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後編

これで完結です。


後半、主人公ほとんどしゃべってません。

「僕が兄たちと仲が悪いと思って、僕をよく呼び出したんでしょう?」


 耳元でささやかれた言葉に、カッとほほが赤くなる。


 彼をいじめていたガキ大将、というのは、まさしく彼の兄たちであったのだから。


「私についてきなさい、って言いながら、僕には好きなことをさせてくれたよね」

「そ、そんなこと・・・」

「僕と一緒に本を読んでたのに、すぐに飽きて木に登り始めたときは驚いたけど」

「それは今関係な・・」

「でも、僕の目の前で攫われたときは、本当に心臓が止まるかと思った」

「!!」


 それは彼が騎士になると言い出す数年前の事だった。


 ピクニックと称して彼を呼び出し、馬に乗って近くの丘に遊びに行った時だった。


 木陰で本を読むコンラッドの周りを駆けまわっていたメディナが、攫われたことがあったのだ。


 その時は、近くにいたコンラッドがすぐに馬を駆って知らせてくれ、大事には至らなかった。


「まさか、あなた・・・」

「うん、だから騎士になろうと思ったんだ」

「別にコンラッドのせいじゃ・・・」

「それでも、僕は自分を許せなかった」


 いくらコンラッドが年上とはいえ、あの時はお互い子供だったのだ、何もできなくて当たり前である。


「君は大商会の大事なお姫様。方や、僕はしがない男爵家の3男。釣り合うわけはないけれど」

「・・・・」

「諦められなかったんだ」


 メディナを抱く腕に、ぎゅっと力が入った。


 風に乱れたメディナの真っ赤な髪に顔をうずめているせいで、メディナからコンラッドの表情は見えない。


「騎士として、君の住むこの都を、守れたらと思っていたんだけど」

「・・・・」

「守りながら、時々でも君の姿を見れたら、と」


 それは、メディナも同じだった。


 彼と同じ騎士にはなれないし、彼の横に立つこともできない。けれど、せめて姿だけでも見ていたい。


「もう無理だ」

「!!」


(ああ、きっと今度こそ私は嫌われるんだわ・・・)


 野党の討伐からやっと帰還したというのに、勘違いした幼馴染に部屋に突撃されて、うんざりしたはずだ。もう顔も見たくない、と言われても仕方ない。


 一度引っこんだはずの涙が、またメディナの瞳に溢れてくる。


「君がここに来たせいで、僕の意志は簡単に崩れてしまったよ」

「?」


 ふふふっ、となんだか楽しそうに笑う声に、メディナの涙は一粒で止まった。


「君がここに来たということは、僕は少しは自惚れてもいいのかもしれないね」

「!!」


 今度はカッとまた頬に血が上る。


「ううん、本当はもう僕も限界だったんだよね」

「?」


 さっきからコンラッドの言うことがよくわからなくなってきた。


「それに、せっかく僕の腕の中に飛び込んできてくれたし」

「!!」


 さすがにこの言葉は理解できる。もうこれ以上赤くなれないんじゃないかっていうくらい、耳も首までも真っ赤にして、メディナは腕を突っ張ってコンラッドの腕から逃れようとする。


(って、よく見たらコンラッド裸じゃない!!)


 正確に言えば上半身だけだが。そして、大変今さらではあるが、ようやくメディナにも人並みの羞恥心を感じたのだ。


「は、離して!!」

「嫌だよ」

「!!」


 人生で2度目のコンラッドの反抗である。


「もう離さない・・・」

「うっ」


 骨が軋みそうなくらい強く抱きしめられて苦しいのに、耳元でささやかれた声が、びっくりするくらい切なくて、メディナは何も言えなくなる。


「どうでもいいが、そろそろメロドラマは終わりにしてくれないかな?」

「!!」


 と、突然の第3者の声に、文字通り飛び上がったメディナを隠すように、コンラッドがさりげなく立ち位置を変える。


(扉開けたままだった!!)


 ちらりとコンラッド越しに見えた扉に、寄りかかるように立つガタイのよい男の姿が見えた。


「覗き見とは、相変わらず良い趣味をしていますね」

「他のヤツラを追い払ってやった俺に言うセリフとは思えんな」

「それはどうもありがとうございます」

「心がこもってねぇな」


 コンラッドの丁寧でいながら明らかに嫌味を含んだ言葉にも驚いたが、それに軽口で返す男にも驚いた。メディナの知らない数年間で出来たコンラッドの新しい一面に、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちがメディナの中に生まれた。


「まあ、お前の愛しのお姫様が見れただけで良しとするか」

「そうですね。もう二度と見れないでしょうから」

「ほう、ということはとうとう手を出すのか?」

「下品な物言いは止めてください。レディの前ですよ」

「わりぃな。下品で」


(えっ、なになに?)


 メディナの頭上でのやり取りに、自分が絡んでいるようで顔を出したいのにコンラッドの腕のせいで顔が出せない。


「ちょ、コンラッド、どういう・・・」

「今回の討伐で、僕は重傷を負ったのでしばらく休暇をください」

「はぁ、目の前でピンピンしてるやつに休暇なんて」

「ええ、野盗のアジトを探り、リーダーを特定し、策を練り、部隊を編成し、突入するところを見届けるだけだったところを前線に引きづりこまれた僕としては、精神的疲労による極度の疲労で動けません」


 ペラペラとまわるコンラッドの口に、男の口の端が引きつる。


「それに、団長の貯めこんだ書類を分別し、まとめ、提出できるように仕上げたことが、さらに追い打ちをかけました」

「てめぇ、いい根性してやがるな」

「ええ、でなければここまでこれませんでした」


 多分、コンラッドは笑っていると思う。残念ながらメディナには見えないが。


「ちっ、2日だ」

「一週間」

「はっ?馬鹿か、そんなに長く休ませるかよ」

「では6日にしましょう」

「一日しか減ってねぇじゃねぇか」

「しばらく僕は休みをまともにとらせていただけてないですからねぇ」

「ちっ、3日だ」

「5日」

「・・・・・4日」

「まあ、いいでしょう」

「足りるのか?」

「足りる足りないではなく、やらなければいけないんですよ」

「はぁぁぁ、男前なこって」


 付き合ってられねぇ、そう言って去っていった男。まるで台風のような人であった。


「さて、メディナ」

「!!」


 ようやく緩んだ腕の中からようやく顔を出せたメディナ。まるで水中から顔を出した時のように、ぷはっと息をしてしまったのは仕方のないことだと思う。


「僕は、もう君を離したくないんだ」

「それって・・・」

「僕はしがない男爵家の3男だし、一介の騎士でしかないけれど」

「ど、どうしたの?」


 急に自分のことを悪く言い始めたコンラッドに、メディナは困惑する。


「僕にはずっと君しかいなかったから」

「そんなの・・・」


(私だって・・・・)


 コンラッドしか見えていなかった。


 コンラッドの大きな手がメディナの両頬を優しく包む。


 薄い緑色の瞳が、まっすぐにメディナを見つめ、その瞳に鏡のように彼を見上げる自分の顔が映る。メディナの瞳には、まっすぐに彼女を見つめるコンラッドの姿が映っているのだろうか?


「僕の傍にいて、僕の隣にいて、僕の腕の中にいてくれる?」

「・・・・・・」


 これは夢だろうか?


 呆然と目と口を開けた顔が、彼の瞳に映る。


(私、告白されてる?)


 じわじわと実感がわくにつれ、またまたメディナの瞳に涙が浮かぶ。今度は悲しい涙でも、安堵の涙でもない。


 一粒、涙がこぼれ、彼の手を伝う。


 そして、メディナは言うのだ。


「あ、あなたが、どうしてもっていうのなら」


 最後まで可愛くない、わがままな言葉を。


「傍にいてあげなくもないわ」


 それに、コンラッドは幸せそうに微笑む。


「どうしても、君に、メディナに傍にいてほしいんだ」


 そうして、彼は言うのだ。メディナの欲しい言葉を。


「じゃあ、仕方ないから、ずっと、ずっとそばにいてあげる」


 あなたが寂しくないように。


 あなたがいじめられないように。


 あなたを守れるように。


「ありがとう」


 そう言って近づいてくるコンラッドの顔に、メディナはゆっくりと瞳を閉ざす。


 唇に触れる、温かく柔らかい感触に、メディナは溶けていくようだった。



 そのあと、いつの間にか騎士団の副団長になっていたコンラッドと、あの男の人が団長だったことを知ってメディナは驚くとともに、いつの間にか埋められていた外堀に真っ赤になって拗ねた彼女のご機嫌を嬉しそうにとるコンラッドの姿が見られるのは、もう少し先の事である。

甘々になっていたでしょうか・・・・。


砂を吐けるくらい甘い小説が書けるよう精進します!!

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