第1話:鉄の巨人は耕したい
あけましておめでとうございます!
昨年は沢山の方に作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!
これからも続きを読みたいと思ってもらえる作品を目指して執筆頑張ります!
今年もよろしくお願いします!
ズズズ……ドォォォォン!!
腹の底に響くような轟音と共に、夜の森の木々がなぎ倒されました。
私の目の前に現れたのは、見上げるような鉄の巨人です。
高さは五メートルほどあるでしょうか。
赤錆に覆われた装甲は月明かりを鈍く反射し、単眼の赤い光がギョロリと周囲を睥睨しています。
「リゼット、下がれ! こいつは危険だ!」
クラウス様が私の前に立ちふさがり、抜身の長剣を構えました。
その背中は殺気立ち、一瞬で「氷の公爵」と呼ばれた頃の冷徹な戦士の顔に戻っています。
「エリナ! 結界を張れ! リゼットを守るんだ!」
「は、はいっ! わかりましたぁ!」
寝間着姿のエリナ様が、震える手で光の障壁を展開しようとします。
ですが、巨人の動きは予想以上に俊敏でした。
『ピピ……開拓対象……カクニン……』
ノイズ混じりの機械音声と共に、巨人が右腕を振り上げました。
その先端についている巨大な鉄の爪が、空気を切り裂いて迫ります。
「くっ! させるか!」
クラウス様が地を蹴り、巨人の懐へ飛び込みました。
剣閃が走り、巨人の膝関節を狙って火花が散ります。
ガギンッ!
「硬い……! 普通の鋼鉄ではないな」
クラウス様が舌打ちをして距離を取りました。
巨人は痛みを感じる様子もなく、今度は左腕を突き出してきました。
そこには、高速回転する円盤状の刃が取り付けられています。
ブゥゥゥン!!
回転鋸の風切り音が、私の頬を撫でました。
あれに触れれば、人間など一瞬で挽肉になってしまうでしょう。
「リゼット、逃げろ! 俺がこいつの注意を引きつける。その間に……」
「……お待ちになって、クラウス様」
私は叫びました。
逃げている場合ではありません。
恐怖で足がすくんでいるのではありません。
私の目は、巨人の「武装」に釘付けになっていたのです。
「あれを壊してはいけませんわ!」
「なっ……何を言っている! 殺されるぞ!」
「よく見てください! あの右手の爪、あれは『深耕用ロータリー』です! そして左手の回転鋸は、ただの『自動草刈りカッター』ですわ!」
「は……?」
クラウス様が動きを止め、巨人を凝視しました。
無理もありません。
騎士である彼には、それが凶悪な破壊兵器にしか見えないでしょう。
ですが、元農業法人経営者の私にはわかります。
あの爪の角度、土を掘り返すための絶妙なカーブ。
あの回転刃の形状、硬い雑草を根こそぎ刈り取るためのセッティング。
あれは敵ではありません。
古代文明が生み出した、夢の「全自動開拓ロボット」なのです。
『障害物……排除……タガヤス……』
巨人が再びアームを振り上げました。
私の目には、それが「あ~、ここの土、固いなぁ。耕したいなぁ」と言っているようにしか見えません。
「クラウス様! 全力で斬りつけてはダメです! エンジン部分を傷つけたら、修理代が馬鹿になりませんわ!」
「修理!? 貴様、こいつを直すつもりか!?」
「当たり前です! あんな馬力のある重機、今どきどこにも売っていませんもの! 私の農園の新しいスタッフとしてスカウトします!」
私はガウンの裾を翻し、前へと踏み出しました。
手には愛用の「黄金のスコップ」。
「リゼット! 危ない!」
「大丈夫です。暴れている新入りには、少し『教育』が必要なだけですから」
私は巨人の足元へと滑り込みました。
巨大な足が踏み下ろされますが、私は土魔法で地面を一瞬だけ液状化させ、その衝撃を逃がします。
ズボッ。
巨人の足が泥に沈み、バランスを崩しました。
『ピ……!? シセイ……制御不能……』
「隙ありですわ!」
私はスコップに魔力を込め、巨人の膝裏にある関節の隙間を狙い撃ちしました。
破壊するのではありません。
動力伝達のパイプを、ピンポイントで「外す」のです。
カォン!
いい音がしました。
黄金のスコップは伊達ではありません。
『ガガ……駆動系……エラー……』
巨人がガクンと膝をつきました。
すかさず私は巨人の背中へと駆け上がり、首の付け根にあるメンテナンスハッチらしき部分を探しました。
農業機械なら、必ず緊急停止ボタンがあるはずです。
「ありましたわ! この赤いレバー!」
私はスコップの柄をテコにして、錆びついたレバーを強引に引き下げました。
プシュゥゥゥ……。
蒸気が抜けるような音と共に、巨人の赤い瞳から光が消えました。
振り上げられていた巨大なアームが、力なく垂れ下がります。
森に静寂が戻りました。
私は巨人の肩の上に立ち、勝利のポーズ……ではなく、額の汗を拭いました。
「ふぅ。なんとかなりましたわね。傷も最小限です」
下を見下ろすと、クラウス様とエリナ様が口をポカンと開けてこちらを見上げていました。
「リゼット……。貴様、本当に……」
クラウス様が剣を収め、呆れたように、しかし安堵したように息を吐きました。
「たまに思うのだが。貴様にとっての『敵』とは、害虫と雑草だけなのか?」
「ええ、そうですわ。この子はただの働き者ですもの」
私は愛おしそうに巨人の装甲を撫でました。
赤錆の下には、古代文字で何かシリアルナンバーのようなものが刻まれています。
『MODEL-T72 "TAGAYASU"』
「名前は……タガヤス君、といったところかしら」
「そのまんまだな……」
私たちが緊張を解いた、その時です。
停止したはずの巨人の胸部装甲が、カシャリと音を立ててスライドしました。
中から現れたのは、コックピットではなく、地下へと続く暗い空洞でした。
「……どうやら、この子はただの重機ではないようですわね」
空洞の奥からは、ひんやりとした冷気と、微かな機械音が聞こえてきます。
私の農園の地下に、未知の世界が広がっている。
その事実に、私の胸は恐怖よりも好奇心で高鳴りました。
「行きましょう、クラウス様。この地下にはきっと、私の安眠を助けてくれる素晴らしいテクノロジーが眠っていますわ」
私は黄金のスコップを握り直し、暗闇の中へと一歩を踏み出しました。




