10話ーパートナー
どーも。ゆずこと宇佐美柚姫です。
私は今大ピンチに陥ってます。
ピンチと言っても命の危機だとかそういう訳ではなく、私が死んだと勘違いし、私のために泣いてくれてる男の子にどうやって話しかければいいのか分からなくてピンチなのです。
どんな顔して行けばいいんだろう?
本当は生きてたって言ったら怒られるかもしれない。
もう少し時間を置いてから会いに行った方がいいかもしれない。
‥‥‥‥そんなふうに悩んで結局行動に起こせないでいます。
「‥‥‥‥はぁ、本当にどうしよう?」
とにかくどうするかを決めるためにリクの様子をビルの蔭から覗き見る。リクは座ったまま、さっきから全く動かずに虚空を見つめ続けている。放心状態、と言ったところか。
リクの様子をさらにしっかりと見るためにもう一歩前に踏み出した。その時、先程までの激しい戦いでできた瓦礫を思い切りふんずけた。そしてそのまま初めてスケートをやった子供さながらに滑ってすっころんだ。
「あいてっ!」
ドカッ、と派手な音とともに尻餅をついてビルの陰から飛び出してしまった。
その瞬間十メートルくらい離れていたリクとしっかり目が合った。リクの顔は驚いていた、というよりも状況を掴めずポカーンと、空いた口が塞がらないという感じだった。
しばらくは幽霊でも見ているかのようにこちらを見つめ続けていたリクだが、ふと我に返ったかと思うと立ち上がり、私に向かって全力で走ってきた。
(もしかして死んだふりをしていた事に怒ってるんじゃ‥‥‥‥)
急いで言い訳を考える。
「いや、リク、これはその、あのね別に騙そうとしたわけじゃなくてね、なんていうかその、どうしようか迷ってただけで‥‥‥‥ってふぇえええええ!?」
私の言葉を遮るようにリクが私に押し倒さんばかりの勢いで抱きつき、言った。
「良かった、生きててくれて。本当によかった!」
その瞬間、リクと私の目から同時に、自然と涙がこぼれ落ちた。
◆◆◆◆◆
一通り二人で涙を流した後、目を腫らしたゆずに一番気になっていた質問を投げかけた。
「どうやって……生きていたの? 願望創造でもどうにもならなかったのに。というかあそこにゆずの死体が……あれ、ない!?」
そうなのだ。僕は確かにさっき冷たくなったゆずの体に触れていたはずなのだ。しかし、先ほどまでゆずの死体があった場所には一つの水たまりがあるだけだった。
「え、これって……?」
「うん。私の水分身だよ! やられる直前に入れ替わったの!」
「あの一瞬でそんなことを……ん? でも入れ替わったあとゆずはどこに隠れてたの? 全く姿が見えなかったけど」
分身を身代わりにしたということは理解した。よくよく考えてみれば、ゆずなら僕にもわからないくらいの本物の人間に近い分身を作り出すくらい出来るだろう。
だが、それでも今の今までゆずが姿を隠していた方法が思いつかない。いったいどうやって……?
そんな僕の疑問にゆずはあっけらかんと答えた。
「蒸気隠蓑。水蒸気と光の屈折を操って自分の姿や物をを隠す、私のとっておきの技だよ!」
「……は、はは。ゆずの能力、なんでもありかよ……」
水を操り、氷を操り、水蒸気を操る。水という物質の三態を自由自在にコントロールできるゆずの能力は恐ろしく強い能力なのかもしれない。ゆずがまだランク四なのが不思議なくらいだ。使い方によっては僕の絶対反射なんかよりもよっぽど……
こんなことを考えていたらゆずが僕の顔をのぞき込んで太陽のようなまぶしい笑顔を向け、言った。
「どう? リク、私なかなかすごいでしょ!」
戦いのあとに僕に向けてくれたその笑顔、そして先ほどの戦いと死の危機からの回避という素晴らしい行動を顧みたら、僕はゆずに言わなければいけないことがある。
「ああ、ゆずはすごいよ。さすがは…………僕のパートナーだ!」
その言葉を聞いたゆずの顔は徐々に涙でくしゃくしゃになっていった。
「うぅ、リク、リクぅ! ありが……ありがとぉ! うえぇぇん!!」
子供のように涙を浮かべた目を僕に向け、嗚咽をあげながらゆずが言葉を紡いだ。
「これからは二人で討伐者として頑張っていこう!!」