新たな呼び名でもありません
後日談というにはあまり時間も立ってないある日。
洋館であったことの報告はギルドに済ませた。
そして私は呪い浄化の日常の中で、セイクリッドハウスで来客がない時に洋館で見つけた手記を読み解こうとしていた。
知らない文字が書いているわけじゃないんだけれど、本当に個人の手記で結構な癖字で読みづらい。しかも、手記自体も年季が入っていてところどころ文字がかすれていたり、ページが破れてしまっていたりするから前後の文章から想像しないといけない。
「アリアさん。どうですか?」
「うん? あんまり気持ちがいいものではないってことだけはわかってきたわね」
「そうなんですか?」
リナはあいもかわらず掃除だとかの雑務をしてくれている。
呪いの調査に関しては継続して行うことにはなったけれど、方向性をもう少し固めたいので一旦休みだと言われている。
「そういえば、取り寄せた資料の情報はまとめ終わったのかしら?」
「あ、はい。一応はまとめました。ただ、ミスがあるかどうかが自分でも心配ですけど」
「まあ、別に数字をだせとか言われてないから雑にでもわかればいいのよ。それで、どうだったの?」
「まあ、確実に多いとは思います。呪いが付与された装備や道具が見つかっている数が」
「そうなの?」
「というより、そもそもの話なんですけれど。呪いって絶対に気がつけるものでもないのに、毎日1件以上の浄化依頼がくることが異常ですよ。資料を見る限り」
「そこまで?」
「そこまでです」
ラビリアにとってダンジョンは切り離せない存在になっている。
魔物や外からの脅威に対抗できる設備がラビリアに整うまでの間は、もはや守り神と言ってもいいわ。
そんなダンジョンが中にはいってみれば、呪いのダンジョンとでもいえる代物だったかもしれない。
知らないままでいたほうが幸せだったのかしらね。
「本来は森の中でアタシたちも道具見つけてそれで調べるはずだったのに、あんな洋館が見つかってしまいますし呪われているんじゃないですか。ダンジョンそのものが」
私が考えていたようなことをリナも感じているみたいだ。
「まあ、でもちまちま道具探しよりは調査をした感じはしたし、あなたの報酬も結構なものがでたんだからいいじゃない」
「それはそうですが……」
洋館の報告の結果、ギルドからは通常レベルの報酬だったけれど、リットとその他の国の運営に関わる貴族たちからは、イレギュラーに対処した危険に対する保証みたいなものをだしてもらえた。
代わりに洋館があったこととかは、すでにギルドで前から依頼をだしていた都合上隠せないけれど、呪いが強く関わっていた上で崩壊してしまったことは広めないでくれという口止めも混ざっていそうだけれど。
「隠しきれるわけないわよあんなの~」
「洋館が消えたって噂はでちゃいますよね。まあ呪いじゃなくてダンジョンの気まぐれに起きることってなってるみたいですが」
それで誰もが納得しているかは、私は疑問だけれどね。
「それで、手記には何が書いてあったんですか?」
「オールド家の最期についてかしらね」
「どういうことですか?」
「どうやら戦争で当主がなくなったことをきっかけに代替わりしてバカ長男が家を潰したみたいね」
ここまではリットに聞いていた。
ただ、思い返すとわざわざ長男と言っているなら兄弟がいると想像がついたはず。
あの遺体でありこの手記を書いたのは次男だったらしい。
「あの、アタシにはわからない世界なんですが、程度は違えど貴族としての地位を手に入れたような家って、そんな簡単に潰れるものなんですか?」
「騎士団とかに関わるタイプの家柄であればあまりないわね。ただ、商売で貴族になった歴史を持っている家の場合は……稀にそういう馬鹿が継いだ結果潰れた家はそこそこってところかしらね」
だからこそ、商売の最中に王族や騎士団などとのパイプを作ろうとする貴族も多い。
「つまりオールド家? は商売の家柄だったと」
「おそらくね。しかも戦後の不安定な時期での代替わりだったのも原因でしょうね。商売のための交易路だって護衛つけていかないと荷物が奪われかねないわ」
「……ですが、それで手記にはなんと?」
「次男は次男なりに家を残せる道を探っていたし、実際に商才は次男の方がありそうな案がいくつか書いてあったわ。だけど、長男がバカだったのもそうだけれど、母親も古い人間というか能力よりも長男か次男かというところで長男の味方だったみたいね」
正直なところ、全部読み終わってなくても手記に書かれていることから簡単に推測はできるが、家が潰れたのは長男の商才が絶望的だったというよりも性格的な面で支援してくれる親戚や父親の時代の商人仲間から見限られたことが痛手だったんだろう。
「なんか大変なんですね」
「まあ、そんな感じで家を出て慣れない冒険者をこの次男はやっていたみたいよ。そして最後に書かれたページを見ると、ここのダンジョンにたどり着いたみたい」
「そんな経緯が……あれ? でも、それならなんで今までなかった洋館にその人が?」
「ここからは私の推測なんだけど。表立っての話で言えば彼は家を潰した兄とかを恨んでいたかも知れないけれど、無自覚だとしても物心ついて大人になるまで不自由なかったお金で苦労するというのは……かなりのダメージだったのよ」
「手に入れたことがないものに憧れるわけじゃないんですもんね。今までは自分の手にあったものが手に入らず、嫌でも目に入ってしまう」
「そういうこと。まあ、その上で冒険者としてもうまくいかずに放浪していた。それで最後は、駆け出し冒険者でもそうそう死ぬことはないとされる場所で自分が力尽きる瞬間に何を思ったのかって話よ」
「よほどの聖人でない限りは、後悔だとか屈辱だとかになりそうですね」
手記も最近に近づくにつれて筆圧が明らかに強かったりなぐり書きのような乱雑さだったりが増えていた。少なくともストレスは相当なものだったと思う。
「それで、そんな気持ちが長年込められた手記と本人の魂が……なんなのかしらね。あのダンジョンだからなのか、誰にも知られていない呪いなのかが絡み合った結果があの洋館だったんじゃないかしら」
「仮にそれが本当だとしてダンジョン由来だったら、今後も同じ事が起きる可能性がありません?」
「そこが問題なのよね。この男には同情はするけれど……あー、それとこじつけだけど装備とかアイテムが呪われたのもこの男の心情が原因だと考えられるわね」
「関係ありましたっけ?」
「ようするに、一定以上の金額の価値あるものに対して、最後は嫉妬や歪んだ羨望の眼差しを向けていて、それが呪うという結果を生んだと私は考えているわ」
「あー……なるほど」
これらのことをすべて証明できる物証はのこっていない。だから完全に予想から組み立てただけのことだけれど。
予想すらできないほどに情報がない事態ってよくあることなのよね。
「でも、そんな呪いって本当にあるんですか?」
「聞いたことがないわね。だから、呪いだけじゃなくてダンジョンの何かも関わってると思う……けれど、そうなってきたら今はお手上げよ。情報が足りないわね」
「あと家紋が呪いのマークみたいになっていたことは何だったんですか?」
「それもわからずじまいよ。ただ、もしかすると呪いの強化するために魔法陣に変わる何かが必要な時に、手記や彼にとって馴染み深いマークを呪いに使うのがよかったのかしらね」
「なんかややこしいです」
私も自分で言っていてややこしいと思う。
「ま、何にせよ洋館の調査は終わりといっていいと思うってことよ」
「なるほど……では次は?」
「次……というかダンジョンの調査に戻るだけね。ただ、今回のことがあってもう少し方向性は変わるかも知れないけれど」
「大変そうですね」
なんでこんなに他人事なのかしら。
報酬がよかったとはいえ、まだまだ払い終わるには足りていないというのに。
「リナ。あなたの冒険者としての経験で助かることはとても多かったわ」
「は、はい。改まってなんですか?」
「もう暫くの間は付き合ってもらうから。よろしくね」
「わかりました……でも、アリアさん」
「何かしら?」
「今回のことをギルドに報告したあともたまに依頼などがないか見に行っているんですが」
「まあ許可はしているから気にしないけど」
呪いの浄化作業とかはリナにはできることがほとんどないし。
「いえ、その……本当に良くない傾向だなーって思うんですけれど」
「何よ。なんか犯罪関係の依頼でもあった?」
「怒らないですか?」
「聞いてから決めるわ」
「……呪いの聖女って呼び名の他に呪いの破壊姫なんてものが耳に聞こえてきまして」
「…………は?」
姫ではないけれど。そもそも呪いの聖女も違うのだけれど。
そのうえで破壊って何よ。
「い、いえ、アタシが広めたわけじゃなく手聞こえてきただけなんですけど。噂に尾ひれがついたのか聖女様がその拳で呪われた洋館を破壊したとかいう話がですね」
「なんでこうなるのよ!?」
私の悲痛な叫びが頭の中で響き渡った。
もしかして、私が呪われているとかじゃないわよね?




