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エピローグ  欲しかったものはその手の中に――。

「帰りに何かあったのか? 本来なら開催式典に間に合うように連絡を送ったつもりだったんだが、ずいぶんと遅かったな」


「あーいやな、第26層を潜ってたらなおかしなもの好きどもに呼び止められてな。

 なんでも第10層に潜った雑用係を探してるってんで連れてきたんだよ」


「俺を?」


「ああ、それでこいつ等はポンコツの知り合いか? 適当にギルドの近くにうろついてたから連れてきたけど」


 そう言ってフィーネの案内の下。

 ギルド会館の入口まで案内されれば、そこには魔水晶から映し出される闘技場の映像をポカンと見つめる青年たちの姿があった。


 全員、俺が雑用時代に直接、冒険者の心得を指導した後輩たちだ。

 そして――その先頭に立つ金髪の青年が後ろを振り返った時、俺は堪らず駆け出していた。


「トール。無事だったか」

「はい、先輩のおかげで何とか命を拾うことができました」


 ヒュドラ毒を受けて一時期、治療院に入院していたと聞いていたがどうやら後遺症もなく退院できたらしい。

 そっと胸をなでおろしてみせれば、にっこりと快活な笑みが返ってきた。

 無事なようで何よりだが――


「風の噂で新しくギルドを設立したんだってな。

 シャロンから聞いたよ。おめでとうギルドマスター」


 そう、『蛟竜の顎』は例の一件があってから解体されたのだ。

 どうやらギルドマスターの数々の汚職に加え、秘密裏に違法な依頼を受けていたらしい。

 犯罪に関わっていたラルグ派の冒険者は今も事情聴取を受けているようだ。


 と言うことはここにいる全員は元ギルドマスターの意見に対立した奴らと言うことだろう。


「それにしてもお前がギルマスかぁ。出世したもんだな」


「まだまだ駆け出しですけど色々と勉強させてもらってます。

 まぁおれがギルドマスターでいいのかは疑問ですけど……」


「そう謙遜するなって。お前は後衛の戦闘職ながら、なんだかんだ『蛟竜の顎』時代でも周りを引っ張っていくカリスマがあったし、誠実だから仲間からも慕われていた覚えがある。

 まぁこれは師匠びいきの目線だが、トール以上に向いている奴はここにないと思うぞ?」


「そ、そうですか? 先輩に言われるとちょっと照れますね」


 きっとトールが引っ張っていくギルドはこれからぐんぐんと成長していくだろうな。


 と言って誇らしげに何度も頷いてやれば、照れくさそうに頬を掻いて謙遜して見せるトール。


「それでフィーネから何か用があるって聞いてたけど、何だったんだ」

「えっとシャロンちゃんから、今日は先輩が『夜明けの日差し』に加入したお祝いだって聞いています。その上でお話があるんですが――」


 そう言って一度言葉を区切るトールの目に小さな躊躇いが生まれる。

 でもそれは本当に一瞬のことで、


「先輩を、おれのギルドに引き抜かせていただけませんか」


 トールの口からもたらされた言葉に、今度こそギルド内の空気がしんと静まり返った。


「それは――」

「無茶なお願いなのは承知の上です。でもおれ、先輩と一緒に仕事がしたいんです!!」


 トールの言葉には嘘、偽りはない。

 彼は本気で俺のことを必要だと言ってくれている。トールにはなんだかんだ助けられてきた恩がある。きっとこの言葉だってフィーネ達から殺されても仕方がないと覚悟して、吐き出した彼なりの誠意の現れなのだろう。


 俺もトールの言葉に応えたい気持ちはある。でも――


 誰もが固唾を呑んで俺の様子を見守るなか。

 一瞬だけ交わされる不安げに揺れる黄玉の瞳を見て、全てが決まった。


「悪いなトール。俺はもうここでやりたいことができちまったんだ。

 俺はこのギルドを王国一のギルドにしてやりたい。そのためにこの命を使うって決めたんだ」

「先輩……」


 たとえそれが大恩ある弟子の誘いでも、俺はその手を取ることはできない。

 残念そうに顔を伏せるトール。

 その気持ちは痛いほどよくわかる。でも――


「そうがっかりしたような顔するなよ。なにも永遠の別れって訳じゃないんだ。

 俺たちはギルドで繋がっている。

 何かあれば一緒に仕事する機会だって増えてくるんじゃないのか?」


「それって――」


「お前はもう、ギルドマスターの立場にいるんだろ。

 だったら通すべき筋は俺じゃなくあっちにあるんじゃないのか?」


 そう言ってシャロンの方を指さしてやれば、そこには仕方ないとばかりに肩をすくめて頷くギルマスの姿があった。


「まぁこれからいろいろなギルドと交流することになるだろうし、この前の恩もある。

 君たちとは長い付き合いになりそうだから()()()()()()()()()()()()()()()ウチの雑用係を貸してあげなくもないかな」


 本当はこっちから申し入れるつもりだったくせにどの口が言うんだか。

 その言葉を聞くとハッとなって顔を上げる弟子の顔が僅かに明るくなった。


 まぁシャロンなりの見栄はこの際おいておいて――


「ということだ。いまはお互い、大事な奴らを支えていこうぜ」

「はい!!」


 今度こそ元気のいい返事が返ってくる。

 これにて一件落着。今度こそ万事解決だが――、


「おいまてよテメェ等。これだけウチのギルドを騒がせといてどこ行くつもりだよ」


 意外なことに、そそくさとギルドから去って行こうとするトールたちを呼び止めたのは、

 この場で一番、彼らに警戒心を抱いていたフィーネだった。


「今日はポンコツの就任式でもあるが、ウチのギルドランクが一つ上がった祝勝会でもあるんだ。テメェ等もポンコツのダチなら当然、メシ食っていくんじゃねぇのか?」


 意外と言いたげな表情でトールたちの背中を見つめる我らがエース。

 その未来を見据える瞳に何を見たのか、


「え、でも、おれ達部外者で、えっとその――ご一緒してもいいんですか?」


 と逆に声を掛けられたトールたちが困惑する始末だったが、


「あーむしろ参加してくれないと困るんじゃねぇの?」


 と言って俺の方に目配せするフィーネの唇が僅かに意地悪く吊り上がったのが見えた。


「なにせウチの無計画なギルマスが大量に食材を獲らせたくせに、参加人数が五人ときた。

 ポンコツの知り合いも少ねぇし、しけた宴になりそうなんだからな」


「あーそうだね。確かにウチのエースの言う通りだよ。

 せっかくのお祝いだっていうのに祝ってくれる人が皆、闘技場の方に行ってしまって寂しいなーと思ってたところなんだよ」


「たしかにパーティーは多い方がいいかもしれないわね。レオちゃんはどう思う」


「みんなで食べるご飯!! 久しぶりっスね!!」


 フィーネの言葉に続くように肯定される言葉の数々。

 人を友達少ない認定するのは一言余計だが、これも彼女たちなりの優しさなのだろう。


 つまるところ、彼女たちもトールの人柄を認めたということか。

 まったくわかりにくいことこの上ないが――、


「ま、そういうわけだ。ウチのエースもああいってるし、忙しいところ悪いが、ギルド同盟最初の仕事ってことで狩り過ぎた食材を消費するってこと手伝ってくれないか?」


 そう言って柄にもなく下手糞なウィンクしてやれば、「はい!!」と気持ちのいい返事が返ってきた。


「よっしゃ、そんじゃあ顔合わせも終わったことだし次は26層のダンジョン攻略の景気祝いも兼ねて目指していっちょ派手にやるか!!」 


 そうしてフィーネの音頭を最後に和やかに、それで大胆に開かれる就任祝い。

 混沌とした人間模様はまさにダンジョンに挑まんとする冒険者の宴そのものだった。


 一つ一つ、丁寧に磨き上げるようにこの光景を心に止め、大切に保存していく。


 結局、固有スキルの有無なんて冒険者として生きていくための些細なきっかけでしかなかったのだ。

 俺が欲しかったものは『ここ』にある。


(まったく名誉でも地位でもなく、俺が本当に冒険者としてほしかったものか。

 この答えを得るためにどれだけ長い回り道をしてきたのか。自分の愚かさを呪てやりたいな)


 素材を活かすも殺すも自分次第。

 それはいつも自分の中で道を踏み外さないように定めていた絶対の指針だったのに。


「いつの間にか、基準から外れてたんだな」


 道を踏み外した男の末路はもう嫌と言うほど目に焼き付けた。

 だからもう絶対に離さない。いや、放してやるもんか。


 ここは俺が欲しくて欲しくて仕方がなかった冒険者としての理想の果てだ。

 この場所を守るためなら、俺はなんだってする。


 きっと彼女たちも同じ気持ちだろう。


 そう思うと自分が冒険者一のしあわせ者みたいに思えてきて、堪らず笑みがこぼれた。


「はぁ、相変わらず女々しい性格してんなぁ俺。雑用係で十分だって言いつつ、それ以上の関係をあいつ等に臨んでるんだから」


 するとワイワイガヤガヤとテンションのボルテージが振り切った仲間の呼び声が聞こえてきて反射的に顔を上げると、そこには酔いに酔っぱらたフィーネの姿があり、


「行くぞ」


 と唐突に俺の手を強引に取って、その怪力をもって強引に立たせられる。

 つんのめる身体。若干おぼつかない足取り。

 宴もそろそろいい時間帯になってきたが、行くぞ、って言われても、もう出店はぜんぶ締まっているはずだが――


「ちょっと待てってフィーネ、行くぞっていったいどこに行くつもりだよ」

「そんなん知らん。とにかくあたしが満足するまで付き合ってもらうんだからな!!」


 あーあー、これは完璧に酔っぱらっているな。

 例え毒物を喰らっても苦しい顔一つせず我慢して見せるフィーネの顔がフニャンフニャンにゆるんでいる。

 チラッと横目でシャロンとトールを見れば申し訳なさそうに両手を擦り合わせている姿が。 


「まったく弱いなら弱いで無理に飲ませなきゃいいのに」


 どうせ見栄を張って飲み比べしたフィーネが見事な惨敗を決めたのだろう。

 どんな毒物を口にしてもやせ我慢で済ませるフィーネがここまでベロンベロンになるとは

 

「意外というか、お前でも酒に飲まれることはあるんだな」

「うるしゃい。あたしは酔ってないっての!!」

「いやそれ酔っ払いが第一声に吐き出す常套句だから」


 とりあえず今はこの役得状態を甘受するとしよう。


 ギルド『夜明けの日差し』のベンチに腰掛け、ウトウトと微睡み始める子供。


 こんな形だが彼女はまだ未成年なのだ。

 酒など飲めば、当然眠たくなるだろう・


(まぁ酔いが醒めた後の地獄は怖いがその時はその時か)


 そっといつの間にか暗くなっていた夜空を眺め、そっと小さく息をつく。


 鬼が目覚めたときは誠心誠意土下座してから逃げればいい。

 と思いかけたところで若干据わった鋭い目つきが俺を食い殺さんばかりにじっと見つめ、

 その可愛らしい唇がちょっとだけ鋭く尖ったのを見逃さなかった。


「お前、いま自分の状況に満足しかけたろ」


「は? いったいなんのことだ――って近い近い近いから!?」


 何のことかわからず思わず声を上げれば、さらに食い入るように俺を見つめてくる我らの暴れん坊。

 というかあ、あのフィーネさん? ちょっと怖いんですけど……


「ふん、あたりか。やっぱりそーか。テメェたかだかダンジョン攻略を成し遂げたからってちょーしに乗ってるな」


 いやいやいや調子とか乗ってないから。これから気持ちを引き締めようとしてた最中だから。

 あと――


「ここ街中なんだけどそんなでっかい声で騒ぐと近所迷惑になるというか――」


「これで満足したと思ったら大間違いだからにゃ。あたしはアンタのこと認めてるんだから、これからもあたしたちのために命懸けで働いてもらうんだからな!!」


 酔いも回っているのか上機嫌に俺の手を引いて走り出すフィーネ。


 怒ったり上機嫌になったりと、なんて我がままで理不尽な状況だ。

 よりにもよって本人を目の前に社畜発言とは、いま時の闇ギルドでもそうあることじゃないだろう。


 でも――そのどこまでも己の我が儘を無邪気に貫き通す彼女たちの姿に魅入られてしまったのだからもうどうしようもない。

 と言うかそんなこと言われなくたってわかってるよ。


「まったく、惚れた方が負けってか。ほんとお前らズルいよなぁ」


 そうしてその柔らかな手に引かれるまま、己の我が儘を無邪気に貫く彼女たちの後ろ姿を追いかければ、

 溢れ出す喜びの感情が堪え切れず、きゃっ」と女の子らしい悲鳴を上げるフィーネを抱き上げ、これも悪くないなと思いながら『愛すべき俺達の居場所』へと走っていくのだった。


≪完――≫

終わる終わる詐欺の下。

新ジャンル開拓を名目に始め、ようやく完結した本作。

読者の皆様の熱い応援のおかげで、納得のいく終わり方をすることができました!!


ありがとうございます。


これにてハッピーエンド。


雑用と言う立場を経て、誰かに仕える『喜び』と心から頼れる『仲間』を手に入れた達成感を得られたら下の☆評価を一つでも増やして頂けたら嬉しいです。

今後の創作活動のやる気に繋がります。


ここまでご愛読していただき、本当にありがとうございました!

今後とも面白いと思えるような新作を作り続けていくので

こらからも【新ジャンル開拓者】ジャンル・アリャタをどうぞよろしくお願いします!!

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