82話目
82話目です
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高校生にとってのビックイベントである文化祭が終わった。
一年生にとっては、次のイベントはクリスマスだろうか。そして三年生にとっては念頭にあるのは受験だろうか。
去年の俺はもうこの時期ともなれば、いい加減まともに友達が作れない事をきちんと受け入れていて、クリスマス辺りでは値引きされたゲームや新作を楽しみまくっていた思い出がある。
だが、三年生は分からない。未来の俺の事など、今の俺には分かる筈もない。
どんなに複雑な計算式を使おうが、どんなに歴史を学ぼうが、知っているのは未来の俺しかいない。そう考えると授業へのやる気は無くなってしまう。
しかし、例え未来を知らない今の俺でも、行動を起こせば将来の俺を大まかな道筋へと導くことは出来るのではないだろうか。
それをするには遅すぎるのかもしれないが、だからと言って選択肢が全て潰された訳ではない。
少なくとも一本道ではないはず。
あの部活を辞める、そんな道がそこにはきっと残されている。
一年生と三年生は文化祭が終わると、冬に入るまでは勉強がしばらく待っている。
文化祭が大盛況で成功したと言う事もあってか、反動に勉強の方には気分が乗らないのがほとんどだろう。
しかし、二年生は違った。
すぐ近くには修学旅行が控え、そのための準備もこれまでにしてきた。
そして固まっていくグループ班での行く先だったりするものが、新しいイベントが備えているという事を教えてくれて、この階だけ意識すると妙にうるさい気すらした。
そして日付は過ぎていき、あっという間にもう修学旅行は当日へと数字を変えた。
何度も関西に行っているであろう家族からお土産を頼まれ、それと矢波先輩達からも合格祈願のお守りを買ってきてと頼まれてしまっていた。
あと、山中と一からも適当に頼まれていた。
残されてしまう冬花ちゃんのため、付きっきりで二人が冬花ちゃんを寂しくさせないよう部室に顔を出してくれる事となり、お土産はその給料として渡さなければならない。
その依頼は俺個人で頼んだものであり、城戸さんの執事さんも城戸さんに頼まれそこに付けてくれるらしく、これで防御は万全と安心して修学旅行へ行けた。
にしても、はたしてお守りって他人が買っても効果があるものなのだろうか。
先輩たちの身内ならともかく、俺はそういうわけではない。…まぁ、流石に二人も何も調べずに俺にお願いした訳ではないのだろう。
最悪、今の時代は携帯がある。俺らの一番の先生であるグーグルに頼れば一瞬にして解決することだろう。
古からの言い伝えでさえ、最新がほとんど知り尽くしている。
なんだったら、俺を悩ます退部の疑問もそこら辺に投稿して聞いてみる手段もある。ろくなものが来なさそう。
…そんなことを思い立ってしまうぐらいに、部活を辞める算段も計画も何も考え付かない。
いや、そもそもの話。
部活を辞めるのにそんな作戦とかを練る必要があるのだろうか。単に、真正面から退部届けを渡すだけではダメなのだろうか。
今まで見てきた主人公の中にはあらゆる問題をいとも容易く解くのが多くいた。新崎も、多分その枠の中に入っているはずだ。文化祭も体育祭も彼は、期待という人から押し付けられる一方的で理不尽な問題を何とかしてきた。
だと言うのに、それがこっちの相手になるとどうしてこうも悩んでしまう存在になるのだろうか。あっちは楽して終わらすのに、こっちは複雑に頭を使わせる。
やり方は明白に出ているというのに、実行に移せない事が余計に焦燥感を駆り立ててくる。頭の中で完璧な構図を作り上げても、それは俺が願う最良の答えの積み重ねでしかない。
最悪を前提にしたとしてもその線の横に並ぶ思いもしない不意や突飛に阻まれる事は見えていた。
だから、また頭を捻る。
そんなことに時間を掛けていたら、いつの間にやら目的地の京都へと到着してしまっていた。
初日はクラスずつで寄る場所を決めており、俺らのクラスが最初に行く場所は京都府内ではなく足を伸ばして奈良へと外れる。
また長い時間乗り物に揺らされ、そして東大寺へと無事に辿り着く。
ガイドさんに先導されるがままにバスから降りて、説明を受けたりシカにせんべいをあげなから階段を踏み、中へと入る。
やはり、有名な場所ということもあってか国外からのお客や制服姿もちらほら見掛ける。
歩いていると自然と元のクラスでの人間関係で小さな集団が出来ていき、俺の傍にも新崎達が当たり前のようにして並び立ち、どうすることも出来ずにそのまま進む。
「すごいなー…!」
でんと構える巨大な大仏を見上げ、呆然と驚きを呟く。
城戸さんもその隣で似たようなことを口を半開きにして繰り返していた。
まぁ、歴史に興味が無いのならば出てくる言葉は限られてしまう。俺も、特になにか得意気に語れるような知識があるわけでも無し。
なんだったら、さっきまでの道のりの景色とかシカの方が盛り上がっていたかもしれない。
三人とも感嘆の言葉を漏らしてそれを見上げることしかできない。
だが、それだけでも案外楽しかったりもする。
こういう場所はテレビなんかでもかなり頻繁に放送されている場所だろうが、所詮俺の目に写るのはテレビの画面を通してが全て。
その画面のサイズが小さければ写る物も小さく、いまいち本物の壮大さは想像はしにくい。
実際に何のナレーションも画面の切り替えも無いままに自分の瞳でそのままを見れば、圧巻されてしまう物である。
大仏を真ん中にしてガイドさんがぐるりと回り、その度にすごいなーとか大きいなーとか所々に聞こえていたが、それが終わればもう話すことがなくなる。
回りきるとガイドさんが「自由時間です!」と元気よく言い残して去っていく。
だが、高校生はそう簡単に逃がしてはくれない。
話し相手として数人の女子生徒がキャッキャしながらガイドさんを囲んで付いていっていた。
新崎と城戸さんが顔を見合わせ、これからどうするかと口に出さずに思案し始める。
と、新崎がポンと拳を手に乗せた。
「…そうだ。近くにお土産あったよな」
「行きますの?」
「ま、今買うかどうかは後にして、見るだけでも良いだろ?」
「えぇ、陽斗に付いていきますわ」
日本を代表する観光地でもあるここいらならば、お土産屋なら無数にあるものだろう。
中には似たような商品もあるし、確かに急いて買う必要はない。せんとくんとかどこにでもむっちゃありそう。
新崎達の中で話が決まり、なにも喋らなかった俺へとどうするかと視線が向く。
「あー…お守り、頼まれてたから」
「おう、そうか。外行ってるから後でな」
「…あぁ」
丁度良い言い訳が出てきてくれた。
意識しなくとも、自然と全てを見ようとすればお守りを売っている場所も視界に入ってくる。
頷くと、城戸さんと新崎が並んで境内から出ていく。
二人を見送って、寺の入り口傍のそこへと歩く。
無意識の内に歩調が遅くなり、買うべきお守りも分かっている筈なのに時間を掛けて一個一個を眺めていく。
学問の神様と言われる名前を忘れたあの人が祀られているという北野天満宮は、城戸さんの神社よりも食べ物が食べたいという欲求によって寄ることは予定に入れられなくなってしまった。
まぁ、神様とか未知の存在に言われるよりもお母さんぐらいの方に言われた方が効果はあるし、早めに買っても荷物的にも邪魔にはならないだろう。
東大寺、別にお母さんでもなんでもないけど。
妹は受験にしてはまだ遠い。
せっかくならここで買っておこうと合格祈願のお守りに手を伸ばし、ついでに近くの身体健康を手に取った。
紙袋に手際よく包んでもらい、代金を払って買ったものを鞄に突っ込む。
早々にして目的は達成できたが、素直に新崎たちの元へ行く気にはなれない。
東大寺からこそ離れはするが、お土産屋に近寄ることなく適当にシカと仲良くたわむれることにした。
やはりこういう場所の動物は人に思いっきり慣れまくっているらしく、傍に寄るだけでお?餌くれんの?みたいな感じであっちからぐいぐい寄ってくる。
が、俺がせんべいも何も持っていないことを察するとなんだよ持ってないのかよ…みたいな感じで違う人に突撃していった。
こうも素直に欲求を出せる辺り、シカってもしかして人間よりも段違いに優れているんじゃなかろうか。
こっちもそうしてくれると変に腹の読み合いもしなくて済むし、何より瞳を何の気なく見ることが出来た。
俺の運命の相手はシカなのかもしれない…。
ちょっとしたアニマルセラピーを楽しみ、これからどうようかと突っ立って考え込む。
辺りの散策を含めてか、約3時間近くもここにバスを置いている。お昼も、各自で取ってくれと頼まれていた。
辺りを見渡せば、同じような制服は大抵、先程、自然形成されていた数人で動いている。よく見れば、違う制服もそんな感じ。
それを崩さずに東大寺から離れ、並び立つ土産屋や食事処に向かっていた。
まぁ、流石にシカと寺だけで3時間は厳しい。
俺も一人でぷらぷら道へと出る。見知らぬ土地で恐怖もあるが、それは未知の探検をする時に湧く、子供のようなワクワクが抑えてくれた。
何より、こういう観光地はちゃんと迷わないよう考えてくれているらしく、あちこちにマップやら辺りを示した看板が立っている。
それさえ確認しておけば問題はない。
季節的に、東大寺や店を囲む木々は紅葉へと成っていて、歩く道にもまるで誘導灯のように落ちた葉が敷き詰められていた。
誘われるがままに見知らぬ地を踏み、ぶらりぶらりと時間を潰していく。
道中、同じ制服が視界に入ってくれば、ここまでは大丈夫なのだと安心感のようなものが湧き、なのに足は安心を離れてより遠くを目指していく。
しばらくすると足が疲れはじめ、適当に見掛けた甘味処で、お昼も兼ねていくつか頼んだ内のみたらしだんごを外に置いてある赤い敷物が覆った長椅子でもぐもぐほうばる。制服の一人客は案外珍しく無いらしく、店主らしいおばちゃんもなにか気にするようなことなくお辞儀をして店に戻っていってくれた。
「……」
長ったらしく一人でいるのだが、よくいる主人公のように昔会った女の子との再会なんて物は起こらない。
俺の交友関係なんて所詮、そんなものでしかない。
…だから、新崎達の部活を辞めることに躊躇いが生まれるのだ。数少ない物を壊さないようにと、大事に護ろうとしている。
主人公のハーレムや妙におだててくる友人達をバカにしているくせして、それすら持っていないのだから滑稽にも程がある。
だから、手に入れるために言い訳を作り、時間稼ぎをして、小さく持ってしまった繋がりが一番の壁となって立ち塞がってしまう。
自業自得の惨めな思いを噛み潰した団子と一緒に呑み込んで、ボーッと呆けるように地面を見つめる。
澄みきった空を見上げて感傷の呟きを漏らすなんて粋なこと、俺がしていい訳がない。
遠く、近づけるかも分からない何処かではなく、踏むことの出来る現実と相容れなくては意味がないのだ。
と、突然制服のズボンが揺れだし、取ればスマホがブルブル震えていた。
画面上に表示されているのは新崎という文字。
メールではなく電話。
ここで無視しても良いが、それで行方不明だなんだと大きく勘違いされても困る。
スマホを耳に当てると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
『お、灯。今どこだ?これから三人で昼、食いに行かないか?』
『…ん、いや。適当にフラつくから』
『おう、そうか。…ん、夏?どうした。…うぉっ』
驚いたような声が聞こえ、ノイズのような物が小さく走ったあとに耳に届く声が急に城戸さんへと変わる。
携帯が城戸さんの手に渡ったらしい。
何故かその声はひそひそと囁くような小ささだった。
『…灯、相談なんですけれども…』
『…はぁ』
『じ、実はですね…わたくしなりに色々陽斗を落とすとびきりの作戦を考えていまして…ですから…』
その先の言葉は言わなくても察する。作戦のために新崎に見つからないように、加えて俺から見かけても声を掛けないようにして欲しいということなのだろう。
だが、まぁ直接来ないでと伝えるのもアレ。いや、遠回しでも多分傷つく場合もあると思うけど。むしろ、遠回しのほうが色々親切が感じられて辛い。
しかし、今の俺にとってはこれはありがたい話。断る必要はない。
分かりましたと返すと、『ありがとうごさいますわ』とお礼を言われ、繋がっていた電話がぷつりと切れる。
用がなくなったスマホをまたポケットに突っ込み、ついでにあんこの乗ったお団子も口に突っ込んだ。
にしても、せっかくこんな雰囲気のある場所まで来たのだ。偶然一人の美少女とかと出会っても良いと思うんですよ…。
それが後に五つ子と発覚して家庭教師とかになれると凄いありがたい。…なれないの?
奈良だからいないだけかもしれない。京都に行ってもう一度この状況を作り直せばいける。…いけないの?
懐かしの人にこそ会えないのならば、いずれ懐かしい人になる出会いを求めてみたが、起こる気配は微塵も無かった。
とりあえず、家庭教師になるにせよならないにせよ、せっかくの修学旅行で尚且つ一人なのだ。
見聞を広めるためにも、と最後のお団子を喉に流して、癒えた足をまた働かせに長椅子を立ち上がった。
ふらふらとさ迷うように、ともすれば導かれるように観光していると、スマホの時間がもうそろそろ帰った方が良いことを数字で伝えてくる。
ちょっとしたスタンプラリーのようにしてあちこちに置かれたマップを確認しながら、時々、スマホのマップも使ったりして東大寺の駐車場に止められたバスへと辿り着く。
まだ俺の隣の顔見知り以下の女子は帰ってきて無いらしく、変な気まずい声かけもせずに、自分の座席に腰かけた。向かいの椅子の女子と会話とかしてるときに声掛けるの気まずくて怖いんですよね…。
ほとんど立ちっぱなしでいたからか、少し疲れたような吐息が漏れる。
他の人の会話を背景音にして窓の外へと視線を運んでみると、丁度新崎達が帰ってくる。二人並んで歩きながら、バスへと乗り込んでくる姿が見えた。特になにか買ったものが手に見えないと言うことは、お土産屋はただ見るだけで終わったのだろう。
俺の目の前の列にある自分の席に向かっていた新崎が、真っ先に俺に気づく。
「おっ、灯。もう帰ってたんだな」
「ついさっきだけどな」
「そうか。夏、奥だから先」
「えぇ」
新崎が狭い通路で身体を横に向け、空いたスペースを城戸さんが通って窓際の席に腰を落とす。追って新崎もその隣の席に座った。
と、城戸さんの座席と窓の小さな隙間でなにかがぱたぱたしており、目を凝らしてみれば城戸さんがちょこっと顔を覗かせて俺を手招きで呼んでいた。
近づくと、ひそひそとピンクの唇が動き出す。
「仁田、お願いを聞いてくれてありがとうごさいましたわ…」
「…まぁ、どうも」
「ですが…その…結果については…実に陽斗らしい対応というか…」
「…そうですか」
と、流石に城戸さんが椅子の手すりに向かって何やら話しているのは新崎も気づかないわけがなく、きょとんとした声が聞こえてきた。
「ん?夏?なにしてんだ?」
「ひゃい!…こほん。い、いえちょっと落とし物を…」
「俺も手伝おうか?」
「いや…!もう拾いましたから…仁田…それでは…」
覗いていた城戸さんの顔がきゅっと引っ込み、少しして新崎のはてなの付く会話にうふふと気まずげに笑う声が聞こえ始める。
俺も窓際に寄せていた顔を後ろに戻し、ちゃっかり帰ってきていたお隣の女子に変な目で見られながらも、咳払い一つで何とか切り抜ける。
いや、明らかに切り抜けられてはいなかったが、タイミング良く向かいのお友だちがその女子に話を振ってくれたお陰でそちらに顔が向いて何とかなった。
続々とその後もうちのクラスの生徒達が話ながら、騒ぎながら、ちょっとした追いかけっこみたいな事もしながら乗ってきて、その様子から見れば修学旅行はだいぶ盛り上がっているらしい。
お菓子の受け渡しも頻発し、流れからか無関係な俺にも流れてきたりして、それはつまり元の関係が砕けるほどにということなのだろう。
もしくは、主人公がいるからだろうか。
文化祭の打ち上げみたいな空気もあるのかもしれない。
最後に何処に行っていたのか、気だるげな担任があくび混じりに乗り込んでやる気のない点呼をし、バスガイドと運転手に整ったことを伝える。
すると、ゆっくりとタイヤが回り始め、バスが発車する。
お団子が思っていたよりも腹持ちが良いのか、逆に腹が空いて力が出ないのか分からないが、ゆらゆらバスに揺られていると眠気がふと込み上げてくる。
元の予定である京都を目指して、しばらくは長いバス旅になることだろう。
眠気に抗う事なく、椅子にもたれ、瞼が下ちていくのをそのままにする。




