74.呪われた姫
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ある国にそれはそれは美しいお姫様がいました。
そのお姫様はとても賢く魔法の才に恵まれていました。そのおかげで、作物は良く育ち魔物は森へ帰り国を豊かにしました。
お姫様は家族からも民からも愛されて育ち、心優しい娘に成長しました。
そこに隣国の王子様がお姫様に一目惚れして結婚を申し込みました。
ですが、王子様を好きだった魔女はお姫様に嫉妬してお姫様に呪いをかけました。
1つは子供が産めなくなる呪い
しかしそれは、魔法が得意なお姫様が子供がほしいと王子様との絆を深める事で呪いをも破りました。
翌年には可愛い子供が生まれました。
でもまだ魔女は笑っていられました。
なぜなら、2つ目の呪いをかけたからです。
愛が大きいほど魔力は増え、その魔力は身体を蝕んでいく呪いです。
夫や子を愛せば愛すほど、魔力は増えてお姫様の身体は弱っていきます。それでも、お姫様は負けませんでした。家族を愛する故に増える魔力は、家族のため民のため癒しの魔法として使いました。
お姫様の愛はとても強く、王子様との仲も良くそれから2人の子が生まれました。
ただ、なぜか魔法を使っているのに、家族を愛すれば愛するほど、お姫様は日に日に弱っていきました。
お姫様の命は細く、でも強い糸のように保たれていました。
それでも生き続けるお姫様に魔女は怒ると思いきや嘲笑いました。
そして、3つ目の呪いをかけました。
それは、この呪いが永遠に続くだろう。断ちたければ愛する子の命を断てと魔女は言い残して消えました。
お姫様は心から嘆きました。
どうして我が子を殺すことなどできましょう。
でも、できなければ我が子にも呪いが継承されていく。どちらにせよ、悲しいことでした。
夫である王子は必ず解決策を見つけるとお姫様を励ましました。
お姫様は夫の言葉を信じることにしました。
お姫様は献身的に民のため治療師として働き、皆に愛情を注ぎました。それでもやっぱり、お姫様は衰弱しその短い生涯を終えました。
残された王子様と子供達はとても悲しみました。
悲しむだけ悲しんだ後、必ず呪いに勝つと誓って前を向き始めました。
悪魔がいれば女神もいる。
いつか呪いが解ける人と出会えるようにと生きていきました。
◆◇◆◇◆
「これは……ロメルダの一族の話、よね」
子供の童話にしては少しシリアスすぎると感じた。
私は童話を前に楽しそうに本を触るアナベラを膝に乗せて考えた。
呪いで子が出来にくくされ、それを補うように生殖能力を高めるために魔力を流すようになったのは間違いないはず。
そして、魔力が身体を蝕むのも事実。だから、魔力を放出するようになったのだが、問題は愛が大きければ大きいほどということだ。
それに、童話では魔力の解放は治癒魔法でも成り立っているし、なぜ、お姫様は魔力解放をしているのにも関わらず、死んでしまったのか。
何か重要な事実が隠れている気がする。
1人で考えていても埒が明かないと、私はリオンの元へと向かった。
「リオン、入ってもいいかしら」
ドアの前で声かければ扉が開いた。
「散らかってますが……どうしました?」
中に入らせてもらいアナベラを寝かせる。私は一連の出来事について話した。
「なるほど……呪いですか」
「呪いに抗った結果、リオン達は治癒魔法に長けて、特殊な魔法が使えるようになって、アムルを探し出す能力も得た」
「それが呪いであれば、血族間で魔力と生命力を補いながら何とか繋いできたのだと考えれますね。失われる命をユナリアとミスイで補いながら」
「でも、どうしてお姫様は死んでしまったのかしら……魔力を解放しているのに」
「魔力……愛すれば増え続ける呪い……」
「ええ、2つ目の呪いがそうなの」
何か引っ掛かる。
リオンは童話を私に返しながら、手元にあった資料を見せてきた。
「私も分かった事がありました。この資料です……なんだか無理やり文章を繋ぎ合わせたかのような気がしませんか?」
確かにリオンの言う通り資料の内容がややチグハグであった。
「他にもそのような不審な点があるのです。やっぱり意図的に情報が隠されていたのではないでしょうか」
「そんな事をするのは」
「王家でしょうね」
リオン達の一族が再び力を付けて困るのは王族だ。
「でも、それは完璧ではなかった。子供部屋にある童話までは目が届かなかったのでしょうね」
リオンは再度目を通してから顔を上げて言った。
「徐々に徐々に事実を消していく事で、私達一族を滅ぼすつもりだったのでしょう」
それもとんでもなく長い時間をかけて。
じわり、じわりとその血が滴り弱り亡くなるように追い詰めるのだ。
なぜ、呪いを隠すのか。
なぜ、魔力の解放をアムルとの交わりだけだと思い込ませるのか。
「魔力は、再生し続けている。無理に使えば使うほど身体にも影響する、そうよね?」
「……ええ」
「愛が大きければ大きいほど魔力過多になり、魔力を使えば使うほど身体は……」
「弱っていった」
どくん、と心臓が強く打ち始める。
「弱るのよ、リオン……使えば使うほど……」
私は震える声を必死に抑制しながら話す。
「治癒魔法や他の魔法でも魔力解放が出来る事実を隠し、アムルとの関わりだけが、あたかも魔力解放の手だと情報を操作する。そうすれば、魔力と愛情の相互作用で身体は弱っていく。そして、知らないうちに魔法を使えば、より衰弱していく」
「魔力を解放できなくても魔力暴走で死ぬし、解放しても弱まる」
だから魔女は嘲笑っていたのだ。どちらにせよ死ぬから。
とても狡猾だ。
「そして、3つ目の呪いはまだ解けないまま、お姫様は死んでしまったのよ」
「3つの呪い……」
3つ目の呪い。
そうだ、3つ呪いを受けたら、死、だ。
私ははっとしてリオンを見た。リオンは冷静だ。何を考えているか、分かる。
私もあと1つ呪いを受ければ……死ぬ。
そして、それを守るためにリオンは私に魔法をかけようとしている。
「ジェシカ様」
リオンが近づいてくる。でも、私はゆっくりと後ずさった。
「ジェシカ様。こっちへ来てください」
「嫌よ、できない」
私はドアノブに手をかけて出ようとした。それなのに、リオンは私を勢いよく引き寄せて抱きしめた。
「リオンっ!離してっ、だめよ!私がいると貴方はどんどん魔力を使ってしまうわ。呪いを受けないようにときっと色々するでしょう?」
「それが何だって言うのです?貴方を失うくらいなら、自分が死んだ方がいい」
「またそうやって!……いい?貴方がそう思うのと同じように私も貴方を死なせたくないの」
「どちらにせよ私は死ぬのです。貴方を愛し続けて死ぬでしょう」
リオンの顔が悲しそうに、でも決意したように見つめてくるから、リオンが引き寄せる手に抗えず、そのまま彼の胸に顔を埋める。
「リオン……お願い。私はどうにでもなるから」
「ジェシカ様と離れるなら、私は一緒にいて死ぬ方を選びます」
涙が溢れる。
死なせたくない、けど……離れたくない。
「本望ですから」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕は温かいのに、触れる指先はとても冷たい。
それが彼の死へと近づいているみたいで怖くなるのに、本能では彼の腕から逃れたくないと思う弱くて愚かな自分が許せない。
けれど……
見上げればリオンと目が合う。
理性が警告を発する。が、その瞳から目を離せずにそのまま、優しく口付けが落ちてきた。
彼の唇から感じる熱。
始めは触れるだけだったのが、何度も角度を変えて、私の口に入ってくる熱に私の思考が止まる。
「……リオンっ、」
「あなたへの愛情は抑えられません。そして魔力も増え続けて魔力を使わねばならないでしょう」
口付けの合間にリオンが言う。
「だったら、あなたを愛してあなたのために死んだ方がいい」
なんて綺麗な目をして言うのだろう。
そこには悲しさより、彼の熱しか感じられない。
駄目なのに、彼に魔法を使わせてはいけないのに。私はいつの間にか流れ込んでくる魔力に応えるように、リオンの口付けを受けた。
こんなに悲しくて、嬉しくて、愛しくて、切なく苦しい口付けがあるのか。
このまま全力で彼を受け止めたい。
でも……私はリオンに触れる。
ゆっくり頬を撫でればリオンが手を添える。
「呪いを解く方法を探すわ」
「これくらいじゃ、私はまだ絶えませんよ」
「一緒に生きるの。あなたの呪いも私の呪いも、解決する方法を探す」
トンっとリオンが私の肩に額をつける。
辛くないわけない。
そっとリオンの背中をさする。
「どうやって……何か考えがあるのですか?」
「どう、だろう」
魔法など使えない私が言える事ではないかもしれない。
「だけど、童話でお姫様も王子も……ご先祖様達が呪いに抗った結果の今だから。必ず方法があるはずだわ。それに……」
「それに?」
「呪いを受けるだけでは不平等よ。考え方を変えれば、呪いは新たな道を開くことも出来るのよ。そうやって、前を向いてきたはずだわ」
実際に子が産めない呪いを破っているのだから。
必ず方法がある。
私は後ろ向きな考えは捨てて、無理やり笑顔を作った。そうしなければ、心が折れそうだから。
「それじゃあ、まずは庭に行きましょう」
「庭?なぜです?」
「ユナリアの力を借りないと。リオンの身体が心配だわ」
「さっきも言ったでしょうが、自分的にはまだまだ大丈夫なんですよ。全くそのような疲れや体の怠さもないのです」
「万が一ってこともあるから」
そう言って庭へ出ようとした時。
ドンっ
屋敷全体が揺れるのが分かった。
「な、何!?」
「まさか、奴らが……」
窓から外を見ると、空にはあり得ない亀裂が入り歪んでいた。
「っ、まずい。結界を無理やり破るつもりです!恐らく外には」
「お兄様っ、ジェシカ様っ!逃げて、早くっ」
リオンが言い終わる前にアンナの声がした。
「アンナ!」
「屋敷外が魔術師で囲まれているわ!結界を壊す気よっ、それに、ミーシャ様もいる!!」
「くそっ」
リオンがアナベラを抱き上げて私の手を取った。
だが、床一面に青い光の線が浮かび上がってきて、それが模様を作り、たちまち私は動けなくなった。
「ジェシカ様っ」
リオンの焦る声が聞こえる。
青い光は私の身体を覆い、身体が締め付けられるように痛んだ。突然のことで、咳き込みながら膝から床に倒れ込む。
痛みと吐き気が波のように襲ってくる。僅かにリオンの魔力を感じた。
私を守るように光る金色の光。
2つの色が反発し合っている。
そのまま身体が引っ張られる感覚を感じる。
リオンにやめるよう言いたいのに声が出ないほど苦しかった。次第にその苦しさが治ってきて焦った。
そして気づけば、屋敷とは違う部屋に座り込んでいて。
腕の中には、ぐったりしているリオンがいたのだ。




