」
翔真が肯定する。
「被告の皆さんも、初回の探索時に支援魔法を受けた際、それを確認していますね?」
「あ、あぁ、確かに身体が光ってすぐ消えたな」
「うん、それは見ました」
「……間違いない」
隼人と飛鳥が困惑と共に肯定し、雲雀は視線を合わせることなく答える。
「だからこそ、勘違いしてしまっていたのです。井上さんの魔法は井上さん自身の意志で解除するまで続く。つまり、初回のダンジョン探索時にかけた後、パーティ契約を解消後に井上さんが意識的に解除するまでその効果は続いていたのです」
隼人と飛鳥が驚愕の声を上げる。記録係である文や、警護の冒険者もまた、その顔に隠しきれない驚きが現れる。そんな中、雲雀は一人苦々しげな表情を浮かべていた。
「井上さん、合っていますね?」
「はい。合ってます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! じゃあ俺達は支援魔法を受けていたのに俺達はそれに気づいてなかったってことか?!」
「支援魔法による強化、その恩恵を失ったことによるギャップ。それに気づかず戸惑った結果、皆さんが負傷された、ということです」
「そう、だったのか……」
「あの後、光も何も残らないから魔法も終わったんだって思ってた……」
「だから言ってたじゃないか、ずっとかけているって」
顕となった真実に、隼人と飛鳥が呆然と呟く。その様を前に翔真が勝ち誇った表情を浮かべる。理人の瞳から、それまであった温かみが消え、冷え切った鋭い光が宿る。
「井上さん、確認させてください」
「え?」
「井上さんは被告らに対し、自らの能力をどのように説明されましたか? 可能な限り正確にお答えください」
翔真は意味がわからないという表情を浮かべるも、理人の有無を言わせぬ空気に困惑しながらも答える。
「は? え、えっと確か……能力を強化する支援魔法だってことと、検査じゃあまり強くはないけど効果時間はすごい長いって言われた、ってぐらい、です」
「では、ダンジョン探索を繰り返しているさなか、被告らから幾度となく支援魔法の使用を要請された際、あなたはどのように返されましたか?」
「えっと、それは『ずっと支援魔法をかけてる』です」
「他には?」
「いえ、特には……」
「『ずっと支援魔法をかけてる』それだけであり、聴取の際にお話いただいた、能力のイメージの変化についても被告らに説明されたことはない、ということであっていますか?」
「はい、無いです」
「わかりました。被告の皆さん、今の原告の説明に異論はありますか?」
「あぁ……無いぜ」
「……ありません」
「異論は……っ!」
隼人と飛鳥が呆然としたまま肯定する。雲雀が俯いたまま答えかけたその時、ハッとした表情を浮かべ、理人を呆然と見つめる。
「春野さん、異論がありますか?」
「いえ、異論は、ありません」
「よろしい」
「ただ、一つ追加で主張があります」
雲雀が放ったその言葉には強い意志が宿っていた。




