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核戦争後の生業  作者: 橘花
包囲網
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協力者 前編

俺はハッチを開けて車外に出る。向かってきた戦車は全て反転し、戻っていく光景を双眼鏡を使って見た。


「敵は後退、離れていく」


双眼鏡を外し、首にかけ直した俺も反転指示を出す。中島は信地旋回で反転させ、再び全速力でT34の上を飛び越えて集落側に着地する。


『ご苦労だった、しかし後ろから来ている戦車は敵か?。分からないから反転して、構えろ』


無線で大和さんが伝える。俺は再びハッチを開けて、三脚双眼鏡を使って確認する。


「中島、90式戦車が2台向かってきている。180度回頭してくれ」


そう指示し、俺は砲手席につく。装填ボタンを押す用意をし、敵を正面に捉えた。


「撃って来たらどうするのよ?向こうの滑空砲にとって、虎さんの装甲は紙当然なのよ」


「紙じゃなく、神装甲と言え。第二次大戦の中で最も堅固な装甲を持つ戦車の一つだぞ」




「良い判断だな」


戦車長席に座る私の目に、2台の正対する戦車を捉える。片方は先ほどの防戦で活躍した虎、もう一台は虎の活躍を支援した五式中戦車パンター


「佐橋いち、じゃなくて大尉。どうするんですか?」


「どうするって何が?」


「対戦車壕、相当広く掘ってあるみたいで、超えられませんよ」


そう言った運転手。繋がっていたら蹴っていたが、生憎90式は運転席と砲塔と独立している。蹴ることができないのが残念だ。


「落ちているT34を踏み台にしろよ」


「良いんですか?こっち乗ると破壊するかもしれませんよ?」


「構わん」


そう言ってT34の上に乗り上げたが、流石に下は耐えられなかったようだ。虎の二度の塹壕越えで一番下のT34は耐えれなくなっており、90式が乗ったことで踏み潰され、バランスを失ったT34タワーは崩壊した。


「あら?、あらららあぁぁ!?」


途中で止まったが、数段地面よりも低くなってしまい、乗り越えれなくなってしまった。




「・・・・・ええぇっと?」


俺はその様子を主砲の照準儀で見ていたが、言葉を失っていた。


「どうする?」


「引き上げようにも、こっちの装備じゃあ引き上げられないし」


どうしようか?っと悩んでいると、無線から連絡があった。っというよりも、90式の無線を傍受したみたいだった。


『この、アホ!!!。貴重な戦力を塹壕に落とすとは何事だ!!戦車回収車を持っていないんだぞ!!』


物凄い怒鳴り声だった。音量を咄嗟に下げなければ、鼓膜を破っていたかもしれない。


「耳が痛い」


「ってか、誰よ?。この大声で怒鳴ったの?」


『司令、どうやら虎の方にも聞こえている見たいですよ』


知らない声が入ったかと思うと、司令と呼ばれた人間は咳払いを数度する音が聞こえる。俺は無線機の音量を元に戻してから


「あの~、まずは初めまして。こちらはBDの高富昴です。そして、先ほどの女性の声のほうは中島楓、運転手をして貰っています」


『ああ、先程は失礼しました。目の前で90式戦車を落としたバカの上官の亀井少将だ。そのバカは佐橋だ。出来れば、砲弾落として爆破してもらっても構わん』


『酷いですよ。せめて救出してからお願いします』


っと、司令官と佐橋との間で行われている会話を完全無視して、俺と中島は90式の引き上げを考える。


「しかし、現実引き上げはこの戦車の馬力じゃあ無理だろう。第一、引っ張り上げる事なんて出来ん。クレーンを使って引き上げるしかないな」


「でも、90式を持ち上げられるクレーンなんて・・・・」


っと話していると、ハッチが突然開き、乗り込んできたのはダッチじいさんだった。


「久しぶりだな、亀井。一佐だったお前が、防衛省の昇進辞令無しに少将か」


その声に、亀井は驚いたような声で


『その声は、自衛隊機甲科の鬼教官と噂されていた秋山陸将補殿!?。何故貴方のような御方が、そちらに?』


「俺はとっくに退役した身だ。今は秋山なんて名を捨てて、ダッチで通ってるよ」


『それは、愛称であったド○ル○・ダックから取りました?』


「そうだ。まあ、昔話はやめて本題に入る。今、90式戦車回収車を持ってきた。そいつで90式を吊り上げてやるよ」


俺はそれを聞いて、ハッチから顔を出すと、確かに後ろで90式戦車回収車が停車している。あれなら、確かに吊り上げられると思った。


「早速やりましょう」


俺は車内にいるダッチじいさんに言う。ダッチじいさんはグッドサインを出して車外に出る。中島も、車外に出た。



「お嬢ちゃん、こっちの運転も出来るね?」


「はい」


そう言って中島は90式戦車回収車を発進させる。そして、対戦車塹壕の前で停車する。そしたら、ダッチじいさんはクレーンの操作を始める。俺は降りて、誘導をする。


「クレーンの吊り上げは25tとカタログスペックで記載されているが、こいつは油圧装置等を改良したから30tは吊り上げられる」


「でも、90式の重量は確か50t」


「坊主、先に砲塔を持ち上げるんだよ。こっちは準備した」


見ると、佐橋と呼ばれていた自衛官?は部下と共に車外に出て砲塔の取り外し可能角度まで回していた。


「回すのがきつかったんだ。失敗しんでくれよ」


クレーンを降ろし、フックに引っ掛ける。それを確認した佐橋さんは俺に合図を送ってきた。それを見て、ダッチじいさんに上げてと手で合図する。


無事、砲塔と車台を持ち上げて降ろす事ができた。そして、砲塔を戻して元通りの90式戦車を組み立てた。


「それにしても、よくこんなに深く掘ったな。住民はよっぽど頑張っただろう?」


「3日で掘りました。流石に、危機が迫ると必死で人間は作業するんですね」


90式戦車の車台が降りた佐橋さんは俺の元へと歩いてくる。


「さて、既に亀井少将から紹介があったが、俺は偵察中隊中隊長の佐橋大尉です」


そう言って敬礼をする。俺も答礼で返しながら


「BDの高富です」


「BD・・・・か。その年でそんな危険な仕事をしているとはね。丘の上で見させてもらったが戦車の運用は中々だった。何処で習った?」


「経験です。使っていって、生き残りたいと言う意思が身に付けたことです」


「・・・意思か。成程、経験を経て生き残りたい意思がもたらした能力。それが今の君の能力か」


「はい。失敗も数度味わいました。最近の失敗は、同業者を死なせたことです」


俺の脳裏に、空中高く放り投げられたM24が蘇ってくる。あれは自分のミスではないが、それでも同業者を死なせたことに変わりはない。


「そうか。だが、人間は失敗を経験して強くなる。失敗は無くならんが、その分人間は強くなれるのだよ。だから、気に病むことも無い。俺だって、あの核戦争で家族も同僚も大勢亡くした。それを乗り越えて、強くなったと今は感じる」


「家族を失って、悲しくなかったんですか?」


「いや、悲しかった。それでも、家族の分まで生きようと自分を奮い立たせた。俺もその後、数々の命の危険にも見舞われた。そして、今じゃあ自治軍の軍人になった」


俺は彼の話の内容の中に自治軍と言う単語を聞き逃さなかった。


「その自治軍とは?」


「君も襲撃されただろ?あの戦車隊、ここら一帯の無法者たちを集めて軍団を形成した人間が居るんだよ。そいつらへの対抗として自治軍が結成された」


そう言って戦車の車体の上に地図を広げた。その地図には、俺達の知らない集落まで記されている。


「この集落はここ。そして、ここから北に第三装甲大隊司令部がある。無法者達の前線基地の一つだ。司令部はここ以外にも、各地にあり、それぞれに大隊長。実質は師団規模のだから師団長だが、そいつらが居る」


「こんな大集団が居るなんて知らなかった」


「だろうな。ここ最近だよ、こちら側に兵力を割き始めたのは。敵は強力な戦車と歩兵部隊、それに充実した後方支援装備を有している。だから、俺達が勝つためにも周辺集落に協力を呼びかけ、連中に対する包囲網を形成している」


そう言って、ペンで包囲網を書いていく。そして、連中から見て南のここら辺周辺を除いて円を書き終わる。


「後はここを包囲網に加えれば、包囲網形成は完了する。だから、この集落に協力を要請する」


そう言って佐橋さんは手を差し出す。これを握れば、その瞬間この集落も包囲網に加わることになる。それではこれからいつ何時でも、敵からの襲撃に怯えていなくてはいけない。これは、俺の一存では決められないことだった。


「すみません、集落の者に話します。一日ほど、待ってくれませんか?」


「いいよ。むしろ、今この場で手を取ったら、包囲網に加える気は無かった。君一人の独断は、包囲網形成後の勝手な行動を起こしかねないからね」


そう言って手を下げる。この人、若い人だが修羅場も多く潜り抜け、人生の駆け引きも多く経験した人だと思った。

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