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ある辺境伯の後悔  作者: だましだまし


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3/8

憎い娘

セディナが逝った。

それも、私が傍に付いていない時に。


忌々しい義両親が訪ねてきやがったせいだ。

セディナの父親さえ来ていなければ看取れたのは私だったのにと悲しみが憎しみとなり、腸が煮えくり返った。

奈落に突き落とされたような思いなのに義父が義母に私のせいでセディナは死んだ、結婚させるのでなかったと話しているのも見てしまった。

セディナが死んだのは出産のせいだろう!

この二女のせいだ!私のせいなわけが無い!

さらに腹が立つことに次女の髪は義父にそっくりなのだ!

顔立ちもどことなく義父によく似ている。

瞳の色は私と同じ緑で全く可愛いと思えなかった。


母を恋しがって泣くリビアナとロベルトと共にしばらく泣いて暮らした。

私とて妻が、セディナが恋しい。

名前は男女それぞれの名を既に用意してあったがセディナが「シャロット」と呼んでしまっていたのを子供たちが見ていたので仕方なく『シャロット』と名付けた。

彼女の最後のワガママだ。

死んでしまっては叶えてやった事もわからないが…子供たちも妹を既にシャロットと呼んでいたから仕方ない。


シャロットは雇った乳母やセディナの侍女をそのまま世話係にして任し、私はリビアナとロベルトと共に過ごしながら心の傷を癒やしていった。

時折シャロットの様子も見に行ったが煌めく明るいブロンドは憎い義父を彷彿させる。

そして何より目が気に入らない。

セディナの大きな目とは似つかない細長い目。

一重にしてはパッチリとしていると抜かす奴らにセディナそっくりな目をしたリビアナの愛らしい目を見せてやりたい。

セディナの侍女だった奴らは母親にそっくりだと言うが目元が似ても似つかない。

他は確かにセディナにも似ているとも言えるがセディナというより義父に見えて仕方がない。

しかし、こんなにもセディナに似ていると言われるなら育てば私もそう感じるかと5歳まで待った。

が、やはり義父似は義父似のままだ。

セディナと私の最後の子だというのにとんだハズレが産まれたものだ。

私とセディナ、最後の別れの邪魔をした憎い義父。

嫌悪する義父にそっくりな愛しい妻を殺した憎い娘(シャロット)。

妻への愛しさは募るばかりで憎しみは消えるどころか薄れる気配もなかった。


妻が亡くなってしばらくは孫に会わせろと煩かった義両親だったが適当にかわしているうちに気付けばほぼ没交渉となっていた。

レイナーラ領がラメノ領からも王都からも遠いおかげだ。

王都で暮らす時期もほぼ顔を合わせないようにしていたので年に1、2度の子供たちも参加するようなパーティでしか会わない祖父母に子供たちも懐く事はなかった。

私が義父を嫌悪しているから余計かもしれない。

相手が侯爵なので悪口こそ言わなかったが親しみのこもった態度なぞ取れるはずが無いからな。

いつからか祝い事があるとプレゼントと手紙が届くだけの関係となっていった。

今から思えばシャロットだけ侯爵家に渡しておけば良かったとも思うが今更声をかけ、リビアナやロベルトとの交流を求められても困るしな。

それに憎いアレ(シャロット)が侯爵令嬢になるのも気に食わない。


シャロットが8歳になった頃、アレが視界に入るのも嫌で私と上の二人の子供たちは常に王都で、シャロットは病弱ということにしてずっと領地で暮らさせた。

学院も上の子たちは王立の貴族学院へ行かせたがシャロットは領地の国境沿いにある比較的富裕層が通う学校へと通わせた。

本当は学校に通わせるのも馬鹿らしいが貴族はどこの学校へ通ったと届けを出さねばならんから仕方がない。

富裕層が通うとはいえ平民が大半の学校だ。

そのまま平民落ちするような事になればいいと思わずにいられない。

娘とはいえ愛する妻を殺した憎い仇。

本音を言えば虐げても良い存在だが不自由無い暮らしをさせてやっているだけ私は寛大というもの。


離れて暮らしているからか文字を覚えたシャロットから手紙が届く事もあった。

しかし妻を殺した娘になんぞ返事を書く気が起きず放置しているとそのうち届かなくなった。

『シャロット』の文字列を見ると愛しい妻が名付けたという思いが込み上げる。

しかしその容姿は義父に似ているおぞましい奴で、妻の仇なのだ。

悲しみが和らぐことも殆ど無いというのにまもなくセディナの15回忌。

ということは、あの母殺しも15歳の社交デビューの年になりやがる。


リビアナの社交デビューはそれはもう華やかにした。

王都で人気のトップデザイナーに一年以上前から予約を入れ、宝石もセディナの為に用意していた高級なものから新たに用意した豪華ものどちらも使いそれは美しく飾り立てたものだ。

着飾り、大きな紫の瞳が私を見つめたとき、かつてのセディナが重なって見えた。

私に似ているとはいえやはり娘、どことなく母の面影が見えるんだなと涙ぐんだものだ。


ロベルトの社交デビューも力を入れた。

私の血が混じっているせいか幼い頃より色味が濃くなったブロンドは、滅多にセディナのように真新しい銅のようなピンクに輝くことがなくなったが、元々母親似なだけあってその容姿は彼女の息子だと雄弁に物語っていた。

ロベルトが娘であればと思わずにいられないほどにセディナの面影を感じさせる彼は辺境伯子息として相応しい堂々とした青年に育ってくれた。

その佇まいに相応しい衣服に男性用の装飾を用意した甲斐があったというものだ。


そしてシャロット…。

もう何年も会っていない。

顔を見る気にもなれない。

あの明るい髪を見ると腹が立つ。

細い目と視線を合わせたとて返ってくるのは私と同じ緑色。

病弱ということにしているのだし社交デビューもそれで誤魔化すか。


ラメノ侯爵が社交デビューさせないのかと干渉してきたが『セディナと同じ体質だ』と返すと領地への見舞いに来たいと言ってきたので、これには私が不在で良ければ好きな時に来て構わないと伝えた。

私の愛するリビアナとロベルトは社交界でラメノ侯爵と会っても他人行儀で、侯爵家に奪われる心配が無かったしアレ(シャロット)はどう思おうが社交デビューしていないから親の私が許可を出さなければラメノ侯爵と共に領地を出ることが出来ない。

領地で田舎暮らしをさせているだけで別に虐げてるわけでないから侯爵家とはいえ訴える事も出来まい。

連れ去れば誘拐だ。

アレは憎いが可愛いリビアナより上の身分になどしてたまるものか。


政略結婚のコマに使う機会がくるか、使いにくい年齢になってきたら適当にデビューさせてどこかの後妻として嫁がせよう。



そう思っていた。

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