三十八話目
三十八話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
ステージの方から聞こえてくる大音量の曲、何に使うか分からない機材がガシャガシャと奥に運ばれていく音、スタッフさんや他の参加者の声。
色々な音が俺を包んだが、城戸さんの似合っている、その言葉だけは他の騒音にかき消されることもなくそのままに耳に入ってきた。
主人公っぽく語ろうと思ったけど、無理だなこれ、主人公語彙力すげぇや。
……ほんの少し前にも似合っていると矢波先輩から言われていたが、また別の人から言われると、その反応もまた、変わってしまう。
これが主人公だったならもっと無難な返しが出来ていたのだろうが、当たり前ながら俺は主人公じゃない、無難な返しもできないしいちいち何かしら端から見ても分かるようなリアクションを取るわけじゃない。
まぁ…別に効果抜群とはいっても別にトゥンク…的な感じで恋には落ちないし、むしろそういうことをするから世の男の子は間違えて誤爆するからやめてほしいと思うぐらい。
「…ふぁぁ」
不意に欠伸が漏れる。
一瞬だけ城戸さんの言葉にドキッとしていた自分がいたが冷静に考えるとやっぱりただただ誉めただけだし、
何か後の物語の伏線とかそう意味があっての言葉ではないだろう。
…それよりも、だ
ちゃっかり消えている冬花ちゃんと缶ジュース2本が
個人的には気になる。
冬花ちゃんは別のどこかにいるのかもしれないが、俺が冬花ちゃんとのラブラブ写真(想像)を手にいれようと考え込んでいる間に何故か手元から消えていた缶ジュース達、スマホを取り出した際に左手にまとめて持っていたことは覚えているのだが、今となってはその缶ジュース達は完璧に消えてしまっている。
事件ですよ…これは。
もしかしたらこの消えた2本の缶ジュースが以外にも新崎達の周りで起こるとんでもない事件を解決するとかそういうあれですよこれは…
「うぅむ…」
ラブコメ物からいきなりろくに読んだこともない推理物に変わったんじゃないかと思い適当に考えている感じを出してみる。
今ここで犯人はこの開場内にいる、とか言っても人が多すぎるし八つ当たりか何かにしか思われないと思うので、ウンウン言うだけで留めておく。
「どしたの唸って…」
「え、あぁ…どうも」
見られてたことに少し照れながら顔を上げると矢波先輩が若干目を細めてこちらを見ていた。
そして着ている服は
当たり前ではあるがドレスである。
だが城戸さん達とは違いウェデイングドレスな感じである。
他の人は舞踏会的なところで着てそうな感じではあったがこの人に関してはどこをどうう見ても結婚式で着るそれ。
フリルとかすっごい付いてるし他にはない花の装飾とかあるし。
ズルズルとドレスの裾を引きずりながらこちらに歩いてくる、どっかで聞いた話では、裾が長いと気品があるらしいとかなんとか。
ま、別に引きずってないと気品が無いとかそういうことじゃないんだろうけど。
「何かちょっと違いません?」
「え?あぁこれ?僕も違うんじゃないかなぁーとは思ったんだけど、君にはこれしかないって熱弁されちゃって」
先輩それ誉められてないです。
そう言おうとも思ったが、
多分この人のことだから
分かった上でわざとこんな事を言っているはず、理由は知らないけど。
「で、僕に言うことがあるんじゃないないかな?」
動きずらそうゆっくりとではあるがクルっと回ってみせる矢波先輩。
ドレスからフワリと甘い匂いが広がる。
「そういうのは新崎に聞いた方がいいと思いますよ」
あいつなら細かい装飾とかどこどう似合っているのかとかが全部事細かに教えてくれると思う。
「えぇ~僕はにーにゃんのそのタキシード、似合ってるって言ったじゃーん」
「言ってほしいなんて言ってませんよ…」
「女の子はおめかししたら誉められたいもんなんだよ、だからさ、ね?」
「…嫌ですって、ていうかそんなことより、この人」
「……………ぁ…」
話をずらし、隣であうあう言う回数が減っていってる気がする桜丘先輩をどうにかしてください、と目で訴える。
「はぁ…春がこうなったらもう放置しかないんじゃないかな」
「えぇ…」
「だいじょーぶ、いざとなったら迷惑かけたくないからーって勝手に動くから」
少年マンガにありそうな展開で動くのね。
「じゃあ…まぁ、出番までどうします?って、先輩知ってますか?」
消えた缶ジュース事件なんて無かった。
「うん、着替えてるときにスタッフの人からね、最後でしょ?」
「えぇ、先輩のせいで」
「む、何その言い方ぁ~」
「事実ですし…」
「先輩には気を使うべきだと思うんだけどなぁ」
「それ以前に後輩には優しくしてくださいよ」
実際このイベントに参加する原因となったのはこの人だし、何処かに消えたジュース奢らされたりした訳だし。
「今思うと結構先輩に迷惑かけられてますね俺…」
「あぁ、何かごめんね」
「あ…はい、すいません…」
素直に謝られてまごついてしまう。
何で俺も謝ってんだ…
「そ、それよりどうします、時間まで」
今始まったばかりで、周りには自分達の他に4組か5組はいる、
1組数分だとしても、最後となると二、三十分ぐらいは暇なんじゃないだろうか。
先程、手に持っていたスマホも、スタッフさんがいる横のテーブルに置かれている篭に入れられているし、時間を潰す方法がない。
こういう場合、男の方が話を振った方が良いって、高校デビューを目論んで一年の頃に読んだ雑誌に書いてあった。
でもあれは最低スペックがあっての話だよなぁ…
この人は自分から新崎に大勢の前で大声で話しかけるほどの勇気の持ち主、コミュニケーション能力だけなら多分サイヤ人並の戦闘力持ってるんじゃないの。
そんな人に話しかけるぐらいなら、多分待っていた方が、勝手に話しかけてくれるだろうし、そっちの方が色々気まずくなることはないし、安全だと思う。
「あ…じゃあ」
「何でしょう?」
少し食い気味に反応してしまってたが矢波先輩は気にすることなく続ける。
「あぁ、うん、春を今のうちにステージ近くに運んでおこうかとね、手伝ってもらえるかな」
「え、でも動くんですよね?」
チラリと桜丘先輩に目線を向ける、もう何も言わなくなった。
「一応動きはするけど遅いんだよね、運んでおいた方が確実だと思うし」
「そう…なんですか」
「それにほら~いざ春が動かなかったら、僕とにーにゃんの二人で出ることになるかもしれないじゃん、それって ちょっとした結婚式みたいだし~」
ニヤリと笑う矢波先輩。
「うぶなリアクションなら新崎にお求めください…ほんとに」
「…そっかぁ、ま、いいや、じゃあ春運ぼっか」
「えぇ…すいませんね…」
城戸さん然り、主人公が近くにいる上で、何故俺を誉めるのだろうか、別に誉められるのが嫌というわけではないけど、そんなことしたってさほど得もしないはず、前に俺経由で新崎を落とすんじゃないかとも考えてはいたのだが、この人クラスのコミュ力なら素直に話しかければそれだけでもいい気がする。
「……その」
「ん?」
「あ、いやこれ俺…」
目の前の桜丘先輩を運ぼうとしたが女子に触ってこれ大丈夫なんだろうか。
最近では見るだけで痴漢扱いされるとかとか、そんなのも聞いたことがあるし、触ってしまったらお金とか要求されるんじゃないだろうか。そして言いふらされたくなかったら…的な脅しになってより酷いことに…
「にーにゃん!?汗が凄いけどどうしたの!?」
「…先輩、これ触ったら訴えられるとかないですよね…」
「…いや無いって、今の場合は僕が頼んでるんだし」
「良かった…」
安心して桜丘先輩の肩に触れようとしたが、桜丘先輩のドレス、肩が出ている。
不安になり先輩に目線を送るとめんどくさそうに
「はぁ、僕が運ぶよ…」
そう言って、桜丘先輩の背中をグイグイ押して行った。
少々罪悪感に苛まれたが、本当の罪に問われなかっただけいいと思う。
自分に言い訳をしてドンドン進んでいっている先輩達を追いかける。
この時、まさか俺たちがステージの上でとんでもない事件に巻き込まれるなんて…的なことが起きないことを一応なんとなくで祈っておく。
途中からこっちがどういう状態かを分かってくれたスタッフさんに誘導されたりしてステージ間近まで来た、
さっきの移動中に見たが、今は新崎達の番でありステージ上で楽しそうに、だけどもドレスにちゃんと目が向くように歩いている。
特に城戸さんは家が家だからか、こういうのを着ることも多いのだろう、他の新崎と笠木さんに比べ、段違いである。
「はぇーすっごいね~陽斗くん達」
「…えぇ」
主人公の周りにはやはり、それ相応の何かしらを、持っている人が集まる。
何事も諦めが肝心だ、今大事なのは、この差を埋めようとすることではなく、どう誤魔化すか、それが求められているんだと思う。
「俺も頑張らないとですかね…」
「うん?何で?」
「いや、まぁ今のとこ一応俺は新崎達と同じ部活ですし、変に失敗して慰められたりしても嫌ですし」
「ふーん…大変だね~」
先輩は興味無さそうにステージを見つめ続ける、
まぁ俺も何か返してほしくて言った訳じゃない、自分に言い聞かせていただけ、こうでもしないと新崎達との差を受け入れられない、もし失敗して本当に慰められたら元のスペックの差なんだと、言い訳にすらならないなにかを言ってしまいそうで。
…最悪、この悩みも主人公に話せば一発で解決するであろう、俺が思い付かない解決策を使って、俺をこのよくわからない状態からも出してくれるさ。
諦めを混ぜた息を小さく吐く。
それが聞こえていたのか、矢波先輩は振り替える。
「まぁ…その部活が嫌になったら僕らの部活においでよ、こき使ってあげるから、ね?」
優しい笑顔で。
「……今のいかにも先輩って感じでしたよ」
「え?ほんと?えへへぇ~」
「えぇ、本当に」
だからと言って頼るわけではない、俺はなるべく物語に干渉をせずすこーしずつ誤魔化しながら消えていくのが一番良いんだと思う。
折り返し地点を過ぎたのか、こちらに向かってくる笑顔の新崎達を見て、そんな決意を固めた。
戻ってきて早々、矢波先輩のドレスについて色々聞いていた新崎達だったが、先程のようにスタッフさんに迷惑をかけたくなかったのか、矢波先輩が軽く説明すると、
似合っていますね、と新崎が一言残し、さっさと、奥に戻っていった。
あいつ…俺がためらったことを流れるように言うとか…
一応俺達が終わったあとに写真を撮ることは確定しているらしく、まだ着替えないと断りもちゃんとスタッフさんに入れていて、それに笑顔でスタッフさんは分かりました、と答えてくれた。
そこからまた待つこと二十分ちょい、ほかの参加者が緊張からか体調を崩してしまったらしく、ほんのすこし早く、こちらの出番が来た。
スタッフさんから簡単に説明が来て、本来ならば俺が真ん中で先輩達がそこら辺歩けばいるであろうカップルよろしく俺の腕を組んで進む予定だったらしいが、先輩のこのドレスのことと最後ということもあってか、矢波先輩が真ん中になる、ということになった。
個人的にはそれはかなりありがたかったが、先輩の身長もあり、手を繋ぐことになり子供っぽいんじゃないか、と矢波先輩はそれはそれは不機嫌である。
その証拠に、俺の手が先輩の手に力強く握りしめられている、だが女子の握力なので、さほど痛くなく、意識してしまい手汗が出てないか心配、これでヌルッとしてたとか真正面から言われたら多分不登校になる。
「それでは、最後!お願いします!」
そう元気な声が後ろからかけられ、戸惑いながら、横を見て合わせながらゆっくりと進もうとしたが、矢波先輩はゆっくり行く気はサラサラ無く、半ば引っ張られる形で俺と桜丘先輩は、お互いの緊張しきった顔を見て、苦笑いし、足取り重く進んでいく。
階段を上ると、それを見た司会者なんだろうか、ドレスについての説明を始めた。
「こ、これ、これぇ…」
足がガクガクの桜丘先輩が絞り出すように声を出す。
その光景を見てか所々笑い声も聞こえてくる気がする。
産まれた小鹿状態の桜丘先輩に矢波先輩は、優しく説得をし始めた。
「大丈夫だって春、どうせみんな来週ぐらいには僕らのこと忘れてるし」
「まぁ…って何か説得の仕方おかしくないです…?」
普通、そういう場合これを乗り越えたら何かあるとかなんとか言うのだろうが、何故そうも現実味のある説得…
でもまぁ、確かにその言い分には中々に賛同できる、
こっちが一生残る黒歴史と思っていても、周りは案外違っていたりするものだ。
だから俺が中学の頃に、うっかりノートに
綺麗に描けていたなら可愛らしい女の子の絵になってたであろう何かを描いて消し忘れた挙げ句、提出してしまったことも多分覚えていないだろう。
ていうか、忘れてもらわないと困る。
「ほら、行かないと皆の楽しい思い出になっちゃうよ!」
「ぅぅ…」
人の記憶に面白い人として残るという、多分嫌な人も多いだろうと思われる方法で桜丘先輩と俺を矢波先輩は歩かせようとまた引っ張っていく。
俺も色々と頑張らなければならない理由もあるので、繋がれている手の前に出る勢いで歩みを進める。
この舞台で活躍した思い出も主人公にとってはただの青春の一コマに過ぎない、周りがどんなに苦労しようが、結果がいい感じに終わったのなら、それもまたやつらにとっては青春なのだろう。
だが、俺は違う。
目立つのは嫌だし、苦労はどんなにいい結果になろうと苦労だ、そんなものは出来る限りしたくない。
目立ずに、人前で苦労を晒さず、少しずつ頑張っていく、それが正しい生き方でモブとして、カメラに写らないものとしての役割なんだ。




