表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

願い

俺の息子の話をしよう。


 俺の息子は今年で18歳となる。成人の仲間入りだ。妻と2人で盛大に祝ってやろうと思っていたんだ。

 妻が息子の好物を沢山作るって言うから、俺はケーキを買ってきて、ケーキの上に乗せるチョコプレートには、『生まれて来てくれて、ありがとう』とか『成人の仲間入りおめでとう』とか書いてもらうつもりだった。きっと、思春期だから「なんだよこれ!」とか言いながらも嬉しそうにするんだろうと、期待していた。

 酒はまだ飲めない年齢だが、息子の生まれ年のワインを買っておくのもいいかもしれない。「20歳になったら開けて、3人で飲もう」なんて、未来の約束をするのも良いだろう。

 普段は仕事が忙しく、息子も思春期だから滅多に話さないし顔も合わせない。だが、誕生日くらいは家族3人で楽しく過ごせたらそれで良いと思っていた。


 それが良くなかったのかもしれない。

 誕生日前日に、息子はトラックに轢かれ植物状態となった。

 連絡を受けた時のことは忘れもしない。まだ会社に居た時だった。妻から電話がかかってきた。珍しいと思いながらその電話に出ると、聞きなれない声が耳に響いた。


「〇〇総合病院の者です」


 病院から?もしかして、妻に何かあったのかと会社に居ることも忘れ、大きな声を出してしまった。


「奥様はご無事です。ですが、息子さんが……」


 安堵する暇なんて無かった。トラックに轢かれ、手術中。妻が対応しているが、精神状態が良くないとのことで、俺に来て欲しいと…そんなことを言っていた気がする。

 その後、上司に事情を説明して会社を飛び出した。今にして思えば、その説明も支離滅裂だったような気がする。車を運転して病院に向かったが、道路法を厳守したかは定かではない。頭が真っ白になるなんて、本当にあるんだと、心の片隅で思っていた気がする。


 病院に辿り着くと、妻が力無く椅子に座っていた。俺を見つけると、顔をくしゃりと歪めて大きな涙を流していた。俺はただただ、抱きしめてやることしか出来なかった。

 手術は成功した。だが、目覚める可能性は低いと言っていた。打ちどころが悪かったのだろう。そんな言葉で納得できるものでは無いが、納得するしか無かった。


 息子を轢いたトラックの運転手は、ながら運転をしていたらしい。スマホを見るためにほんの一瞬目を離した。その一瞬で、こんな事故が起こったのだという。

 怒鳴ってしまいたかった。何故目を離したのだと、何故運転中にスマホを見たのだと、怒鳴ってしまいたかった。だが、俺の怒りよりも妻の怒りの方が大きく、泣き叫びながら「返して!」と相手に迫っている。それを見てたら、冷静になってしまったのだ。妻を宥めて、ただ淡々と弁護士を交えて話をする。


 病院の先生は、目覚める可能性が低いと言った。完全に目覚めないとは言っていない。懸命に延命措置をして、いつ起きてもいいようにしておこう。そう、妻と2人で話をした。


 毎日話しかけよう。

 毎日会いに来よう。

 仕事を理由に放って置いたりしないようにしよう。


 病室の中はとても静かだ。息子が生きられるように処置された機械の音だけが響いている。

 時折、表情が緩んでいるような気がする。

 どんな夢を見ているのだろうか。

 早く起きてくれ、と今日も息子の手を握り願っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ