結
「参謀、参謀よ!」
「はっ、お呼びですか魔王様」
「……」
「……お呼びではないのですか?」
「おぬし、本当にどこでも出てくるのだな」
「参謀ですので」
「全く免罪符になっとらんぞ。おぬし、ここがどこだかわかっておるのか?」
「いわゆるラブホテルと認識しておりますが。勇者はどうやらシャワーを浴びているようですね」
「うむ、そしてわしはベッドの上……じゃなーい!」
「どうしたんですか、急に怒り出して」
「わしは謁見の間で勇者と話しておった、それは知っておるのか?」
「見ていましたからね」
「そして先日話した通り、勇者は花束を持ってきてわしを口説き始めた。わしもまんざらではなくて、少しずついい雰囲気になっておった」
「そうですね、見てるこっちがこっ恥ずかしくなるほど青春でした。あなたたち自分が何歳だと思ってるんですか?」
「相変わらずの辛辣さ……だが、そこまでは普通だったはずじゃ。そこでわしと勇者は、『まずはお友達から始めましょう』という話になったわけだ」
「いい話ではないですか」
「問題は、そこからだ」
「何が起きてこんないかがわしい施設に入ることになったのです?」
「おい」
「友達は友達でもセフレでしたー、とかそんなノリですか?」
「おい参謀!」
「どうしたんですか、そんな隠してたテストの解答用紙を見つけた母親みたいな顔をして」
「だから例えが下手すぎる! あとここに連れてきたのは貴様だろうっ!?」
「えー、そんなー、濡れ衣ですよー」
「勇者と話しておったわしは、突如見知らぬ部屋に転移させられた! わしらほどの力を持つ者を一瞬で転移させる力など、おぬししか持っておらんだろう!」
「状況証拠だけではないですか」
「いいやまだあるぞ。壁に貼られたあの紙を見てみよ!」
「あー、確かに何か貼ってありますね」
「読み上げてみるがよい!」
「うーん、すいません、目が悪いんでよく見えないんです」
「下手な嘘じゃなぁ!? わかった、それではわしが読み上げよう。あそこには、その、セ……セ……せっふふをしなければ出られない部屋と書いてある!」
「魔王様、よく聞こえませんでした。もう一度おっしゃっていただけませんか?」
「ぐ……だから、あれじゃ。セッ、せっふふんをしなければ出られない部屋と書いてあるんじゃ!」
「すいません聞こえません」
「いやおぬし聞こえておるじゃろ!?」
「きこえませーん」
「ぐぬぬ……もうよい、わしが言う! その、セ……セックスをしなければ出られない部屋と書いてあるのだっ!」
「へー、セックス……へえぇ……」
「な、なにをニヤニヤしておるっ!」
「いえいえ、わたくしはいつもこういう顔ですので。別に、決して、顔を真っ赤にして恥ずかしがってる魔王様をオカズにして白米をかきこんでいるわけではありませんよ?」
「どこから持ってきたんじゃその白米!? まあとにかく、こんなことをするのも、できるのも、参謀、おぬししかおらん!」
「でしたらお聞きしますが魔王様!」
「おおう……いきなり強気で来たな」
「もしわたくしがここに連れてこなければ、本日はどのように勇者と過ごす予定でしたか!?」
「それは、もちろん友達として会話をして、親睦を深めておっただろうな」
「次のステップに進むのはいつ頃のつもりだったのです?」
「次のステップ? というと……手を繋ぐ、とかか? それはまだまだ先の話だ、そうじゃな……10回ぐらいは合わんとそこまでは許せぬな」
「なら次のステップは?」
「さらに次のステップだと!? い、急ぎすぎではないか……? そんなものは、追々考えていけば……」
「……」
「なんじゃその目は、めっちゃ怖いぞ!? 魔王であるわしですら恐れをなすぞ!? わ、わかった、予定は立てておいてもよかろう。そうじゃな……手を繋いだら、次はデートか。デートは、まあ、3年ぐらい親睦を深めたら許してもよいだろうな」
「……魔王様、キスはいつするつもりで?」
「きしゅぅっ!? そ、そそそ、そんな卑猥な真似、そうやすやすと許せるはずがなかろうっ! 最低でも……10年は必要だ」
「でしたらセックスは?」
「おぬしー! さっきからその言葉を簡単に発するではない! そういうのは、こう、恋人を通り越して夫婦になったあとにするべき行為であってだな……」
「魔王様と勇者が恋仲になれば丸く収まるという話をしたはずですが」
「だからそれにはステップが必要だと言っておるのだ!」
「魔王様……」
「なんじゃ?」
「はぁ……はあぁ……」
「ため息を二度もつくでないっ! わしが何をしたと言うのだ!」
「その調子では、わたくしがフォローしなければ一生かかっても勇者と恋仲にはなれませんね」
「そんなことはないっ、手を繋げば立派な恋人と言ってもいいはずだ。つまりあと10回の逢瀬を繰り返せば、わしと勇者は立派な恋仲になり、世界は平定されるのだ!」
「はっ」
「鼻で笑われたぁっ!?」
「魔王様は現実を知る必要があります。第一、魔王様はこの部屋からどうやって出るつもりだったのですか? 勇者がシャワーを浴びている時点で、そういった覚悟はできていたはずです!」
「いや、勇者は扉を壊す前に体をほぐしておきたいと言っていたからな、それでシャワーを浴びているだけだぞ?」
「信じたんですかそれを!? やっぱりちょろすぎる……」
「ちょろくはないっ! 二人で力を合わせれば、必ず脱出できるはずだ!」
「無理ですよ」
「なぜ言い切れる」
「わたくしがとびきり頑丈に作った部屋ですので、さすがに魔王様と勇者の二人でも不可能です」
「えっ、何者なのおぬし……というかしれっと自白した……?」
「いいですか魔王様、すでに勇者は魔王様とヤる気満々なのです!」
「何をやるんじゃ?」
「それはもう、セッ」
「セッ!?」
「そうです、セッ」
「そ、そんなの、手もつないでいないのに許されるわけがなかろうっ! それに勇者は、誠実に、健全にわしと付き合ってくれると言っていたぞ!?」
「ならばシャワールームから聞こえてくるこの歌はどう説明するのです?」
「歌……?」
『ふっふふーん、まずは魔王ちゃんの胸を揉み、舐めてしゃぶってのっけぞらせー♪ そこからつつっと下へ行き、足をがばっと開かせてー、××したら○○でー、そのあと■■■するーっ♪』
「聞きましたか、完全にやばいやつですよあれ! わたくしですらも焦るほどに!」
「半分以上単語が理解できんかった……」
「勇者はこの部屋に閉じ込められた時点で、すでにそのつもりだったのです。もはや逃げられません」
「そんな……健全にと言っておったのに、勇者はわしを裏切ったのか……?」
「違います、魔王様」
「どう違うと言うのだ!」
「あいつは脳内が爛れすぎて、あれでも健全なつもりなのです」
「根っこから腐っておる!?」
「なので本気で、誠実に魔王様と向き合っていると思い込んでいます」
「魔王であるわしよりよっぽど恐ろしいではないかー!」
「というか魔王様がしょぼすぎるだけかと……」
「おい忠誠心!」
「そう言われましても、ぶっちゃけさほど忠誠も誓ってませんし……」
「ならなぜわしの参謀などやっておるのだ。ほんとわけのわからぬやつだなおぬしは」
「女はミステリアスな方がいいと言うではないですか」
「それもよくわからぬ、元おった異世界の話であろう?」
「いい女の条件は万世界共通、いずれ魔王様もわたくしのような謎多き女の魅力がわかるようになる時がくるでしょう」
「こんでよい」
「というわけで魔王様、わたくしはこのまま魔王城に帰らせていただこうと思います」
「はっ? いやいや、おぬしが作った部屋だというのなら脱出させぬか!」
「ですがわたくしとしては、魔王様と勇者の関係が一気に進展した方がおいしいわけで」
「馬鹿かおぬしはっ! 進展するにしても限度というものがあるじゃろう! せめてっ、せめてキスをしたら出られる部屋に変えんか!」
「えー、つまんないじゃないですかー。やっぱりいくところまでいって、魔王様の羞恥心が限界を突破するところを見たいというか」
「この参謀ちょっと邪悪すぎる!」
「というわけで、頑張ってくださいね魔王様ー」
「あぁーっ、待て、待つのだ参謀よっ! いきなりそんなの無理じゃ、無理じゃから! おぬしが助けぬのなら四天王でもよいぞっ、シルフィードっ!」
「彼なら自室で魔王様等身大フィギュアに鞭を振るっているので来ませんよ」
「いつの間に作ったのそれ!? ならばフェンリルっ、貴様の牙でこの部屋の壁を砕くのだ!」
「彼は等身大魔王様抱きまくらの上下を逆にして、太ももあたりに顔を埋めながら幸せに寝ています」
「グッズの展開が早すぎる! ならばニーズヘッグはどうだ!」
「魔王様の尻模型をテーブルの上に置いてひたすら撫でてます」
「それもうわしである必要なくない!? で、であればイグニスはどうだっ。ここで助けに来てくれば、一度だけならママプレイに付き合ってやらんでもないぞ!」
「あの人なら“ママ”としての人格を植え付けた魔王様型ゴーレムと幸せな時間を過ごしています」
「おぬしとんでもないもの勝手に作っておるな!?」
「というわけでわたくしはそろそろ行きますので、それではー」
「ああもうっ、それなら誰でもいい、どうか助けてくれぇぇぇぇぇえっ!」
「あれー、魔王ったらいきなり叫んじゃってどうしたの?」
「ゆ、勇者……シャワーは終わったのか?」
「うん、おかげでいい具合にほぐれたよ」
「それでは次はわしが……ひゃあっ!? な、何をする、わしもシャワーを……っ」
「いいよそんなの、もう私、我慢できないから」
「いや待って、それはあまりにいきなりすぎる……うひぃっ、そんなところ!? そこから行くの!? いやそこそういう目的で使うところでは……ええぇっ、しかもそんなものを使うのか!? おかしいじゃろそれ、神もそういう目的でおぬしに力を与えたわけではないぞ勇者よ! 参謀っ、参謀よ、見ておるなら止めるのだっ、こやつやばいぞっ、おぬしが思っている以上にやば……んぐっ!?」
「こんなときに他の女の名前を呼ぶなんて野暮だよ、魔王」
「んうぅっ、んぐ、んうぅぅぅぅぅぅううっ!」
◇◇◇
その後なんだかんだあって魔王と勇者は結婚し、世界は平和になった。
すっかり躾けられた魔王と主導権を握った勇者の二人は、末永く幸せに暮らしたそうだ。
一方で参謀はこっそり魔王様ファンクラブを結成し、四天王を中心に隠し撮りした写真などで荒稼ぎして一財を成すも、最終的に全て魔王に没収されたと言う。
世界の全ては百合に収束する。
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