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僕と彼女のはなし。
僕が知る限り、そのお屋敷の庭はどこよりも広くどこよりも豪華絢爛だった。
「森口、このバニラアイスには何をかけるのが一番合うかしら」
「お嬢様、それにはチョコソースを、ってせめて(くん)でも(さん)でも良いからつけてくれないかなぁ」
「しょうがないでしょ、あなたは吉川の代わりなんだから。それにここに来ることはあなたもきちんと了承したはずよ」
肩下の黒い毛先が涼しげに揺れる。
「了承したって言ってもさせられたっていうか泣き落とし、いや犬落とし?にほだされたっていうか」
そう頭をかく僕を彼女の横に座っているゴールデンレトリバーのメイが淀みのない目で、じっと見てくる。
「そうねえ、あなたは犬が大好きだもんね」
してやったりという風にメイの頭を撫で、彼女は口の端を上げる。それに応えるようにメイも舌を出す。
どうしてこうなったかというと、あれは11年前の暑い夏。




