学校生活
楽しい学校ももう最終学年。
15歳の秋に貴族は社交デビューをするから全員が16歳となる前に…冬が終わると卒業となってしまう。
16歳以上が通えるのは王都にある貴族上級学院と平民たちが行く職業毎の専門学校だ。
うちの領地の村や町を管理してくれている子爵家や男爵家の他、比較的豊かな家の平民たち、隣国の商人の子息たち…様々な立場の彼らと共に過ごせる時間はあと1年も残されていない。
私ももうすぐ15歳になる。
通常ならば社交デビューのために秋には王都に呼ばれるのでそうなればあと半年ちょっと…。
ただ今更王都に呼ばれても領地の使用人の皆と離れて顔も覚えてない家族と暮らすなんて…想像も出来ないんだけど…。
そんな鬱々した気持ちが常に胸にあった。
「シャロット!どうしよう!」
ぼんやり席で考え事をしている私の背中に飛び付いてきたのは子爵令嬢の三女ローレイだ。
「私、婚約者が出来たわ!」
「え!?おめでとう!…って嬉しくないの?」
子爵令嬢とはいえ三女ともなれば数年はどこか高位貴族家で働く事が多い。
学生のうちに婚約者が出来るのは長子ならばいざ知らずそれ以外はいる者いない者半々…よりいる者の方が少ないくらいだ。
「嬉しいより不安よぉ…。年も7歳も上みたい…」
「どんな相手なの?」
「うちが管理してる街で一番大きなレストランの御子息なの…。温和そうな人だったけど…」
家族で食事をしている時にローレイを見初めたらしく結婚の申込みが届いたらしい。
相手の男性は平民に多い茶色の髪に焦げ茶の瞳をした誠実で温和そうな、少しふっくらした体型の人だという。
暗めの赤毛にオレンジの目をしたローレイは自分には一目惚れされる要素なんてないのに何故自分なのかという気持ちが払拭出来ないから不安なのだと暗い表情で語った。
確かにローレイの容姿は貴族の中では十人並、平民に混じればなんとか美人に分類されるとは思う。
ただ、食事の席なら共にいたであろう上の姉の方が目を引く美しさがあるし、下の姉の方はローレイより明るい赤毛なのもありとても華やかさのある人だ。
この三姉妹が並んでいる中で見た目からローレイを選ぶ男性は平民でも少ないだろう。
相手の男性とは歳の差があるが、ローレイは背が高めで落ち着いた雰囲気をしている為5つ上の長女とよく間違えられる。
見た目的にはそこまで年齢差を感じさせないので相手が少女趣味によりローレイを指名したとは考え難い。
「年齢差や平民の方との婚約が嫌なのでなく、何故自分が選ばれたか分からないから不安なのね?」
「…えぇ…そうね、悪い人ではなさそうだったから…」
婚約が結ばれたあとに少しの時間だが2人でお茶をしたらしい。
その時に少し内気だが優しい穏やかな人だと感じたそうだ。
貴族も利用するレストランを経営しているからか拙さは少々あれど貴族的なマナーも少しだが心得ていて、身分差はあれどお互いに大きく戸惑うことはなさそうだとも思えたという。
「そうだわ…私、どうして不安なのかも分かっていなかったわ。何故私が選ばれたか自信がなかったからかもしれない…」
「話を聞いている限りそうみたいね。でも、言い方は悪いけど平民の方が相手だし…変な方なら破棄が出来るから婚約中に見極めればいいんじゃない?」
貴族同士の婚約だと契約の要素が強いので破棄するのは難しい。
そして、どの様な理由であれ破棄すると貴族院の記録に残り『傷物』として扱われてしまう。
しかし相手が平民である場合はこの限りでなく、成婚しなければ記録に残らないので傷が付かない。
「そうだったわね!私、どうして私が選ばれたのかちゃんと見極めるわ!また話、聞いてくれる?」
「もちろんよ!」
背中に飛び付いてきた時の心細そうな様子とは打って変わっていつものローレイに戻っている。
話題もどう見極めていこうかだなんて前向きなものとなっていた。
(私にも…婚約者が用意されたりするのかしら…?)
そんな考えがふと頭をよぎる。
身分だけをみるとこの学校で飛び抜けて高い辺境伯令嬢。
子供の頃から婚約者がいても不思議ではない身分。
この年齢で理由なく婚約していない方が珍しく、いつ婚約者が出来てもおかしくないのだ。
ローレイにはまだ好きな人がいなかったが周りを見渡せば、そこかしこで恋の話が溢れている。
卒業まで残り1年を切っているのもあり、道が分かれる前に想いを伝える者、周りを牽制する者、アプローチを始める者それぞれだ。
(私もまだ…恋する気持ちは分からないけれど…)
もし自分にも婚約者が出来るならローレイのように好きな人が出来る前がいいな。
そう思わずにはいられなかった。




