【番外編】夜中の電話
サブタイトルに【番外編】とつけていませんでした。
投稿後に申し訳ないのですが、本文も少しだけ手直ししました。
今日は電話かかってこないのかしら?
そろそろベッドに入ろうかという時間、私、伊藤彩李はベッドサイドに置いたスマートフォンにチラリと目を向けた。
碧くんと恋人同士になってからというもの、「声が聞きたい」と碧くんから毎日電話がかかってきていた。
今日は電話どころかメッセージすら送られてこない。もう夜の11時をとっくに過ぎているというのに。
今夜は当直だって言っていたから……
仕事中だもの。今日は電話もメッセージもなしよね……
さっさと諦めて眠ろうと思うものの、毎日聞いていた声を聞けないのが寂しくて。
もしかしたら……と思っていたら、こんな時間になってしまった。
これまで音楽のこと、ピアノのことしか頭になかった私なのに。
人って変わるのね。
ふとした瞬間に碧くんのことを思い出しては、ふわっと暖かい思いが体を満たしていく。
それはとても幸せで………そして、こんな夜はせつない思いに駆られてしまう。
眠ようにも眠れない……そんな思いでスマートフォンの画面を見つめていると、明るく光ってメッセージが入った。
トクンっと逸る心を抑えながら、急いで手を伸ばす。
“彩李ちゃん、連絡できずにごめんね。もう寝たかな?”
寝てない!待ってたの!
はやる心を抑えて「あわてない…」と自分に呟きながら返信を書く。
“お仕事お疲れさま。まだ起きてます”
話したいな……とは書けなかった。
だって、当直ということはお仕事中ということで……
“今から電話していい?”
え?碧くん電話していいの?と思いつつも嬉しくて。
“待ってます”と送った途端に、着信音が鳴った。
「彩李ちゃん、遅くにごめんね」
「ううん。起きていたから大丈夫。それよりも、今ってお仕事中なんでしょう?」
「いや。仕事は終わって、一息ついてるところ」
「え?当直終わったの?」
「ん?今夜は当直だけど?」
「じゃあお仕事中なんでしょう?」
当直って、ずっとお仕事じゃないのかしら?
だとしたら、お仕事中に電話するのってダメなのじゃないかしら?
「ああ、なるほどね。
今夜は当直だけれど、ずっと仕事してるわけじゃないよ。
さっきまで忙しかったけれど、ようやく一息ついたんだ。今のうちに仮眠しようと思ったんだけど、今なら彩李ちゃんまだ起きてるかな?と思って」
「え!?私なんかのことより、仮眠しなきゃ。
だって、いつ起こされるかわからないんでしょう。眠らなきゃ」
「眠る前に、彩李ちゃんの声聞きたかったんだ。だって、彩李ちゃんは僕の癒しだから」
「………」
碧くんの甘い言葉に、顔がほてってくる。
「彩李ちゃん?どうしたの?やっぱりもう眠いよね……ごめんね」
「ち、違うの。大丈夫だから!」
「そう?」
「今日は当直だから、電話無いと思っていたの……」
「当直といっても、ずっと仕事しているわけじゃないからね。家族や恋人に電話する人多いよ。だって、ずっと張り詰めていたら身が持たないでしょ。もちろん患者さんに対応するときは切り替えるけれどね」
「そうゆうものなのね」
「そう。だから彩李ちゃんの声聞きたかったんだ。
彩李ちゃんと付き合うようになって、はじめての当直だけれど、こうやって話せる相手がいるって良いものだね。癒されるよ」
「そう、思ってもらえて、嬉しい……です」
電話越しなのに恥ずかしくなってしまって、顔はうつむき、声は小さくなってしまう。
「この前の当直まで癒しもないまま、よくやり過ごすことができたなって思うよ。この幸せ知ったら、もう前には戻れないね」
「……碧くん、疲れてる?」
言葉が甘すぎてとろけそうなんですけれど……私。
疲れているから、いつもの3割くらい増しの甘い言葉なのかしら。
電話口で囁かれると、眠れなくなりそうなんですけれど……
「うん……そうかも。今日は昼間も結構忙しくて張り詰めていたから。
でも、今は幸せだよ。彩李ちゃんの声聞いたら、気持ちが緩んで………ふぁあ……」
どうやら、欠伸が出たらしい。
それにしても……私の声を聞いてホッとしてくれるなんて……恥ずかしいけれど、嬉しい。
私の中にも幸せな気持ちがじわじわと広がっていく。
「碧くん、電話ありがとう。私も話せて嬉しかった。
ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「うん。また明日ね」
私は通話の切れたスマートフォンをぎゅっと握りしめてささやいた。
「また、明日…ね」
読んでいただき、ありがとうございます。
興味惹かれる作品でしたら、評価いただけると嬉しいです。




