再会
到着した店は、まだオープンしていないので装飾や看板は無いが既に可愛らしい外観をしている。
入ってすぐの場所にはショーケースがあり、テイクアウトも予定しているのが分かった。
席の間隔は少し広めに取られていてゆっくり寛げそうな空間が広がっていて好印象だ。
所々に施されている木の装飾や飾り窓が可愛らしくも細やかで貴族向けの店にしても見劣りしない内装だと思った。
「素敵なお店だわ。ゆっくりお茶が出来そう」
席に着くとメニューを渡された。
「こちら、お飲み物のメニューでこざいます」
目を通すと確かに庶民には少し高めの設定かもしれない。
私はリンゴの紅茶を、ソフィアは柑橘類の紅茶を、ローレイは珈琲を頼んだ。
やがて様々なフィンガー料理が運ばれてくる。
見た目も可愛らしくどれも美味しい。
私たちは正直な感想をローレイに伝えていった。
ハズドさんに正確に伝えるためかローレイはメモを取りながら食事をしている。
やがてお茶と共にスイーツが運ばれてきた。
「…あら?」
「…」
お茶を一口飲んで少し驚く。
ソフィアも少し眉をしかめ小首をかしげた。
「シャロット?ソフィア?どうしたの?」
「これ…美味しくないわ…」
実際味わいとしては普通の紅茶だと思う。
だが料理のレベルが高かったので紅茶の味気なさが際立って感じた。
私の感想にローレイも同じ紅茶を頼み、口にする。
「確かに茶葉の割に…値段に合わないわね」
どうやら良い茶葉を使ってはいるらしい。
「お嬢様、ローレイ様、これを淹れた方は…正しいお茶の淹れ方を理解されていないのだと思います」
ソフィアがお茶を飲みつつ少し考えて続けた。
「基本的な淹れ方はされてますが、細かな点を知らないまま…本来の紅茶の香りなどを理解されてないのでこのような香りの足りない味気ないお茶になったと思われます」
私たちの様子が変わったと察したのかハズドさんが飛んでくる。
「何か不手際がありましたか!?」
私たちは紅茶について正直な感想とソフィアの推察を伝えた。
「ハズド様、宜しければ私が紅茶の淹れ直しをさせて頂いても宜しいでしょうか?」
ハズドさんに案内されてソフィアがキッチンへと向かう。
なんとなく私とローレイも後について行く。
そこで私は懐かしい顔を見た。
「え…サヴィ?」
私の声に一人の男性が振り向く。
少し珍しい青い髪に濃い紫の瞳をした青年。
「まさか…シャロ?」
こちらを向き、驚いた表情の彼は眼を見張るほど美しい青年となっていた。
「サヴィ様?お嬢様、よくお分かりになりましたね」
「綺麗な青い髪だったからつい名を呼んでしまったの…」
懐かしさが蘇り、つい紫の瞳を見つめてしまう。
いつも街の教会に併設されている遊具のある広場で一緒に遊んでいた。
いつからか彼は来なくなり会えなくなったが青い髪といえば彼しか浮かばなかった。
初恋にまで至らない淡い想いを抱いた人…。
少し過去に思いをはせていると
「リッジ子爵様をご存知なのですか?」
と、ハズドさんから驚いた声が上がる。
が、子爵?
「ハズドさん、彼女とは幼馴染なのです。私は幼少期レイナーラの都市ナーラに住んでいましたから…。シャロ、驚かせてごめん。僕の本名はサルヴィーノ・リッジ・ヘンドリー。隣国のヘンドリー侯爵子息なんだ。だから外では略称を名乗ってた」
「そうだったの…」
隣国では侯爵位以上の爵位を持つ家の男児は3人まで子爵位を賜る事が出来るのだという。
なので生まれながら彼は侯爵子息で子爵なのだそうだ。
「実は私も略称だったのよ…。本名はシャロット・レイナーラ…辺境伯子女よ。ソフィアは友人なのは本当だけど当時は付き人…侍女見習いだったの」
「そうだったのか…。どうりで品があると思っていたよ」
気が付けばキッチンの入口は私たち2人だけになっていた。
皆は気を利かせたのか移動し、奥でソフィアが紅茶の淹れ方を実践し教えているのを見守っている。
「シャロット嬢、もし宜しければ近いうちに私とお茶をしてくれませんか?」
私がソフィアたちの方へ視線をやったのに気付いたのか日を改めて会うことを提案してくれた。
が、この呼び方は寂しさを感じる。
「リッジ子爵様…昔みたいにシャロと呼んでくれませんか?呼んでくださるなら喜んでお誘いを受けさせて頂きますわ」
幼いあの時、彼が自分を呼んでくれる時の瞳が、声が、心地良かったのを今でもはっきり覚えている。
あの時のように呼ばれたかった。
「では私の…僕の事もサヴィと呼んで?お互い昔みたいに話さない?」
緊張感の様なものが消え、はにかんだ笑顔でそう提案される。
「サヴィが良いなら…嬉しい…」
淡い想いがあの頃の続きと言わんばかりに胸に溢れた。
「新しくお茶を淹れましたので試飲されませんか?」
話が落ち着いたのを察したのかソフィアが声をかけてくれたのでサヴィと別れ席へと戻る。
そしてソフィアが淹れ方を指導した紅茶は流石だった。
茶葉の良さが感じられる香り高い味わいとなっている。
ハズドさんも席について紅茶を試飲した。
「! こんなに違うだなんて…」
「ソフィアはお茶を淹れるのがうちでも上手な方よ。これなら紅茶を飲み慣れてる人でも満足出来ると思うわ」
驚くハズドさんについ自慢してしまった。
ソフィアが褒められたのが嬉しく誇らしかったのだ。
「ソフィア様、どうか他の茶葉もご指導お願いします!」
こうして私がサヴィと会いにまたこの街へ来る日にソフィアはハズドさんのお店の従業員たちに紅茶の淹れ方を指南することになった。




