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蝉が鳴き、暑さで空気が歪むなか僕と彼女は二人で歩いた。
途中、僕の青い服の端を掴み「一緒にいて」と彼女は呟いた。きっと心細かったのだろう。
そんな僕たちの心配をよそに(探しもの)である子犬はわずか数百メートル離れた木の下で、のんきに寝そべっていた。
見つけた瞬間、彼女は飛び上がり子犬を壊れ物を扱うように腕で包み込んだ。
そして僕はまた、母に手を引かれ帰り道を歩く。
振り向くと、彼女の横にいる穏やかな表情の男性に頭を下げられた。
彼女は犬をその手でしっかりと抱き、僕を真っ直ぐ見つめていた。
お互いの姿が豆粒ほどの小ささになると「またね、いつか会おうね」そう透き通った声が聞こえた。
それから数年がたち、宮間第一高校に無事合格した僕のもとに手紙が届いた。
差出人は知らない名前だった。
(元気でお過ごしでしょうか?近々あなたのもとへお伺い致します)
簡潔に書かれたその文を見て、僕は首をかしげた。
名前も文体もそれは、全く身に覚えがなかったからだ。
しかし、その手紙の差出人は案外早く僕のもとに現れた。




