ふたりめの騎士
「……蝙蝠笛というのは、大体どこの牧場でも同じのを使ってる。だから、おれの笛でも、簡単に追い立てることができたってわけさ」
「なるほど、ね」
せまい通路を抜けると、そこは蝙蝠牧場の敷地であった。アカリタケがまばらにはえた広場に、最上部に穴のあいた石柱が林立している。
人は、いない。さわぎをきいて逃げてしまったのかもしれない。
「で、あの蝙蝠たち、どうなるの?」
「そのうち、戻ってくるさ。日頃から、あのあたりを放し飼いにしていたようだからな。」
「ふうん、……よかった」
と、言っていいのかどうか、よくわからないが。
みずしらずのゼラ人の家畜を逃してしまったとしたら、少し寝覚めがわるい。
さて──
蝙蝠牧場のはしを通って、ふたたび洞窟へ。
といっても、さっきのような隘路ではない。朱里が立って歩けるくらいの高さ、広さが十分にあり、アカリタケもびっしり生えている。
ゼラ国とマリス国の、国境通路である。
この通路の途中に横穴があり、竜の巣へ続いているはずだ。
おそらく、もうすぐ──
「まて、」
ラードナーラはちいさな声をあげて、動きをとめた。
「……だれかいる。足音だ」
「え?」
朱里はあたりを見回した。周囲には岩がいくつか。そのほかには、誰の姿も見えない。もっとも、見えないだけかもしれない。
「また追手?」
朱里は声をひそめた。いちおう身をかがめるが、あまり意味はなさそうだ。
「わからん、大勢だ」
「他に道は……」
朱里がつぶやいた、そのとき。
「動くな!」
背後から、かん高い声がした。
ふりむくと、二十人ばかりのゼラ人の一団が、そこに立っていた。
ルードレキの隊と同じマントと、紋章。ただし、マントは緋色だ。
岩かげに潜んでいたものか、それとも──
先頭にいるのが、隊長のようだ。比較的小柄で、尻尾も小さい。大きな丸い目が、つらぬくような力をこめてこちらをみすえている。
「騎士隊長のクリムルだ。なぜ、巨人がここにいる?」
若い、女の声であった。朱里の感覚でいえば、10代か20代前半くらいか。
朱里が口をひらく前に、ラードナーラが二人のあいだにすすみでた。
「おれたちがどこにいようと勝手だろう?」
とげとげしい声。少し、いらついているようだ。
「女王陛下より、巨人を捕縛して王都に連行するよう、命令が出ているはずだ。お前たち、知らんはずはあるまい」
「知らん!」
ラードナーラはそっぽをむいていいきった。
「貴様、名前は?」
「ジャブスルーのラードナーラだ」
「知らんな」
クリムルは、大仰な動作で横をむいて、
「おまえ、巨人をかばうのか?」
「だとしたら?」
クリムルはちょっと笑った。ように見えた。
「剣を持っているな。……ならば、腕づくだ。異論は?」
朱里が何かいおうとするのを、ラードナーラは身振りでおしとどめた。
「いいだろう」
にいっと、笑って。
朱里は、顔をしかめて、ちょっとため息をついた。




