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45.殺したいほど憎い


 魔力を順調に吸収していたフロント子爵令嬢から、眩い光が放たれ、パキッという音とともに足枷が外れた。

 眩しくて細めていた目を開けば、僅かに残っていた光は静かに消えていき、それと同時に彼女の息遣いも消えた。


 エイドリアン様、無事、あなたの指示通りフロント子爵令嬢を処分しましたわ。


 心の中で呟く。


 昼にエイドリアン様へ会いに行けば、機嫌が良くない彼。最近はなんだか苛々している事が増えており、その原因が、ジェシカ妃殿下なのは明白だ。

 彼女が憎い。

 正妃として特段、何も力を持たず私より可愛くもなければ魅力もない。私は治癒魔法が使えて国の役に立てる。それなのに、いつまで経っても側妃にさえなれず、あの女が1番だ。

 だから、呪いで堕胎させてやった。


 あの女から子を産む機会を奪えば、王太子妃としている意味もなくなる。

 そして、私がもっと力をつけて後継を産めば、正妃もエイドリアン様も私のものだ。


 だからエイドリアン様の役に立ちたくて、私の存在価値を示したくて、彼に力になりたいと訴えた。

 そしたら、王家の血筋であるフロント子爵令嬢を処分しろと言われた。


 ちょうどいい。彼女の魔力と生命力を奪って死に至らしめればいい。


 エイドリアン様のために、殺すことに何の躊躇いもなかった。

 動かなくなった彼女を見ても何も感じなかった。あるのは、エイドリアン様との未来だけ。


 「さよなら、アンナ様。あなたの魔力は私が有意義に使うわ」


 身体に魔力が漲っている。

 これで、泣き崩れるあの忌々しい妃殿下の顔を見られると思うと、楽しくて仕方なかった。

 部屋を出て、騎士へエイドリアン様の伝言を伝える。

 そして、私は軽い足取りでエイドリアン様の元へ向かう。


 しばらく王太子宮を彷徨う。

 エイドリアン様がどこにいるのか全く検討がつかない。私室にも執務室にもいない。

 ……またジェシカ妃殿下のところか。


 どうしてそんなに構うのか。

 どう見ても私の方が魅力的なのに。

 まぁ、ジェシカ妃殿下は美人ではあると思う。けれど、ダークブラウンの髪と薄茶色の瞳の彼女は特に目立つことなく、パッとしない。私の方が明らかに華やかで可愛らしいのに。


 なぜ皆んな、あのように飛び抜けた美貌も才能も持たない女を構うのか。どこに魅力があるのか、全く分からなかった。


 まぁ、やっぱり侯爵家というステータスよね。


 そんな事を考えながら歩いていれば、ガラスの割れる音がした。

 そちらの方に歩いていけば、エイドリアン様の叫ぶ声が聞こえて早足になる。部屋に着き入れば、ガラス戸が粉々になり、エイドリアン様がその破片を受けたのか額から血を流して立っていた。


 「っ!エイドリアン様、どうなさったのですか!?」


 私は騎士の合間を抜け彼に駆け寄った。

 

 「ミーシャ……いや、これくらいどうって事ない。それよりも、君たちはフロント子爵令嬢の部屋へ向かってくれ。彼らはそこに行く、1人残らず必ず捉えよ。まだ殺すなよ」

 

 騎士達がそれぞれ動く。私はエイドリアン様の額に触れて治癒魔法を使う。

 ……凄い、ユナリアとは比べ物にならない。彼女達があのチュリアナ王妃の血を継いでいることは間違いないみたいだ。


 「エイドリアン様……何が?」

 「ジェシカが、フロント子爵とともに逃げた。連れ戻さないと」


 逃げた?あの幼馴染だという男と?

 それは私にとって好都合ではないか。口元が緩むのを必死に隠した。


 「それは、ジェシカ妃殿下が犯罪者の逃亡に手を貸したという事ですか?……それはまた……妃殿下も思い切りましたね」

 「手を貸した者がいる。彼女の妹だ……」

 「まぁ、では、カルティアン侯爵家の者を捕えないとでは?」

 「あぁ、既に騎士には指示している」


 あの女も家ごと終わりね。これで、私があの女の代わりに正妃になれる。そんな淡い期待を胸に隠して私はエイドリアン様に寄り添った。


 「エイドリアン様……気を落としてはなりませんわ。犯罪者に手を貸すような人は正妃として相応しくはありません。けれど、それはエイドリアン様のせいではないですもの。子も産めないのです、ジェシカ妃殿下はあの者達と一緒に」

 「ジェシカを捕えて東の花屋敷に隔離する」


 処刑しましょう、私の声はエイドリアン様の思わぬ発言に消えた。

 東の花屋敷。王族達が家族、夫婦水入らずで過ごせる個人的な休息所だ。何代か前の王が愛する妃と2人だけで過ごしたいと作らせた屋敷。

 そこは護衛も侍女達も入れない特別な空間なのだ。当時の魔術師により、様々な結界が張り巡らされ王族以外が足を入れれば、即死に至るほど厳重に管理されている。噂では色取り取りの薔薇が咲き誇り、鉱石が散りばめられた家具や壁、噴水など、それらはとても豪華絢爛でロマンチックな雰囲気を醸し出しているという。


 本宮から少し遠いのもあってあまり使われていなかった。

 そんな特別な空間にあの女を住まわすのか。それほど、エイドリアン様はあの女が特別なのか。


 私に彼は言った。


 『ジェシカは政略結婚でただの家族だ。僕が愛しているのはミーシャだけだよ』


 それなのに、最近は彼の方があの女に執着している。もう子も産めない女なのに。

 憎い、彼女が非常に憎い。

 消えてしまえばいい。騒動に紛れて殺してしまおう。それか、もう一度呪いをかけようか。

 

 そうだ、生きている事が嫌になるほどの呪いをあの女に。


 エイドリアン様は渡さない。

 私だけを見てくれるまで、絶対に。


 

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