水の都ウォルベア×聖職者協会×真の闇……6
リアナ王国軍は圧倒的な数で偽リアナ王国軍を即座に駆逐する。
戦闘開始直後、偽リアナ王国軍の兵達は自身が聖職者協会の人間である事実を口にする事で戦闘を回避しようとしていた。
「俺達が誰だか、わかってるのか! そんな事をすれば、直ぐに戦闘が再開されるぞ!」
脅しを掛けるように強気な口調でアストゥトへと喋り掛ける聖職者協会の男。
本来ならば、争うべきでない事実をアストゥトも十分に理解していた。
しかし、結論、理解、常識、戦場では全てが狂い出す。
生き残る為、必死に声をあげる男達。
「俺達は……!」
男達の発しようとした瞬間、キャトルフとアストゥトは同時に発言をする。
「お前達は、リアナ王国軍だ!」
「あなた達はリアナ王国軍ですよ!」
二人の言葉に男達は動揺する。
「な、何を言ってやがる!」
後退りする男達は即座に二人の発言を理解し、表情を青ざめさせた。
キャトルフとアストゥトは、村人に気づかれないように、男達をリアナ王国軍の軍人として、処理すると口にしたのだ。
男達は慌てて自分達の正体を明かそうとする。その瞬間、シシリアが先手を打つ。
村人から見えぬように魔石の力を使い巨大な土壁と呼ばれる土の分厚い壁を作り出す。
同時にメル=カートルが無数に所持している魔石の中から無音の魔石を選び出すと即座に発動させる。
「あはは、凄く興味深いですよねぇ? これから、外から見えない音のない空間で何が始まるんですかねぇ……怖いですよねぇ?」
悪戯に微笑むメル。その声は男達の耳に響く事はない。
無音の世界は男達に尋常でない恐怖を与えると、一人の男が駆け出していく。
音は無くとも、一人が駆け出せば、 皆が慌てて走り出す。
逃げ場の潜在しない空間の中で出口を探す男達。
「哀れだな……人間とは、本当に五感を失うと直ぐに冷静さを失うな」
クスクスと笑うセラ=シェルム。
「さて、黒猫の団、獣戦士特攻隊、副隊長──セラ=シェルム。楽しく遊ばせて貰います!」
我慢できず、武器を構え、駆け出すセラ。
其処からは、一方的な虐殺が行われる。外に知られる事は無く、男達は誰にも見つかることのない、グリムの魔石へと吸収されたのであった。
全てが終わると、黒猫の団とリアナ王国軍は互いに向かい合う。
「改めて、語ろうじゃないか、アルベルム=キャトルフ団長」
そう口にするアストゥトに対してキャトルフは面倒くさそう頭を軽く掻いてみせる。
「お前らと話す事は無いんだが?」
「そっちに無くとも、此方には話さねばならない事があるんだよ。アルベルム=キャトルフ団長……」
一瞬で空気が変化し、互いの間に緊張感が高まる。
「たく、面倒くさい奴だ、話は聞いてやる。だが、場所を変えるぞ!」
「無論だ、せっかくお膳立てしたんだからな、村人に我々が争っていると見せたくないからな」
互いに敵でありながら、互いに笑みを浮かべる両者。
村人達に村へと戻すと、黒猫の団とリアナ王国軍は森の中に歩いていく。
森の中心部に辿り着くまで、終始無言のままだった両者が互いに別れると、陣形を組み、アストゥトの部下が整列する。
黒猫の団はそれに対して、リラックスしたように軽く距離を取る。
アストゥトは一歩前に出ると、口を開く。
「話をする前に、リアナ王国軍は今、新たな危機に直面している。ウォルベアの五神の巫女が決断に至ったと報告が来た。意味がわかるか?」
五神という言葉にキャトルフは無関心であったが、グリムとモディカは即座に反応を見せたのである。




