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19話 副業許可を出してみました

「それは認められません。ごめんなさい」


 ありがとう、メイソン。わざわざ事前に私に相談してくれて。正式な依頼主はお父様なんだから、直接お父様に話を持っていくという手もあったんだろうに。そうやっていつも私の気持ちを十分に配慮してくれるところ、私大好きよ。


 ……でもダメなものはダメ。


「……いやあの、別に契約を更新しないと申し上げているわけではないんです。そこは、ご理解いただいています…よね?」

「もちろんです。数か月間、実戦感覚を鍛え直すための修行の旅に出たい、次の契約は旅から戻ってから改めて締結したいというお話でしたよね?」

「…はい、そうです」

「はい、ですからそれは認められません。ごめんなさい」

「……」


 メイソンがうちの屋敷に来てくれてあと少しで1年が経とうとしている。今のところすべてが順調にいっている。


 私の魔法と剣術は両方とも日々順調に上達している。アイリーンはもっとすごくて、すでに冒険者でも騎士でも余裕でやっていけるレベルの剣士に成長したらしい。本人にその気は全くないらしいけど。


 面倒な婚約の話も最近はあまり出なくなった。繰り返し使っている「家柄や身分の釣り合いだけで決まる結婚は望まない。能力や人柄も十分考慮して、自分でこの人が良いと判断した人と結婚したい。でも私はまだ子供だから人を見る目があるとはいえない。だからパス」という理屈っぽい断り方が良かったのかもしれない。

 

 そして何よりも、メイソンとの毎日がもう楽しくて楽しくてしょうがない。お姉様のアドバイス通り、日々のアプローチにはヤンデレテイストのものを取り入れてみた。


 それがよかったのか、それとも出会った時から継続的に押しまくった結果が出ただけなのかはわからないが、彼は私の想いに真剣に向きあってくれるようになった。


 誠実な彼は、ある意味予想通りの行動ではあったが、自分は私に相応しくないから諦めてほしいと私を説得してきた。


 やっと想いに向き合ってくれるようになったかと思ったら即刻断りを入れてくるとはさすがに予想していなかったので、かなり取り乱してしまった。でもなんとか無事に返り討ちにしてやった。


 さすがに征服欲とか加虐心云々は言わなきゃよかったかな。ちょっと引かれてしまったかもしれない。もちろん、彼が実際に跪いて懇願しろって言ってきたらいくらでもやるけどさ。そういう問題じゃないよね。


 「本当は君の方が彼に跪いて懇願したかったんじゃないの?」って思っている方もいるかもしれないけど、私そんなドMではないからね。メイソンの前ではほんの少しだけMっ気があるかもしれないけど基本はノーマルだよ。……たぶん。


 ……私がドMかどうかというどうでも良い話は一旦おいといて、なんというか、最近のメイソンからは、彼が私のことを憎からず思っていることが割と分かりやすく伝わってきてとても嬉しい。


 私のアプローチに赤面したり、タジタジになったりするし。「効いてる効いてる、可愛い♪」って思ってついつい調子に乗っちゃう。


 私、もしかしたら魔性の女の素質があったのかもしれない。たぶんもう私のこと結構好きになってくれているけど、年齢とか身分とかくだらないことを気にして手は出せずに悶々とする彼を見ているのが正直楽しい。いつになったら動いてくれるのかな?私はいつでもいいよ、うふふって感じ?


 …前世では彼と一緒にいられる時間は一週間しかなかったからね。「恋の駆け引き」的なことを楽しめる時間も余裕もなかった。もちろん、前世の最後に彼が作ってくれた、激しく燃え上がるような情熱的で刹那的な恋の思い出は、私の一生の宝物だけどね。


 でも今は前世とは違う。一週間後に強制的に彼と引き離されることはない。今の私には時間がたくさんあるんだ。


 だからこれからゆっくり時間をかけて、それこそ私がいないと生きていけないくらい私のことを好きになってもらって、一生かけてたっぷり愛し合っていきたい。だから3年でも5年でも10年でも待つよ、私。


 だって、うちの屋敷にいてもらって、私がしっかり監視をしている限りは、彼を誰かに取られるリスクはほとんどないからね。


 いわば彼は私が作った蜘蛛の巣にかかってしまった美しい蝶々。いつか私のところに堕ちてくるのは確定しているのだから、私は今の初々しくて甘酸っぱい関係と、私のために苦悩する彼の可愛い姿を存分に楽しめば良い。


 …あれ?私どちらかというとMかなってとずっと思ってたけど、意外とSもいけるのかな?私がメイソンのことをご主人様と呼ぶ未来だけじゃなくて、メイソンに私のことを女王様と呼ばせる未来もあり?


 「お嬢様ぁ?呼び方が違うでしょう、このブタッ!(バシッ!)」ってか?……いやないわ。マジでないわ。この妄想は今すぐ記憶から抹消しよう。


 ……なんか妄想が捗りすぎてなかなか本題に戻れなかったけど、煩悩が限界に達したのか、メイソンが契約を更新する前に数か月間、実戦感覚を取り戻すための旅に出たいと申し出てきた。まあ、実戦感覚が衰えるのが心配というのも、もちろん本音だろうけど。


 でもそんなの認めるわけがないじゃん。認められるはずがないじゃん。


 その数か月でせっかく盛り上がってきた私への気持ちが落ち着いてしまったら?旅先で出会った他の女のことを好きになっちゃったら?……旅先で、万が一彼が前世で付き合っていた元カノと出会ってしまったら?


「…前も説明しましたけど、そう遠くない未来に、私には命の危機が訪れる可能性があります」

「…はい」

「残念ながら、それが具体的にいつ頃なのかまでは見えてなかったんですが…仮にそうなった場合、私の命を助けられるのはおそらくメイソンだけなんです」

「そう、でしたね。……ただ、前から思ってたんですが、もし夢の中で俺がお嬢様の命を助けていたならば、お嬢様の命に危機が迫るときはいずれにしても俺はお嬢様のそばにいる運命、ということにはならないんでしょうか」

「……」


 うっ…。そこまで考えてなかった。確かにその通りです。さすが私の旦那様(仮)、頭脳も明晰。てかボロが出ちゃった…。やっぱ嘘なんかつくもんじゃないね…。


「確かにそうかもしれませんが…、怖いんです、不安なんです。メイソンがそばにいてくれないと安心できないんです」

「……そうですか」


 うわ…嘘の上塗りになってしまった…。どうしよう。収拾つかなくなってきたぞ。


 …正直、命の危機が迫ったのは修道院に行く道中だったから、同じ時期に同じルートでセント・アンドリューズに向かわない限り、迫ってこないんだよね…。しかも私が18歳の時の話だし。


 もちろん、メイソンがそばにいてくれないと安心できないってのは本当だよ?他の女、特に前世の元カノに彼をとられてしまうじゃないかという意味での「安心できない」だけど…。


 ……もう自分から「夢」の話を持ち出すのは絶対にやめよう。大好きな人に嘘をつく罪悪感に押しつぶされそう。……本当にごめんなさい。


 …あっそうだ。良いこと思いついた。


「…でも、実戦感覚を磨くことが必要というメイソンの意見には同意します」

「…えっと、では?」

「私も連れてってください」

「……」


 メイソンは一瞬驚いた顔をした後、なぜか頭を抱えてしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 うまくいった。娘に甘いのに同時に信頼もしてくれる両親をもって幸せです。お父様、お母様、ありがとう。前世のことはもう完全に水に流します。


 結局どうなったか。メイソンの契約は空白期間なく更新された。しかも私の強い主張が通って今度は1年契約ではなく、私が魔道学園に入学するまでの約2年間の契約期間となった。


 よし、これで魔道学園に入学するまでの間、彼を私のところに繋ぎ止めておくことができる。やったね!これで勝つる!


 実戦感覚を鍛え直すための旅の件は、「旅」という形ではなく、今後は彼がローズデール・ラインハルトのギルドから日帰りか、数日以内に帰宅できる範囲で魔物討伐のクエストを受けることを認めるという形になった。いわば副業許可である。


 嬉しいことに、私とアイリーンが彼と同行して実戦経験を積むことも許可された。ダメ元で言ってみたら案外あっさり許可が出た。


 今の私の実力ならよほど強大な魔物を狩りに行かない限り、身に危険が及ぶことはないだろう、メイソンとアイリーンが同行するならなおさらと、普通に許してもらえた。若いうちから実戦経験を積むのは良いことだと、むしろ歓迎された。


 さすがに私がメイソンと二人で数か月間、修行の旅に出るという当初の提案は認められなかったけど、そこは最初から期待していない。メイソンが一人で旅に出ることを阻止できただけで十分です。クエストにも同行できるようになったしね!


 それにしてもお父様とお母様は、私が思っているよりも私の魔法の実力を高く評価してくれているらしい。私自身は実戦で使ったことがないから自分の魔法がどこまで通用するのか少し不安だけど。…うん、その不安を払拭するための実戦訓練だもんね!頑張ろう。


 ということで、チェルシー・ローズデールとアイリーン・キャスカートの二人は、ローズデール・ラインハルト大都市圏の冒険者ギルドで正式に冒険者登録しました!パチパチパチ…


 …そう、これがのちにドラゴンスレイヤーとなる伝説の3人組パーティーの誕生の瞬間であった……ってのはたぶん絶対違うけど、思ったよりも早く冒険者になれちゃった。しかも公爵令嬢の身分のまま冒険者登録することになるとは思わなかったな。


 …特に何も考えずに本名で登録したものだから、ちょっとした騒ぎになっちゃったよ。


 公爵令嬢が冒険者登録ってそんなに珍しいのかな。ラインハルト公爵夫人も若い頃は冒険者やってたって聞いたけどな。彼女って結婚前はそんなに有力貴族ではなかったっけ?忘れちゃった。いずれにしてもお騒がせしてすみませんでした。


 そして明日は、いよいよメイソンと私、アイリーンの3人で初めての魔物討伐に出かけることになった。初陣である。緊張するし正直とても怖いし、命のやり取りがしたいかと言われたら、はっきり言ってしたくないけど、いつかメイソンと一緒になるために避けては通れない道だ。


 ならば割り切って、メイソンに「おっ、この女使えるじゃん。これなら将来旅に連れてってやってもいいかな」と思ってもらえるように頑張って活躍するぞ!

「チェルシーは間違いなくドMちゃん」と思う方は☆での評価をお願いします。

「いや、ここからドSなチェルシー様に切り替えていってほしい」という方は☆での評価をお願いします。

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