桐生志穂の暴走 2
帰り道、志穂さんが腕を絡ませてくる。
「やめてください」
「どうして?嫌なの、男の人はこういうの喜ぶんじゃないの」
きょとんとして僕の顔を見る。
「喜ぶわけないじゃないですか、付き合ってるんならまだしも」
「じゃあ、付き合って」
声を弾ませうれしそうに言う。
(こりゃ、なにいってもダメだ……)
そこに一台の車が滑りこむように、こちらに向かってきた。
降りてきたのは『お嬢様』だった。
「あら、ごきげんよう」
表情ひとつ変えず僕たちを見る。
「やっぱりね、思った通りだわ」
「思った通りって?」
「この前の帰り際に言ったことがずっと気にかかってたのよ」
「あら、覚えてないわ」
志穂さんがとぼけたように言う。
「『あの執事良いわね』って。昔からこの人は欲しいものがあったら、そう言うのよね」
彼女は言った。
「分かってるなら話は早いわ。この執事、私にくださるかしら」
志穂さんが僕の腕を引っ張る。
彼女も取り返すように反対を掴む。
「ちょっと待って。『良い』とか『欲しい』とか僕は物じゃあありません」
二人がパッと手を離す。
反動で体がぐらつく。
「今日のところは帰るけど、私は絶対に諦めないわよ」
そういうと志穂さんが携帯をとりだした。瞬く間に車が現れ乗り込む。
「はやっ」
窓を開け、志穂さんが軽く会釈する。
「では、ごきげんよう。私は欲しいものは必ず手に入れるわよ」
そう言って車で走り去った。
(嵐が過ぎ去ったみたいな……)
うーん。と彼女が顎に手を当て、何か考えている。
「これは作戦練らなきゃね、このままでは良くないわ。あの子は昔から、強引なのよね」
「あの……」
僕のことなんか視界に入らないほど集中している。
あーでもない、こーでもない。そう言いながら彼女は消えていった。
♦♦♦
あれから二週間。
彼女からは何も音沙汰はない。日曜も自宅に来なかった。
学校では相変わらず志穂さんが僕につきまとっている。
「ねぇー今度、遊園地行こ。貸し切ろうと思うの」
「勉強がありますから、また今度」
「ねぇー、お昼一緒に食べましょう。特別にシェフを呼んであるの」
「そういうことなら真田を」
僕は、この二週間で志穂さんのあしらいかたを身に付け始めていた。




