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核戦争後の生業  作者: 橘花
集落編
9/16

総攻撃

集落が見え始めた。戦車は車間距離を広げて展開する。戦車の数が多いため、突撃で一気に押し切る戦法だった。


「各車、上手く車間を取れよ。下手に接触してると、巻き添えを喰らうからな。」


俺は無線でそう伝える。





「敵襲!!」


集落では、敵が近づいてきたことを知らせる発煙が焚かれており、全員がそれを視認する。


「敵の正確な兵力は不明ですが、かなりの数です。」


集落周辺の地図の上に、敵を示す赤い旗を置く。


「敵は本気なのか?それとも、適当にあしらう程度でこの規模を投じたのか?」


大和さんが迷っている。俺も、地図を見てみる。対戦車塹壕は青い線でこの集落を囲むように画かれている。もうじき、それに敵が嵌るところであった。


「とりあえず、75mm対戦車砲を配備しろ。」


「了解。」


村の人にそう指示を出し、俺の方を向く。


「敵はどう出ると思う?。この規模だ。押し切るか、砲撃で黙らせるかのどちらかだが、ここまで近づいたという事は前者だと思うのだが。」


「恐らくは、大和さんの読み通りに押し切ってくると思います。ただ、運の良い事に敵は展開してくれました。」


「そうだな。これで、嵌ってくれる車両が増える。5式を借りるぞ。」


大和さんはそう言って、本部を出る。本部の外には、五式中戦車と王虎号が駐車されている。大和さんは五式中戦車、俺は王虎号に乗り込む。




「突っ切れ。」


俺はそう命じた。集落まであと少し。突入さえすれば、勝利だった。砲弾が飛んでくるが、構いやしない。


しかし、突然前を走っている車列が沈み込んだ。そして、2列3列と次々に沈み込んだ車体の上に乗っかる。


「何だ!?」


一気に数百台規模で対戦車塹壕に突っ込んでしまった。しかも、後続車は身動きが取れない状況に陥った。


「少し後退、迂回して進め。」


両端の戦車が、命令どおり迂回しようとするが、そこも対戦車壕が掘られた場所。直ぐに沈み込んだ。


「くそ。」




「敵は対戦車塹壕に嵌っています。」


中島が全速力で走らせる。車体は揺れているが、砲身は装備している砲安定装置のお陰で狙いがつけられる。


俺は、嵌っている敵戦車を飛び越えて、向こう側の敵戦車を狙った。


「発射!!」


発射した砲弾は、狙い通りに嵌っている戦車を飛び越えて、反対側の戦車に運よく命中。破壊できた。砲塔が宙に吹っ飛ぶのを目視できる。


「掴まって下さい。」


そう、突然中島が指示する。その言葉に俺は一瞬疑問に思う。だがこの速度、止まる様子を見せていない。目の前は戦車が嵌っている対戦車塹壕。嵌った戦車によって塹壕よりも少し高く戦車が突き出ている。


予想されるのは、ただ一つだった。


「なあ、減速する気は?」


一応確認するが、


「ありません。」


っと、笑顔で返されてしまう。まさか、ここで映画さながらのアクションを現実でやろうとする、しかも女が居るのだ。ハリウッドさん、残っていたら彼女をスカウトしてください。


「いっけええぇぇぇ!!」


「行かないでええぇぇ!!」


俺が行かないで、中島がいっけえを叫びながら、王虎号は嵌っている戦車を踏み台に塹壕を飛び越える。乗ったときの衝撃は凄まじかった。岩を乗り越えるなどとは訳が違う。衝撃も、尋常ではなかった。


「ぎゃっ!!。」


着地の衝撃で、照準儀に頭をぶつけてしまう。砂とはいえ、着地の衝撃はある。着地した瞬間、車内は一瞬の揺れが襲った。


って。頭をぶつけた。鼻をぶつけた。」


「文句を言う前に撃って下さい。残っている戦車が反撃してきましたよ。」


見ると、敵戦車は映画さながらのアクションをやった俺達の戦車に一瞬呆気に取られた様に止まっていたが、直ぐに我に返って攻撃してきた。


「そんな事言っても、着地の衝撃で砲弾が落ちた。爆発しなかっただけ運がいいと思ってよ。」


俺は急いで砲弾を持ち、入れようとするが、これが中々重い。装填レーンに乗せるのに手間取る。


「衝撃来るわよ。」


中島がそう言った時、衝撃が来る。しかし、砲弾の様に一瞬の衝撃ではなく、断続的であった。


「な、何をしている?。」


「戦車を押してる。早く装填してよ。」


敵戦車に王虎号をぶつけて、引っくり返している。重量で勝る王虎号だからこそ出来る技だが、余りやると隙が大きいために撃破される危険も大きくなる。


『こっちも、忘れてもらっては困る。』


無線でそう聞こえた瞬間、後ろの方で爆発音が聞こえる。大和さんが、塹壕を越えずに反対側から砲撃で援護しているのだ。


『中戦車の任務は、重戦車が居るときには主力を重戦車に譲り、重戦車の護衛と援護が任務だ。』


その戦いっぷりは、ティーガーの頼れる相棒のパンターの様であった。こちらが装填している間に向こうが発砲。向こうが装填している間にこちらが発砲。


『このまま、戦うしかないね。こっちは、君達みたいなアクションを行う勇気が無い。』


「いえ、そっちがやったら、衝撃で破壊されますよ。こっちも、着地で損傷受けましたから。」


車体の下部装甲にへこみが生じている。装甲が厚いから助かったが、流石に五式中戦車では耐えられない。


「こっちは、俺達がやるんで。」




「へ~。あのティーガーは良くやるね。あんなアクションまでやるとは。」


「大尉、司令部より連絡です。」


大尉の呼ばれた男は、双眼鏡を外して無線機を受け取る。


「はいは~い、こちら偵察中隊中隊長の佐橋で~す。」


『何が『さはしで~す』っだ!!。勝手に任務を放棄して、一体何処に居る?』


「いやですね~、少将。位置特定できてるんでしょ?。衛星とかで。」


『衛星なんてモンは、5年前から落ち始めて、全部無くなったわ!!。』


気の抜けた応答をする佐橋大尉と、怒っている少将。聞いている部下はハラハラしている者から、頭を掻いて、『またか』と思う者が居る。


「ちょっと、味方になってくれそうな連中が居ましてね。共通の敵を持つ、第三勢力とでも言いますかね。」


『何?』


「敵の敵は味方。少将殿も理解していますよね?。彼らを味方に引き入れれば、かなりの戦力アップになりますよ。特に、ティーガーで戦っている戦車兵はね。」


『ティーガーだと?。それは、第二次大戦のドイツ軍重戦車の事か?』


「そうで~す。流石戦車マニア。っじゃなくても知ってますか。知名度は全戦車中ナンバーワンに輝いていますから。」




「野郎。」


一方的に撃破しているティーガーを見て、俺は頭に血が上ってくる。


『退却しろ。』


そんな時、突然無線が入る。


「しかし、劉さん。」


『ここで全てを失うわけにはいかん。我々の敵は、他にも居る事を忘れるな。失態は不問に付す。撤退しろ。』


「りょ、了解。」


そう伝え、無線周波数を指揮下の残存戦車に合わせる。


「全車へ、撤退する。脱出した兵は手近かな戦車の車体にでも乗れ。」


そう伝えた後、俺は無線機のマイクを握り潰した。破片で、手を切るが、そんな痛みよりも負けたという屈辱の方が上だった。


「一度ならず、二度までも。こんな屈辱を、今まで味わった事があるか!こんな、こんな屈辱を。もう二度と、俺は味合わない!!。」


砲塔を思いっきり叩く。痛みは無かった。屈辱が、やはり上回っていた。


「3500両を投じ、2000両近くを失った。しかも、失った車両の内、500両は塹壕に嵌って無傷のままだ。鹵獲されたな。いや、それよりもたった2両に1500台もの戦車を撃破されたのが問題だな。」


直接対峙はなかったが、この戦果を挙げた奴は既に予測できている。昴しか、こんな戦果を挙げられる筈が無かった。


「俺は、奴に二度も。二度も完全に負けた。」


絶対に、三度目は勝つと、心に誓った。

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