第51話 夏休み明け
楽しかった夏休みというのはすぐに終わってしまうものだな。充実していた分、終わるのは早かった。だが悔いはない。楽しめたさ。
「チューリッヒ!チューリッヒ!」
もう完全に人の言葉で起こしてきたわ。国か地域じゃなかったっけ?
真「朝か…」
俺はその声で目を覚ました。翠花姉はいつものようにいなかった。俺はリビングに向かった。
真「おはよ~」
翠花「お、おはよ~真くん」
蓮乃「おはようございます」
俺は机の上にあるパンが視界に入ったので、椅子に座った。翠花姉と蓮乃さんも一緒に座った。
3人「いただきます」
蓮乃「今日から新学期ですが、用意はちゃんとできていますか?」
翠花「もちろん。宿題も提出物も大丈夫。真くんのも見たし、私らが怒られることは多分ないはず」
真「新学期早々怒りたくもないでしょ。先生も」
翠花「それもそうだね。あ、そうだ。真くん。今日はやってほしいことがあるんだ。準備が終わったら言ってほしんだ」
やってほしいこと?大体翠花姉ならできるような気がするが…まあいいか。
真「わかったけど…なにすればいいの?」
翠花「それは秘密。まあすぐにやることになるよ」
真「う、うん」
俺はそのお願いを了承して朝ごはんを食べ終えた。俺が食べ終わった頃には2人とも食べ終わっていた。
3人「ごちそうさまでした」
翠花「じゃあ準備してくるね」
蓮乃「はい」
翠花姉と俺は準備をした。蓮乃さんはお皿を洗い始めていた。
俺は寝ぐせを直したり服を着替えるなどの準備を終わらせ、リビングで翠花姉を待った。翠花姉は制服ってのもあるし髪も長いから俺よりは時間がかかるっぽい。
待っていると、リビングのドアを開けた翠花姉がいた。
真「あ、来た来た」
翠花「じゃあやってほしいことを言おうか。それはね、私の髪を三つ編みにしてほしいの」
真「翠花姉の髪を…三つ編み?」
翠花「うん。私の髪の左側をね」
三つ編みのやり方なんて知らんぞ…教えてくれるのかな?
翠花「んじゃ、よろしく」
そう言い翠花姉は髪の左側を俺に見せるようになって、そのまま動く素振りすら見せなかった。つまりこれは…やれということか…。俺はやり方がわからないため、蓮乃さんの方を見た。
蓮乃さんは皿を洗い終えたんだろう。そのまま椅子に座っていて、めっちゃゆっくりと三つ編みをやってた。これはもしかして…「私がやり方を見せるから頑張りなさい」ってことか?
ゆっくりでも初めての俺には結構きつく、蓮乃さんが結び終えてしまった…どうしよう…。そう思っていると…
「シュルルル…」
蓮乃さんが自分の髪をほどき、もう一度最初から見せてくれた。俺はそのやり方をしっかりと見て、とても下手ながらも翠花姉の髪で三つ編みを結ぶことが出来た。…めっちゃほどけそう…。
真「す、翠花姉…。お、終わったよ…」
翠花「お、ほんと?鏡頂戴、蓮乃」
蓮乃「はい」
蓮乃さんが鏡を翠花姉の前に持ってきた。その自身の姿を見た翠花姉は…とても満足そうだ…ほんとに満足してるのだろうか…。
翠花「お、いい感じじゃん!ありがとう!真くん!」
そう言い翠花姉は…俺のことを盛大に抱きしめた。抱きしめられたことがうれしくて、やってよかったなって思った。蓮乃さんは小さく親指を立ててた。
真「えへへ…」
翠花「これは真くんがやってくれたってクラスのみんなに自慢しちゃお!」
真「え、あ、そ、それは…」
翠花「しちゃうも~ん。ふふん」
そんなに勝ち誇ったような顔をしなくても…なーんて言えるわけもないな。
俺が結んだ三つ編みをなびかせながら翠花姉は上機嫌で玄関に向かった。そんなに嬉しいものなのか?俺には全く分からないが…。
翠花姉を追いかけるように俺も玄関に向かった。そして鞄を持ち、翠花姉と一緒に玄関の扉を開けた。
真・翠花「行ってきまーす」
蓮乃「行ってらっしゃい」
そう言い俺たちは学校に向かった。上機嫌な翠花姉に俺は聞いてみた。
真「ねえ翠花姉。なんでそんなに上機嫌なの?」
翠花「ん~?だって無茶ぶりでもしっかりとこなしてくれる真くんが可愛いし、お願い聞いてくれたのが嬉しかったからね~」
真「そ、そういうものなの?」
翠花「そういうもの!」
まじで上機嫌だ…。今まででこんな翠花姉を見たことがなかったな。こういうときもあるってことか。
そんな翠花姉と一緒に王医学校についた。翠花姉と俺は分かれようとしたその時…
「パシャ…」
今まで聞いたことがない音が俺の耳に入った。
真「ん?」
翠花「ん?どうしたの?真くん」
真「いや…」
気のせいか?いや確かに俺の耳には聞こえたが、翠花姉の耳には入ってないようだし…気のせいかな?
真「なんでもないよ。翠花姉」
翠花「そう?なにかあったら言ってね」
真「うん」
俺との会話を終え、翠花姉と俺は分かれた。
真「何の音だったんだろう…まあいいか」
俺はあのシャッター音が少し引っかかったが、教室に向かうことにした。
教室にはほぼみんな揃ってて俺が最後だったらしい。結構時間に余裕もってるんだけどな。まあみんなが早いパターンもあるか。
燕先生が教室に入ってきて朝のHRを始めた。
燕「皆さんおはようございます。元気な姿を見れて安心です。さて、今日は午前で終わりですし、やることも少ないので、時間になったらぱっぱと終わらせてクラス内レクをしましょう。解散は10時半なので、時間いっぱいまでやっちゃいましょう」
レクってのはレクリエーションのことだろう。まあ遊びってのも大事だよね。早速授業とか言われたらモチベなくなるよ。
「キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴ったと同時、先生は効率よく課題を集めた。ゴムをみんなに配り、それに課題をまとめてくれれば後で私が見るという、先生にデメリットしかない集め方だった。俺たちからしてみれば集まるのが早いからいいんだろうが…。まあ先生がそのやり方だしいいか。
燕「集め終わった…ね。よし、じゃあ、レクを始めましょう」
クラスメイト「はーい!」
クラスで協力して教室の中心にスペースができるように机、椅子を運んだ。そして先生の指示で、円形になるように椅子を置いてほしいとのことだった。自分の椅子を持ってきて、それに座った。
燕「今日やるのは『なんでもバスケット』です。お題は特にありませんが、夏休みにこんなことをしてそうな人を指して言っちゃって大丈夫です。そして奥義もこのゲームにはありますね」
多分だが…あれだろう…
燕「『なんでもバスケット』と真ん中に立つ人が言ったらみんな動いてくださいね」
クラスメイト「はーい!」
燕「では早速行きましょう。最初は私から」
そう言い俺たちはクラスでなんでもバスケットを楽しんだ。クラス内で結夢以外にはそこまで関わる機会がなかった俺はそこで周りにいるクラスメイトと仲良くすることが出来た。結構みんな喋るっぽい。シンプルに俺が人見知りだっただけらしい。
少し時はさかのぼり、中学生がいる校舎の教室では、翠花が教室に到着していた。
翠花「みんなおっはよーう」
女子1「え!?めっちゃ似合ってるじゃん翠花!三つ編みなんて似合いすぎ!」
女子2「可愛い!でも…」
女子3「少しほつれ気味なような?」
翠花「これは体力テストの時に一緒にやった真くんがやってくれたんだ~。無茶ぶり聞いてくれて、ほんとに可愛くてさ~」
女子1「あの子がやってくれたんだ!いい子だね~」
翠花「そうなの!まじで真くんはいい子なんだ~」
そんな会話をしている翠花に、見覚えのある2人が近づいてきた。
日菜子「おっはよ~翠花。ナイス三つ編み!!」
武「これには俺のマッスルですらも似合ってるぜ!と言いたくなる編み込みだ!」
日菜子と武だった。体力テストでの鬼ごっこ以来仲いいらしい。
翠花「お、2人共おはよ~。やっぱりいいよね!これ!真くんがやってくれたの!」
武「あの少年…やりおるな!はっはっは!」
クラス内では翠花のイメチェンで盛り上がっていたが、その教室の端の方に集まる3人がいた。
「ぐふふ…翠花殿、やっぱり可愛いですな…」
「う~む。普段の下ろしている髪も素敵ですが…今日の三つ編みはもう…ん~最高!」
「…誰にも邪魔されたくありませんな…」
そう怪しく話す3人だった…。その手には…
「やはり、この少年だけは邪魔ですな」
「ええ。こいつどうにかしたいですね」
真と翠花が分かれる寸前のところの写真だった…。現像された写真をそのうちの1人がしまう。
「まあ一緒にいるだけでしょう。実際今回の三つ編みはそいつがやったらしいしな」
3人が怪しく笑うその現状を誰も知らない。
クラス内が盛り上がっている中、翔先生が教室に入ってきた。
翔「なんだなんだ?今日はやけに騒がしいな」
日菜子「見てよ先生!翠花が真くんに三つ編みしてもらったんだって!可愛くない?」
翔「おー…彼がやってくれたのか。似合ってるじゃねえか」
翠花「ありがとうございます!先生!」
翔「じゃあHRはじめっぞ~」
そう言いみんなが席に座った。
翔「みんな元気そうだな。なによりだ。みんななにした?」
武「筋トレです!」
翔「しってた」
武「うっそ!」
翔「前より筋肉増えてんだもん。見りゃわかる」
日菜子「先生!私ね、翠花がと一緒に海行ったの!妹と真くんも一緒に!」
翔「へえ。どこまでいったんだ?」
翠花「海の家があるところです」
翔「ああ、あそこか。あそこは人気あるしな。行けてよかったじゃねえか。他のみんなはどうだ?」
夏休みの思い出を話す声は途切れることなく続き、気づけば10時半を指しており、解散の時刻となっていた。
翔「みんなの話を聞いてたらこんな時間か。まあいいや。明日から授業だ。ちゃんと荷物もって来いよ~」
日菜子「あ、先生!課題は?」
それを言うなよ…。って声がクラスの中に響いた。
翔「んー…まあみんなやってるだろ。明日の授業で課題を使うから、仮にやってないやつがあったら終わらせとけよ~。以上!解散」
安堵した声がクラスに響き渡る。そしてクラスの人がどんどんと帰っていた。翠花と日菜子も下駄箱に向かった。
真たちのクラスではなんでもバスケットが終盤だった。そして真がみんなの真ん中に立っている。
真「じゃあ…かき氷食べた人!」
俺がそう言った時、クラスのみんなが立ち上がった。
「さすがに食べた!」
「うまいもんな!」
そんな声が聞こえた。中には10回くらい食べてお腹壊したってやつもいた。それはあかんね。食いすぎるとお腹壊すし、頭は痛くなるしで結構面倒なんだぜ。かき氷って意外とな。
そしてみんなが座って真ん中に立っていたのは…
結夢「私か…どうしようかな…」
燕「あ、結夢ちゃん。これで最後ね」
結夢「あ、はい…」
結夢が悩んでいる…お題が出てこないのかな?
結夢「…」
なんか結夢から視線を感じる。ほんとに出てこないのかな。俺は口パクをした。それを見た結夢が、あたかも自分で思いついたかのように言った。
結夢「このレクが楽しかった人!」
それ聞いたクラスのみんなが立ち上がった。
「楽しくないわけ!」
「これは立つしかない!」
そんな声も聞こえた。そして最終的に立っていたのは…
結夢「なんで私なの!?」
そう言った結夢にクラスが笑いに包まれた。
そして先生が真ん中に立った。
燕「いいわよ。結夢ちゃん。あそこに座ってもらって」
結夢「あ、ありがとうございます!」
そう言い、先生が座っていた席に結夢が座った。そして先生が話し始めた。
燕「お疲れ様。夏休みにみんながどんなことをしてたかわかったと思うわ。楽しめてそうでこちらとしても嬉しいわ。ではこのまま解散としましょう。席は、手伝ってくれる人がいればってくらいよ。帰ってもらって構わないわ。それじゃあ…」
真「みんな!一緒に席を戻そ!」
俺が先生の声を遮ってそう言った。その声に呼応するようにクラスのみんなが言った。
「もちろん!」
「楽しかったしね!」
そう言い、各々いすや机を持って元の配置に戻した。
そしてすべて元通りにして、先生が前に立ってこう言った。
燕「ありがとう、みんな。では改めて、さようなら!」
クラスメイト「さようなら!」
そう言いクラスメイトたちがどんどん帰っていく。俺と結夢も一緒に教室を出て校門に向かった。
結夢と一緒に校門に向かっていると、そこにはすでに翠花姉と日菜子さんがいた。2人が俺たちに気づいた。そこで俺たちが2人に近づいたその瞬間…
「パシャ…」
またシャッター音が俺の耳に入った…。なんなんだ?誰かが撮っているのか?しかも俺以外の3人は気づいているようには見えない…それどころかこの場にいるすべての生徒にすら聞こえていないように見えた。本当に俺にしか聞こえていないのか?俺の心の中には黒いモヤのようなものができた…。
「あいつ…。このシャッター音が聞こえているというのか?」
「そうとしか見えないな。まあいい。翠花殿さえ撮れればね」
2人の青年がカメラから写真を取り出した。その写真には…
真、翠花、結夢、日菜子の4人が映っていた…。
「では我々も帰るとしよう」
「だな」
不審な動きをするその青年たちが帰っていった。
帰り道で俺は結夢にシャッター音が聞こえたことを聞いてみた。
真「ねえ結夢、さっきさ、門のところでシャッター音が聞こえなかった?」
結夢「シャッター音?私には聞こえなかったな…真くんは聞こえたの?」
真「うん。いやさ、新聞を書くクラブみたいなのがあるらしいから、それならいいんだけど、どうも俺と翠花姉がいるときにしかまだ聞こえてないんだよね」
結夢「もしかして…ストーカー?」
真「断定はできないからなんとも」
結夢「そっか…」
そんな会話をしていると、日菜子さんが声を上げた。
日菜子「おーい、結夢~。家に着いたよ~」
結夢「あ、はーい。じゃあね、真くん」
真「うん。また明日」
結夢、日菜子さんと分かれ、俺と翠花姉で帰った。
翠花「やっぱりシャッター音が真くんには聞こえるの?」
真「え?」
翠花「朝になんか真くんがん?って言ってたじゃん。それで結夢ちゃんとの会話を盗み聞きしたの。だからそれが真くんの違和感なのかなってさ」
真「そう…だね…」
翠花「でも大丈夫。私が真くんを守ってあげるからね」
真「うん…ありがとう、翠花姉」
そんな会話をして俺たちは屋敷に到着した。
そしてこれからの学校生活は…どんどん変化していくことになるが…まだ俺たちはその変化に気づくことなく学校生活を送るのだった…。




