111・呪い
ピタリと動きを止めた神龍
そしてその肘の先から失っていた両腕をだらんと下に垂らし、鬼気迫るような形相で空を仰いでいた顔面も大地の方へ向け全身の力を抜いた様に見えた
「・・・」
神龍へと混合魔法を放ったジールはその様子を黙って見ている。今から神龍の身体がどうなるのか分かっているのだろう。殆どの魔力を消費したジールも宙に浮かんでいるのが精一杯だが、この戦いの最後を見届けるまでは、神龍の最後を見届けるまではしっかりと自分の両目に焼き付けて置く気の様だ
そしてそれは四神達も同様みたいで、既に消えかかりながらもジールと神龍の様子を寡黙に注視していた。今送還すればまだ四神達の身体も消えずに間に合うかもしれない、そう思うジールだがそれを行わないのは彼も自分達を遥かに上回り、そして極限まで追い込んだ好敵手の最後を見届けたいと思う四神達の意志を汲んでいるのだろう
そして崩壊が始まった
完全に力を抜いていた神龍の下肢が徐々に崩れていく。白銀の鱗がキラキラと優美な残滓を残しながら神龍の身体から散っていく。そしてそれが徐々に上へと侵食していっている
それがジールの全属性の混合魔法の効果、存在自体の消滅だ
「・・・」
少しずつ崩れていく神龍の身体
その崩壊を黙って見届けているジール達
そしてその崩壊が神龍の胸の辺りまで進んだ時、神龍の両眼がジールの方へと向いた。神龍がまだ動ける事にジールは一瞬驚いたが、直ぐに繕い見据えて来た神龍の両眼を目を逸らさず見詰め返す
そして
「・・・貴様ラ人間ハ、何故我等ヲ滅ボスノダ」
神龍が口を開いた
「お前・・・喋れたのか」
少し聞き取りずらいが、神龍がジールへと話し掛けたのだ
神龍が意思を持って話し掛けてきたことに驚いたが、良く考えれば神話の中の伝説の龍なのだ。生まれたばかりとは言え、意思を持ち自我を持っている事は可笑しくないだろう。それに戦いの節々でその兆候はあったように見えた
「質問ニ答エロ。我等ヲ滅ボスノハ何故ダ」
「何故って言われてもな・・・そもそもお前等が人里を襲ったからじゃねぇか」
神龍の言葉にそう答えるジール
確かに、事の発端はシャルが国から受けたドラゴニア山のドラゴンの間引きの依頼。だが蓋を開ければ有り得るはずが無いドラゴンのスタンピードが起きており、更に神龍の復活。それ故に今回の戦いにまで発展したのだ
神龍に責められる筋合いはない、そう思ったのだ。だが・・・
「フザケルナ。貴様ラ人間ガ我ヲ起コシタノダロウ。何故起コシタノダ、ソシテ何故滅ボサレネバナラナイノダ」
「は?起こす?何言ってんだお前は、誰もお前なんか起こしちゃいねぇよ」
神龍の言っている事がまるで理解出来ない
わざわざ神話の中の伝説を、眠れる龍の尾を踏むような真似をする訳が無い。何を言ってるんだ
そう考えているジール、何をバカな、と
だがそんなジールの思いを他所に神龍は言葉を続ける
「・・・クックック。ソンナ事モ理解出来テイナイ、人間ナゾニ我ハ、滅ボサレルノカ・・・愚カナ卑シイ低俗ナ人間メ」
既に首の近くまで消えてしまった神龍だがジールの言葉を聞き嘲笑うかのような表情を見せた。それに対し神龍の最後を全て見届けるジールだったが思わぬ暴言によりカチンと頭にきてしまう
神龍の言う通りなら、今回の件で誰か別の人間が絡んでいるのかもしれない。だがそんな事は今はどうでもいい、そこまで罵倒されては腹が立たない方がおかしいだろう
神龍の言葉に気を悪くしたジールはその感情のまま神龍に対して卑屈な暴言を吐き返した
「はっ!そんな人間にお前は負けたんだろうが!それにお前等魔物達なんか全て滅んじまえばいいんだよ。俺たち人間にとっては害悪でしかないんだからよ」
「・・・フザケルナ。貴様等人間ノ方ガヨッポド世ノ害悪ダ」
「ほざいてろ、俺は魔物を殲滅するのが楽しくて仕方ないんだよ!今回も楽しかったぜ!どうせなら永遠に殲滅していたいぐらいだぜ!」
少し言い過ぎたか、と思うぐらいの言葉を神龍へと吐き捨てるジール
その言葉はジールにとって強ち嘘ではないのかもしれないが、それでも少し言葉ぐらい選ぶべきだろう。静観を決め込んでいる四神達もその言葉を聞いてジールを窘めようとしたが、それより先に再び神龍が口を開いた
「・・・ヨカロウ。ソウマデ言ウナラ、クレテヤロウ、デハナイカ・・・我ガ龍ノ、呪イヲ!」
口腔の半分まで消えかかっている為、少し喋りにくそうな神龍
だが何とか言の葉を紡いだ直後、神龍の残っている両眼が金色に光輝いた
「うおっ!?なん・・・眩しい」
いきなりの事で驚き思わず目が眩んでしまうジール
戦闘の余波から静けさで包まれていた周辺の景色が一瞬で金色の光に包まれた
「くっ・・・何だ?何かが体の中に入ってくるような・・・」
それと同時にジールは自分の体の中に何か異物の様なものが入り込んでくる感覚に襲われた
だがそれに対しての痛みは無く、どちらかと言うと煙の様な無機質の風が体内に巡るような感覚だった




