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21.チェリアナ王妃

戦いの描写が少し入ります。

苦手な方はご注意を。


 チェリアナ・ルームスは現王妃から遡り、7代前の王妃だ。今から200年近く前であり、彼女に関する逸話は今では物語のように語られている。


 輝く波打つシルバーブランドに、エメラルドグリーンの瞳、切長な瞳が意思の強さを表しているようだが、柔らかい微笑みによって切長な瞳も優しく見えたらしい。

 肖像画を見たことがあるが、とても綺麗で芯の強そうな女性であったと思う。


 そんなチェリアナ元王妃は、治癒魔法の使い手だったと記されている。


 当時、ユガーダリン帝国は多国との度重なる戦争で勝利を収めはしていたが、国費は底を付く手前、国民は疲弊して、国内部からの反乱寸前の状態であった。

 そこで、ユガーダリン皇帝は資源豊かなルームス王国に取引を持ちかけた。


 王になったばかりのルームス国のケニス王は、当時、荒れる周辺国との国政に頭を悩ましていた。豊かな鉱山と鉱石は他国からしたら、喉から手が出るほど欲しい物であり、どの国からいつ攻め込まれるか戦々恐々とした日々を送っていた。

 ケニス王自身、争いを好まず平和な世の中を望んでいたため、その当時の激しい情勢の中では、相応しい王であったとは言えず、そのため、内部からも圧力がかかっている状態でありケニス王自身、疲弊していた。


 そこで、ユガーダリン皇帝はルームス国の後ろ盾となり周辺国を牽制することと、美しい王女を差し出す代わりに、鉱石の優先的取引と関税の引き下げを願い出たのだ。ケニス王は喜んで取引に応じた。


 その王女がチェリアナ王妃だった。

 2人は政略結婚とはいえないほど仲睦まじい夫婦だったらしい。ケニス王は美しく慈悲に溢れるチェリアナを愛し、チェリアナも戦いを好んだ父であるユガーダリン皇帝とは真逆の性格であるケニス王を慕った。

 2人の王子と王女に恵まれ、これからもその幸せが続いていくと思われた。


 しかし、それを良しとしない人物がいた。ケニス王の腹違いの弟、ラントス・クリミードであった。彼の母は下級貴族出のメイドであり庶子として扱われていた。

 クリミード侯爵家に婿として入ったが、ラントスは虎視眈々と機会を伺い、クリミード侯爵もラントスを王に据え、自分が宰相となることを待ち望んだ。


 ある日、チェリアナ王妃が3人目の子を産んだ。王子だった。

 国と城がお祝いムードの中、油断していたケニス王をクリミード侯爵は2人の席を設けさせ、毒殺した。


 戦争も何も、争いを好まないケニス王を暗殺するのは容易かった。


 そして、第一王子は妹の王女を逃がそうと必死に抵抗したが、2人ともラントスに一振りに殺された。

 今か今かと待ち望み、幼い頃より暗殺のための剣を磨いていたラントスには敵わなかった。


 そして、最後にまだ小さい赤子を抱えたチェリアナ王妃の所へ、ラントスは赴いた。


 『もう、この子は死んでしまったわ。せめて、私の生まれた国へ帰して……手首を切り落とし、舌を抜けば何も下手なことは話せないし書けない。だから、国へ帰して』


 赤子は王妃の腕の中で、確かに事切れていた。


 ラントスは考えた。このまま王妃を殺せば、娘を殺されたと知ったユガーダリン皇帝が攻め込んでくる可能性がある。

 王妃は助けて、恩を売ろう。そうラントスは判断した。


 『分かった。ただし、お前は人質と同じ扱いだ』


 そうしてチェリアナ王妃は、赤子の亡骸は埋葬するために侍女へ預け、拘束された。


 だが、その油断がラントスの命取りになった。


 チェリアナは素早く拘束を解くと、訓練された騎士のような滑らかな動きでラントスの首を刎ねた。元は大帝国の王女、好戦派な父を持つ彼女の剣は熟練されており、それは簡単だった。


 次々とラントスの護衛達を殺していき、最後にクリミード侯爵の首を刎ねた。


 『私の愛する家族の恨み、ここに晴らす』


 そう吐き捨てて。


 彼女が立つその場所一帯は血の海で、シルバーの髪と白い肌を血糊で染め、凛と佇む姿は美しく恐ろしかったと伝えられている。

 その後、彼女はその剣の腕と圧倒的な人気と支持で国を立て直し、ケニスの血を引く親戚へ王位を譲った。


 隠居してから、彼女の姿を見たものはいなかった。



ーーーーーーーー



 「……っと、これがチェリアナ王妃の物語ですよね?」


 「ええ、私もそのように聞いているわ」


 チェリアナ王妃がいたからこそ、今のルームス国があると考えている。彼女ほど勇気と愛に溢れた女性はいないだろう。


 「ですが、平民の間ではまたちょっと違う物語として語り継がれています」


 「そうなの?」


 「はい。平民達の間では、治癒魔法が得意だったチェリアナ王妃が、実は死んでいなかった第2王子を治して、こっそり育てていた。そして、王子が成人後に王となり、幸せに暮らした、と語られています」


 「でも、死んでなかったなんてあり得るの?」


 「そこは何とも言えないですが……チェリアナ王妃が薬草に詳しかったことから、仮死状態を作っていたという説が強いですね」


 「そんなことが……」


 アマンダがアンナの説明に続けて言った。


 「その他にも、実はチェリアナ王妃が治癒魔法だけではなく、他の魔法も使えたのではないかとも言われています」


 「他の魔法?」


 「未だ実証されていない蘇生の魔法、ですね。あとは、魔力や生命力を吸収する魔法など」


 「蘇生の魔法は分かるとして、魔力や生命力を吸収するのはなぜかしら」


 「一説には、チェリアナ王妃が温室に育てていた植物へ魔力を流し生命力を与えていた事から、そのように言われています。生命力を与えられるなら逆も可能ではないかと言う事です」


 「自分の息子の生命力を吸収して、その後、戻したということ……?」


 「そのようです」


 知らなかった。平民の読み物は俗だからと禁止されていたから、別の物語として語られているとは。


 「まぁ、200年ほど前ですからね。どこかで尾ひれがついて見た目よく語られたなんてこともあり得ますよ」


 「そうね……。それで、ユナリアについてはどうなのかしら。やっぱり魔力を宿しているのかしら」


 「それなんですが、これを見てください」


 アンナが本を開く。そこにはウォルス領のユナリアについての説明と挿絵があった。

 髪の長い女性がミスイと似た花畑の前で微笑んでいる。外套が王族独自の刺繍がされているから、きっとチェリアナ王妃だろう。

 そして、育ちにくいユナリアを王妃が直接足を運びながら土地を選んでいき、ウォルス領に落ち着いたと記されてきた。


 「チェリアナ王妃が尽力した結果、ウォルス領の民達は生活できるようになったのね」


 本当に素敵な女性だ。チェリアナ王妃こそ、王族に相応しい妃だったのだろう。

 だが、それで終わりではない。


 「それで……アンナは何を導き出したの?」


 難しい顔で考え込むアンナに私は聞いた。


 「そうですね、もし、ユナリアの特徴である滋養強壮が魔力であり、それを吸収できる力を持っていたとしたら、治癒魔法として使えるんじゃないかって」


 「ウォルス領出身のミーシャ様が、自身の領地を窮地に陥れてまで?」


 「彼女の治癒魔法に違和感を感じたこと、温室でミスイの花の下で気を失ったことから、そう考えます」


 「温室はなぜ?」


 「あの日の彼女には魔力が少し残っていましたが、その性質がミスイととても似ていました。恐らくですが、ユナリアから吸収した魔力が少なくなり、ミスイの花から吸収しようとして、失敗したのではないかと」


 とても扱いづらい花だと王宮医が言っていた。


 「そしたら、ミーシャ様は……チェリアナ王妃の子孫ってことになるのかしら……?」


 恐る恐る口に出してみた。そうであれば、彼女は確実に王族は取り込まれるだろう。

 でも、それならわざわざ魔力を吸収しなくても、治癒魔法が使えるはずだけど……。


 「うーん、それが断言できませんが……」


 しばらく考えていたアンナが決意したように顔を上げた。


 「ジェシカ様、少しの間休暇を下さい。直接、ウォルス領へ行き、ユナリアの花を確かめてきます。一体、あそこで何があったのか……調べてきます」


 そう言って、アンナは1人ウォルス領へ向かったのだった。


 


 

 

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