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昔の自分
いつからだろう。
昔の自分を、思い出したのは。
きっかけは、たいしたことじゃなかった。
たまたま入った店で流れていた音楽。
学生の頃、何度も繰り返し聴いていた曲だった。
懐かしい、というより、驚いた。
まだ覚えていたのか、と思った。
歌詞も、リズムも、自然に口をついて出てくる。
忘れていたわけじゃなかった。
ただ、思い出す必要がなかっただけだ。
忙しくなって、守るものが増えて、
気づけば、前の自分を振り返る余裕がなくなっていた。
置いてきたつもりでいたものは、
ちゃんと自分の中に残っていた。
帰り道、少し遠回りをする。
イヤホンから流れる音に合わせて、歩幅が変わる。
昔と同じようには歩けないけれど、
同じ方向には、まだ進める気がした。
若さは戻らない。
でも、感覚は消えない。
使わなくなっただけで、無くなったわけじゃない。
昔の自分を思い出したのは、
失ったものを数えるのを、やめたときだった。
変わったことばかりに目を向けていると、
変わらなかったものが見えなくなる。
それに気づいた夜、
世界は少しだけ、広くなった。




