領収書10
荷物が重い。いくらフリーター同然の仕事とはいえ、さすがにこれは酷いと思う。
「さすがに人使い荒いわあの人……まぁ、人ではないんやけどな…。」
背中を潰そうとする大きな荷物をよいしょと手で支え、再び歩き出す。しかし数歩もしないうちに再び立ち止まり、諦めて近くのベンチに座った。鞄から水を取り出して、空を仰ぐ。喉に流れる液体もまた、暑さに悶えているようだった。蝉の声も聞こえぬほどの猛暑に、わたしは何故こんなことをしないといけないのだろう。
「…こんな暑い日にそんな大荷物、どう言った目的で?」ふと隣から声が聞こえた。首をゆっくりと動かすと、そこにはまるで大正時代から来たような、和服に黒縁眼鏡の格好の男が座っていた。
「放浪しながら物売る仕事なもんでね。商人仲間から譲り受けた……いや、押し付けられたのがこいつなんや。あんたこそなんでここに?」
話を聞くに、彼は小説家らしく、ネタ探しの為に久々に外に出たそう。するとわたしを見つけ、興味をそそられたらしい。
「それで、その押し付けられた品っていうのはどんなもので?」
あまり期待していないように男が訊く。社交辞令的なそれだろう。益々わたしの何に面白みを感じたのかわからなくなってきた。
「あー、こいつはなぁ………うーん、なんて言えばええんやろ。わっかりやすく言うなら、『入れた漢字が出てくる箱』やな。」男の眉がぴくりと動いた。それは例えば?と問うような視線。
「…例えば、紙に『魚』って書いて入れるやろ?そしたら……」漢字を書いた付箋を箱に入れる。箱ががたがたと揺れ、そして側面が開いて魚のようなものが出てきた。それを見た男が、怪訝そうな目で言う。
「これは……たしかに魚、なんだろうけど………」
「そりゃ状態を指定してないからな。『生魚』って入れれば生魚が、『活魚』とか『刺身』って入れればそれに対応したものが出てくるけど、今回は『魚』やからな。抽象的なそれやとこうなるんや。」
なるほど、と理解したように男が頷く。そして、使い古された財布を取り出しながら聞く。 「値段は?」
わたしは少し悩んだ後、こう答えた。「なんか面白い事言ってくれたら、タダでええよ。」
男は少し、いやかなり驚いた顔をした後、思案し、言葉を発した。
「この機械の難解さと掛けまして、上手くいかない会議と説きます。」
「ほう、その心は?」
「…どちらも、『かんじがわるい』でしょう」
正直、わたしは会議の時はいつも寝ているから、上手くいかない会議があまりわからなかったが、それでも少しは笑えたので、商品を譲り渡すことにした。
「…まぁ、及第点ってとこやな。ほな、うちからも一つ。その箱と掛けまして、髪の毛と説きます。」箱を彼の家の前まで運びながら言う。
「………その心は?」男が訝しげに聞く。
「『計画的なりようを』。」わたしがそう言った直後、強い風が吹き、次に男が目を開けた時、わたしは既に居なかった。男はふふと笑って、箱を持って家へと入っていった。
「…おい、それはあまり人前で、そして無駄遣いをするなと前にも言っただろう」後ろから声が聞こえた。
「だって、ああいう台詞の後はかっこよく消えたいやろ?」わたしがそう言い終わる前に、頭にバシッと衝撃が伝わった。
書斎にて、僕は貰った箱を使ってみる。まずは分かりやすく明確な、『万年筆』と書いた紙を入れてみる。
3秒ほど、ガタガタと振動した後、再び側面が開いて、万年筆が転がり出てきた。インクもしっかりと入っている、正真正銘の万年筆だ。しかしブランド表記はなく、やはりあくまで「万年筆」であった。
それから僕は、沢山のものを試した。玩具と入れれば子供向けに見える何かが出てき、水滴と入れれば水が滴った。いずれも共通して、箱より小さく、ブランドや商品名は記載されていなかった。
そこで、ふと気になったことがあった。あの商人は、「入れた『漢字が』出てくる」と言った。では例えば、実在しない漢字を入れるとどうなるのだろう。幸い僕は小説家であるため、幽霊文字を含む漢字はよく知っていた。まずは試しに、「蟐」を入れてみる。意味は不詳だが、一部では「あかがえる」と読む、としたり、蟷螂の「蟷」の書き間違いとする説もあるらしい。箱は先程までより少し長くガタガタと振動し、再び側面が開いた。中から出てきたのは、それら通説の組み合わさった、謎の生き物であった。ぴくぴくと痙攣するように動き、間もなく息絶えた。私は「それ」をつぶさに観察した後、ビニール袋に入れて置いておいた。なるほどどうやら、最もその漢字に対して一般的な解釈が組み合わさって出てくるらしい。ではこれはどうだろうか………
街が一つ消えた。正体不明の怪物が、突如として現れ、街を「食べる」ようにして肥大化しながら暴れていた。幽霊のように実体はなく、しかしこちら側へは干渉できるらしい。その怪物は3日ほどかけて一つの街を食べ尽くした後、霧散した。怪物の発生源と見られる民家の書斎からは、箱型のなにかと、「魚」や「蟐」と漢字の書かれた紙が見つかった。1つずつあげていくと、「魚」、「万年筆」、「食物」、「玩具」、「雑草」、「水滴」、「蟐」、「彁」の8つであり、その内の2つは幽霊文字と言われるものであった。
こんばんは、蝶番です!
最近、マンネリ化によって作品が殆ど投稿できておらずすいません…。「口先だけ」とでもなんとでも言ってください。。。
これからは自分の楽しくできる範囲で、楽にやっていこうと思います!投稿ペースはどうなるか分かりませんが、ふと思い出した時に見て貰えると嬉しいです!それではまたどこかで会いましょう〜。




