表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界八景  作者: 楠羽毛
地底の世界
38/206

悪役たち

「狭い……」

 朱里がつぶやく。

 マモー族の領土の北壁から突き出した横穴。ゼラ国の北部辺境を経由して、国境通路へと続く狭道である。

 ここらの洞窟群は、かつて大探索時代に掘られたものだと言う。

「……地上へ、地上へと。通路を掘りまくった時代があったんだ。」

 ラードナーラが、脈絡なく口を開いた。朱里はカセイジンと目を見合わせて、ぼんやりした相槌をうった。

「へえ。」

「おれも、その時代に生まれたかった。」

 表情は、見えない。

 干したアカリタケでつくったランプは長持ちするが、あまり明るくはない。なんとか足元が見えるていどだ。

「そうなんだ。」

「自分の力で、どこまでもゆける時代だ。今はそうじゃない。」

 朱里は何か言おうとしてやめた。異世界の歴史など、わからない。

 そのかわり、ふと思ったことをたずねてみる。

「……それだけ掘っても、地上にはたどりつかなかったの?」

「当時は、人が少なかったんだ。それに、組織だってもいなかった。一人ひとり、自分の信じた道を掘り進めていただけだ。今なら、色々とやりようはあるんだろうが……、」

「ふうん……。」

 聞きながら、朱里は天井を気にしている。

 最初は、かるがると立って歩いてゆける高さがあった。それが、どんどん低くなっていく。

「……このまま通れなくなるんじゃないでしょうね。」

「マモー族がこの道でよいと言ったんだ、大丈夫だと思うが……」

 ラードナーラは、道の端に目をやった。

 なにかの糞である。それも、山のように積み上がっている。

 それから、密度は薄いが、ところどころに生えている小さなアカリタケ。

 いずれも、朱里は気づかない。

「たぶん、大丈夫だ」

「え?」

「いいから、行ってみよう」

 それだけ言って、どんどん足を速める。


 通路は、さらに狭くなっていく。

 朱里は、はいつくばって進まなくてはならない。膝がこすれて痛い。そこらの凹凸に、裾がひっかかりそうだ。

「……これ、どこまで続くの?」

 邪魔な飾り鎖を巻きとって握りこみながら、朱里は思わずこぼした。

「さァ、たぶんこのさきは天井が高いはずだ。あれがあるようだから……」

「あれって?」

「ほら、さっきの床に……」

 いいかけたラードナーラの口が、すぐ止まる。

「……来たぞ、追手だ」

「ここで!?」


 ルードレキ!


 朱里は息をのんだ。暗いうえ、狭すぎてまともに振り向くこともできない。しかし、たくさんの気配がこちらに近づいてくる。


 ざざあっ…


 足音。いや、服と毛皮のこすれる音か。小さいころ読んだ絵本に出てきたねずみの大群を思い浮かべて、朱里は身をふるわせた。

 ひゅっと、何かが飛んでくる。

 足にからみつく感覚。あわてて振り払おうとするが、足首から先を動かすだけではうまく外れない。

「こうもり捕りの網だ!」

 ラードナーラがさけぶ。ついで、金属音が数回。

「こんなの……」

 強引にひきはがそうとするが、今度は足首すら動かない。

「鋲だ……」うめく声。

 網をかけた後、すばやく地面に鋲をうちつけて固定したのだ。

 あわてて首を動かす。視界のすみに、ラードナーラがうつる。剣を抜いて、今にも騎士たちに飛びかからんとしている。

「ラードナーラ! やめなさい! 一人で行って。──はやく!」

 かれがこちらをみて、身をひるがえしたのを確認して、朱里は安堵した。


 捕まっても、かまわない。どうせ、この世界にいるのは、あと数日だ。

 かれは姫を助けにいけばよいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ