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 朝食の席でのクレアはすこぶる機嫌が悪かった。パンをちぎる手つきからもよくわかる。お世辞にも賑やかとは言い難い三人だけの食卓が、さらに重苦しい空気をまとっていた。


「ラズウェルさまはともかく、わたくしまで参加する理由がないわ」

「同感ですね。リリアンをひとりで行かせるわけにはいきませんし、私は参加しますが……マーフィー嬢を連れていくつもりはありません」

「おふたりともどうしてそんなに消極的なんですか!」


 原因は、つい先ほどカインが持ってきた招待状のことである。


「婚約者同士なのですから、お兄さまがエスコートするのはクレアお姉さまであるべきです! それに、揃って社交の場に出れば、おふたりの仲睦まじい姿を周りに見せることだってできるでしょう?」

「わたくしたちの?」

「仲睦まじい姿?」


 クレアとラズウェルは顔を合わせて、同時に眉根を寄せた。


「ほら! そういうところですっ」

「これが仲良しに見えるならリリアン、あなたの目は腐ってるわ」

「寝不足なのではありませんか? 最近、本に夢中になって夜更かししているでしょう」

「お姉さま……お兄さままでっ!」


 もうっ、とリリアンの頬が膨れた。頬袋をパンパンにしたリスそっくりである。


「マーフィー嬢をエスコートするのはごめんですよ。だいたい、リリアンのパートナーがいなくなってしまうでしょう」

「その通りよ。わたくしも、ラズウェルさまにエスコートされるのはごめんだわ」

「どうしてそんなに息ぴったりなのに、仲が悪いんですか!?」


(ラズウェルさまがわたくしを殺すからよ)


 それに、言動に不審な点が多すぎる。


 魔物騒ぎで答えを聞きそびれてしまっているが、まず、カインの身分詐称の件をラズウェルがいつから知っていたのか。あのラズウェルが、クレアを殺すまでの半年、ギリギリまで知らなかったとは考えにくい。

 それから、リリアンにかけた魔物避けの魔法のことである。隠す必要性はなさそうなのに、ラズウェルはクレアを眠らせてまで話を逸らした。


 特に後者について、彼はきっとなにかを隠している。「あなたも知っているでしょう」とクレアを睨んだのには、絶対にわけがあるはずだ。


(まだなにか忘れていることがあるのかもしれないわ)


 死ぬ直前に言われたことすら思いだせなかったくらいだから、ほかにも記憶が欠如している可能性は十分にある。


 黙りこんだクレアになにを思ったのか、リリアンはうつむいた。


「おふたりの婚約が政略的なものだというのはわかっています。お兄さまがクレアお姉さまに不信感を抱いているのも、それゆえにクレアお姉さまがお兄さまを嫌がるのも、わかっています」


 手元のパンをちびちびとちぎりながら、口を尖らせる。


「でも、わたしはクレアお姉さまと仲直りできました。だからお兄さまも、お姉さまに意地悪な態度を取るのはやめてほしいですし、お姉さまも、お兄さまのことを許してあげてほしいです」

「リリアン……」


 さすがのラズウェルも、ここでリリアンに強く言うことはできないようである。


 たしかに、クレアとリリアンが本当に和解している以上、表向き、ラズウェルとの間にもわだかまりはなくなった。リリアンの言うとおりではある。


(でも、これだけは譲れないわ)


 クレアの目的は、半年後に生き延びること。


 しかしリリアンと必要以上に仲良くなる必要はないし、それは、ラズウェルについても同様である。ラズウェルの傍にいる以上は、半年を突破してもクレアが死ぬ可能性はなくならない。


(いつ殺されるかわからないのはいやよ)


 ほんの少しの意趣返しを含んで半年後を突破し、婚約を破棄する。これがクレアの考えているプランだ。


「ごちそうさま」


 クレアは早々に席を立った。「クレアお姉さま……」とリリアンが切ない声を出すが、無視。


「マーフィー嬢」


 そこで呼び止めたのはラズウェルだった。まさかリリアンの側に立って和解でも申し出てくるのかと、クレアは顔をしかめる。


「なにかしら」

「あとでお部屋にうかがいます」


 しかし、彼の目的は不明瞭なものだった。


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