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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
72/116

第67話 真と偽の宣戦布告 6. ロガーの演技



◆◆◆◆◆20日目◆◆◆◆◆



 俺達がゴブリンの先生になってから20日が過ぎた。

 この日は【朱の騎士団】の使者がこの森訪れ、村長と和平交渉を行う非常に重要な日である。



 東南入り口の付近に集まった俺達は使者が来るのをずっと待っていた。

 一部の生徒達も、今回の会議に参加している。

 一役買って貰うと村長が選出した。

 生徒達は退屈なのか、自主練習をし出した。寒くて動かないと仕方がないのだろう。


 実はかれこれ1時間が経過していた。



 よくよく考えてみれば【条件付割譲願】に使()()()()()()()()()()()()()()()っけ?


 という素朴な疑問が浮かんだのだが、待てばいずれ来るだろう。

 場所は向こうが渡した地図の赤点で間違いないし。



 あれからノノアは昨日の一件ですっかりゴブリン達に気に入られたようだ。

 今日の朝に数人の女ゴブリンと食事を囲んでいた。



 現在、ノノアは近くにある木の上で交渉の様子を窺っている。

 様子を窺うというより、隠れるの方が正しいのかも知れない。


 【ル・レンタン組合専用取引所】の密偵が来ている可能性があるためである。

 そして、その可能性は確定に変わった。



 《アイリス様。7時の方向、距離およそ25メートル。敵を発見しました。人数は1人、此方の様子を監視しております。》



 了解。

 【朱の騎士団】の使者は今どこにいる?



 《あと2000メートル程です。馬で向かっているようなので、後3分程で到着と推測します。他のメンバーに通達をしておきます。》



 ああ、そうしてくれると助かる。



 サングラスの通達を終えた俺は、すぐさま近くにいた村長にこの事を小声で伝えた。


 通達を聞いて、村長は俺に一部を【情報伝達(テレパシー)】で伝えて来る。

 脳内に直接響いてくるので不気味な感触に襲われるが、仕方がないだろう。



 「ほぅ……そうですか。では、そのままにしておきましょう(自作自演と向こうにバレては困りますからな)。」

 「わかりました(わかりました)。」



 慣れていなかった俺は言葉を発する際に【情報伝達】を使ってしまった。


 意外と難しい会話テクニックである。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、ヘタをすれば秘密を暴露してしまう。


 ワゼリスのような、あの上手な会話には程遠いものである。




 敵の密偵の情報が【ゴブリン軍団】に伝わったその頃、草原の奥から数人の騎士達がこの森に近付いているのが見えた。


 馬に跨がって草原を颯爽とかけるその姿は素晴らしいものである。


 (馬に殆ど乗らずに特訓ばかりしてたからなー。乗ってみたかったけど)


 ちょっと羨ましかったが、気持ちを切り替えよう。



 一分後、騎士達は俺達の目の前まで迫った。

 そして彼らは馬から下りないままこう言った。



 後でユッケや村長に聞いた話なのだが、相手が馬車や馬に乗って居ない場合に、馬から下りずに話し掛ける行為は相手を屈辱する行為らしい。


 上から目線になるためであろう。



 「私は【朱の騎士団】の使者、ロガーである。()()()()()()()()、早く立派な村長とやらを呼んでくれたまえ。」

 「やい! お前が【朱の騎士団】か! あんな文を送りつけた責任はどうしてくれるんだよ!」

 「そうだなぁ。俺達だってずーっと我慢してたんだ。此処で詫びて貰わないとゴブリン達が()()()()()()ぞ?」



 生徒達の一人が村長に一瞬だけ目を向けると、ロガーと名乗る彼に向かって怒鳴りつけた。

 さらにユッケも、その生徒に便乗するようにロガーをけしかける。


 俺には分かるのだが、ユッケは本来の力を必死に隠しているような感じがした。

 敵の密偵に本来のステータスをバラさない為、ロガーが怖じ気付かないようにするためにやっているのだろう。



 しかし、ロガーはユッケの小さな気遣いを踏みつぶすかのように暴言を吐き始めた。


 キレて()()()を出しているようだ。

 ()()()()()()()()()()()()()がやっているのだから、段々見ていて面白くなってきた。



 「黙れこのホラ吹きと薄汚い魔物め! この儂に楯突いたらどうなるのか分かってるんだろうな! ああ!?」

 「野郎……言わせておけば――。」

 「クソが……いい加減に――。」


 「控えは黙りなさい! ……使者殿! 私が【ゴブリン軍団】の村長である。村長と読んでくれて構いません。」

 「ほほう……アナタが薄汚い魔物達を率いる村長ですかな? 」


 「……如何にも。【朱の騎士団】の使者殿。此方では寒くてお辛いでしょう。暖かいあの簡易の家で話し合いをしましょう。」

 「おお……。薄汚い魔物共は()()に我々の常識を身につけておるのか。まぁ、良かろう。案内しろ。」


 「畏まりました使者殿。」



 生徒とユッケはロガーに怒りの目線を向ける。

 ユッケが収納魔法を使って剣を取り出そうとした瞬間、村長が珍しい怒りの声で制止した。


 そして村長はロガーに一度目配せをした後、慌てて彼に懇願するように頭を地面に付けた。

 敵の密偵は背後に居るため、当然村長の目配せは一切見えない。


 ロガーはそんな村長を見え笑みを浮かべながら、更に追い討ちをかけようとする。

 村長はそれに怒ることもなく無視をして、簡易部屋に案内させた。


 (いわゆる、()()ってヤツだな。よほど悪口を練習してきたっぽいな)



 数週間前の俺達がノノアを殺していたら……。

 ノノアが俺達の戦力を見誤ったら……。

 ワゼリスがモークをバカにしたら……。

 


 どうなっていたかは俺には想像できない。

 ただ、今は違う。


 【朱の騎士団】と【ゴブリン軍団】は共闘関係にある。

 そうなった以上、この茶番は本気の話し合いでは無くなったのだ。


 使者が最終通告で要求する物は多分、笑ってしまうくらいの無理な条件なのだろう。






 そんなわけで、俺達も中に入らせてもらう事にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 【ゴブリン軍団】

 俺、モーク、ユッケ、村長


 代表 ゴブリン村長


 ダークゴブリンのボス→現在は諸用の為、不在席。


◆◆◆



 【朱の騎士団】

 ロガー、部下、部下


 代表 ロガー



◆◆◆◆◆◆◆◆



 皆がそれぞれの席に座った。

 早速ロガーが出した条件が俺達の元に回られた。




 要約するとこうだ。


 【最終通告書】

 1.一時停戦するなら金貨10000枚出せ。

 2.降伏するなら奴隷になれ。

 3.戦争をするなら2日後の昼に我々は500の軍勢を率いてゴブリン全員殺す。




 相手をバカにしているとしか思えないこの条件。

 最後の署名に【朱の騎士団】ワゼリス・ダートの文字が刻まれている。


 よく見ると、署名の下には極小の文字が刻まれている。

 ちょっと雑な魔物言語で書かれていた。



 「頑張って()()()()()()()()()()()()ロガー殿を、心の中から応援してやってください。」



 これに気づいた村長はゲラゲラと笑う。

 ムッとなったロガーは村長に問い詰めるような姿勢で質問した。



 「何が可笑しい? 我々の長であるワゼリス様を侮辱するというのか?」

 「いえいえ、とんでもない。この様な無能(バカ)を置くワゼリス殿の慈悲深い心に負けた上での笑い。敗者の笑いです。」


 「む……無能? この儂を無能と言うておるのか貴様!!!」

 「何かお間違いがありましたかな? 私はただただ本当の事を申し上げたおつもりですが……。」


 「糞が! ……殺してやる!」



 突然席を立ったロガーは、左横腹にある剣を抜きゴブリン村長を斬ろうとする。


 (オイオイ! 演技でそこまでするか?)


 焦った俺は急いで収納魔法から短剣を取り出したが、ユッケが即座に青色の防御魔法を村長に使用した。

 

 剣は防御魔法のバリアに勢い良く弾き返され、その反動でロガーは右手を痛そうに押さえている。



 「ムダですよ。アナタにこの魔法は破れません。それよりも、和平の道を探されては如何でしょうかな?」

 「……チッ。グズが。汚い魔法を使いおって。」



 ロガーは愚痴を飛ばしながらも、仕方なく剣を鞘に収める。

 これが演技なのだから凄い。


 イライラの感情が残るロガーは、席を荒い態度で座る。



 「……で、どうなんだ? 戦うのか、降伏するのか。早くどっちか選べ。それが【朱の騎士団】団長ワゼリスのご意志だ。」

 「アナタ方は戦争をしたいのでしょうか? この不条理な条件を飲む軍団ではありませんよ?」


 「つまり、戦争するということで宜しいかな?」



 ロガーは村長に右手の人差し指を差す。

 この様な話し合いの場合でのその行為は、普通なら侮辱行為だ。

 

 村長はどう出るか……。



 「さっきからその事について黙っていましたが……もう私は限界です! ゴブリン軍団の侮辱行為を思い知れ!!!」

 「……えっ? ガハァアア!!!」



 村長はロガーに再び一度目配せをした直後、席を立って激高する。

 そして、持っていた檜の杖でロガーを殴った。


 殴られたロガーは口から少量の血を吐き出し、顔の一部分が赤く染まっていた。



―――――――――――――――――――――――



 実は村長、モーク程では無いにしろステータスはレベル30を少し越えている。


 健康と体力作りの為に俺達が知らない所でトレーニングをしていた結果である。


 ユッケがパイプの購入から戻ってくる途中、ゴブリン村長がダークゴブリンと稽古をしていたのを見たらしい。

 不思議に思ったユッケが村長に質問すると、



 「村長。すまんが……俺達に隠れて稽古しているのを見ちまったんだ。それはホントか?」

 「ゲッ! バレてしまいましたか……。バレないように少し遠くで練習していたというのに……。」


 「森を飛んでたらたまたま村長を見たんだ。俺達から隠れるなんて、もしかしたら複雑な理由か何かだと思って言いづらかったんだ。」

 「すいませんねぇ、ユッケ殿。私とて村長という立場をもっと長くいたいものでして、健康と体力作りの為に……。」


 「……ああ、そうですか。それならアイリス達に言っても構わないのでは?」

 「恥ずかしかったもので……。」



 ……と、素直に自供したらしい。

 ユッケから聞いた俺達は村長の意外な一面をもう一つ知ることとなった。



―――――――――――――――――――――――



 村長の攻撃が強烈だったのだろう。



 ロガーは村長を見て数度目配せをしたあと、右頬を左手で抑えながら怒鳴る。



 「コッ……コレをする事がどういうことか分かっているのか!?」

 「どちらにせよ、我々はアナタ方と戦争をするおつもりでした。さあ、早く宣戦布告の用紙を私に渡しなさい。」


 「よくも儂をぶったな! 覚えておけ!」

 「ええ、お見せしますよ。我々の強さを。」



 結局、ロガーは宣戦布告の用紙に名前を記入した。

 村長は特に抵抗もなくスラスラとカルナ言語で名前を書く。



 「これで私も書きました。さあ、早くこの森から出て行ってください。」

 「覚えておけ!」



 ロガーは村長に向かって怒鳴りつけると、あたふたしたがら馬に乗って草原を駆けていった。

 見送りは誰も居なかった。




 俺達4人はウソの会話をする。



 「ハハハハハ! 見たかあの()()()()()()()()()()()。ゴブリン村長の攻撃でスカッとしたぜ!」

 「確かにそうだな。」

 「ホホホ。皆の怒りを鎮めるのには丁度よいかと。」

 「それにしても凄かったね! ()()()()()()の口の悪さは尋常じゃ無かったね!」


 「モーク、お前人の事言えないぞ? お前だって悪口言ってるじゃねぇか!」

 「僕をあんなジジイと一緒にしないで! 悪口にも言って良いときと悪いときがあって……。()()についてはめちゃめちゃ意識してるからね!」


 「「「ハハハハハ!!!」」」



 モークの焦った言い訳が面白かった俺達は、3人同時に笑う。


 そんなどうでもよい話を続けて数分、ノノアが入ってきた。

 敵の密偵の件でだろう。



 「村長殿、敵の密偵がつい先程引きました。この一件をボスに報告するかと思われます。」

 「監視ご苦労です。それで……私とロガー殿の演技は如何でしたかな?」


 「()()()()()()な気もしましたが……敵を欺くのであれば十二分の演技かと。」



 ノノアは複雑な表情ながらも、納得しているようだ。


 俺もそこまでする必要は無かった気もするが……素人の俺が策略を考えていても無理だろう。








 模擬戦争と本当の戦争まであと2日。


 ゴブリン村長が考えた大作戦。

 【朱の騎士団】アリスの行動。


 一体どうなるのか、少し楽しみである。



―――――――――――――――――――――――



 【グルドの森】から颯爽と帰還したロガーは、ワゼリスに報告をしていた。


 ワゼリスの自室では、敵に気づかれることなく会話が出来る。



 「ワゼリス様。只今帰還致しました。」

 「……そのお怪我も()()でしょうかな?」


 「はい。演技(ワザと)で御座います。」

 「……宜しい。ゴブリン村長も大胆な行動をとりますね。」


 「私もビックリしました。ですが、かなり手加減をされていましたようです。あちらの演技が非常に素晴らしいものでしたので、此方もやりやすかったですな。ハハハ。」



 ロガーは作戦中の出来事を思い返し、小さく笑う。



 「そうですか。……それで、モーク殿が描いたあの図は焼却しましたか?」

 「はい。赤色魔法で灰も土深くに埋めました。仮に灰を調べても、黒色の塊しか残らないでしょう。」


 「ご苦労。後でモーク殿にはお詫びをしておこう。何が良いでしょうか?」

 「人間の食べ物関連であれば問題ないかと。」



 ロガーはそう提案した。

 理由は言うまでもない。


 モークは食い物が好きだからである。

 それは一般食堂でイヤというほど思い知らされた。



 「そうでしょうな。高級な肉なら、モークは文句を言わないでしょう。」



 ロガーの意見に依存の無いワゼリスは納得の表情を浮かべた。


 しかし、彼には一つ大きな心配事があった。

 ワゼリスは違和感をロガーに呟く。



 「……アイリス殿でしたかな? モーク殿が慕っている人間と言うのは。」

 「はい。ノノアが言うには、かなり回避能力が高いそうです。レベルの差は殆ど感じられませんでしたとのご報告があります。」


 「そうなのですが……何時かアイリス殿は村長殿から離れると思うのですが……。」

 「何か問題があるのでしょうか?」



 ワゼリスは脳内マップでアイリス達が通る道を、幾つも推測して行き先を予想した。


 すると、ある一つの国が最も可能性が高いという結果が出来た。



 「このままアイリス殿が北上すれば、いずれは【鉄の王国アイロン】に辿り着くかと。」

 「そう言えば……慢性的な塩不足に悩まされている国だと……私の友人がそうつぶやいておられましたね。」


 「アイリス逹は塩の対策はしておられるのでしょうか? 塩なしでアイロンへ行くことは非常に危険です。」

 「念の為に100キロ分ほど用意しておきましょうか?」


 「お願いします。」



 ワゼリスはロガーにそう伝達した後、解散させた。


 ロガーがワゼリスの自室を出た瞬間、彼は近くにいる使用人・伝達係に命令を出した。



 「使用人・伝達係。此処にルーサー殿を呼べとお伝えください。本日中にお願い致します。」

 「畏まりました、ワゼリス様。」



 使用人も頭を下げると、お辞儀をしてワゼリスの部屋から出て行った。


 (さて、余りの時間でもやることがわんさかあります。やれるうちにやっておきましょう)


 そして、何事も無かったかのように作業を始めた。












 一方そのころ、アイリス達はダークゴブリンのボスに森の中で偶然会った。


 ボスはこれから村長へ集まったと報告するつもりだったらしい。

 そこで、とんでもない光景を目にした。



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 ダークゴブリンのボスの後ろでは、ぞろぞろと500を超える影が迫ってきていた。



 「アイリス、マモノノジュンビハトトノッタ。ワレワレガ、カツテシタガエテイタマモノタチヲココニツレテキタ。」

 「おいおい……凄いなぁ。」



 後ろにいたのは、なんと俺が嘗て戦った魔物達であった。

 魔物達は個々によって様々な反応をしている。


 魔物は強者に対しては従う事もあると本に書いてあったが、多分ボスが異常に強いからだろう。


 (そもそも、レベルが100を超えるゴブリンが居る地点でこの森はおかしいんだが……)


 ボスの話では総数はなんと521体。

 壮観の一言である。



 彼等は俺を見た瞬間に、血の気を引くような様子をしている。



 あるものはじーっと俺を見つけて()()し、

 あるものは頭を下げて()()を示し、

 あるものはガクガクと体を震えながら()()し、

 あるものはひっくり返って()()の意を示していた。



 (魔物言語通じるよな? お前らに言いたい事が幾らでもある)


 仕方なく、魔物達の恐怖を取り除こうとこんな言葉を投げかけた。

 魔物言語をダークゴブリン達に教わっていなければ、こんな事は出来なかっただろう。


 今此処で言っておく必要がある。




 「まず、此処に集まってくれたことを魔物全員に感謝する。皆はもう知っていると思うが……俺は10年間の間此処で修行して来た。俺をバカにした一部の人間達に、いつか見返してやろうと思っていた。」




 魔物達は俺の声に頷いている。

 理解しているようだ。




 「だが、それは間違っていた。俺は人間達を見返してやろうと考えていたばかりに、実際は人間よりも暖かいお前達に刃を向けてしまった。独断と偏見で魔物達を殺してしまったことは本当に済まない。許してくれ。」




 俺は魔物達に頭を下げた。

 ガシャガシャと魔物達特有の会話音が響く。


 隣にいる奴と一緒に、俺の行動を真剣に考察しているのだろう。



 それより……どうしよう。

 頭を戻すタイミングを失ってしまった俺はどうしてよいか困惑した。



 そうしていると、魔物達の中から俺に向かって歩いてくるものがいた。


 一匹の黒いクモである。


 それも、他の魔物よりもふた周りほど大きい。


 (確かコイツは……そうだ!7年目の時に俺と一対一で戦ったクモだ。冒険者での通り名は【月光】だったかな?)


 たまたま新しい奥の方へ探索しに行ったときに出会ったクモだった。



 非常に手強く、ギリギリの勝負だった。

 【毒無効】未満の耐性だったら間違い無く死んでいただろう。


 此処にいる魔物達の中では5本の指に入る。


 殺さなかったのは単にそれを行う体力がほとんど残っていなかったからである。

 このまま振動しながらゆっくり死んでいくのを見たく無かったため、軽く緑草で治療して逃がしたんだが……。



 目の前にいるのはまさしくソイツだった。

 腹部に深い傷跡が残っているから間違いない。


 頭を戻した俺は魔物言語で話す。



 「お前は……あの時のクモで間違いないか? 確か……4年前だったかな?」

 「グォォグゥォォォ(はい。アナタと戦ったクモです。お久しぶりですね!……と言っている)!」



 一般とは全く異なる独特な魔物言語だが、一応言っていることは大抵理解できる。

 此処からが本題だ。


 俺はクモに頭を下げようとする。




 「済まない。あの時は――。」

 「グゥォォォ、グォッ、グォォォ(良いのです。弱肉強食は魔物達では自然の理。寧ろアナタのような人は初めて見ました。人間が私達魔物に頭を下げられた事はありません!……と言っている)!」


 「だが、俺はお前らの家族を葬った。どうして人間のように復讐しない?」

 「グゥォォォ(じゃあ、ダークゴブリンとアナタはどうしてそこまで仲良くなれたのですか?……と言っている)!」


 「!!! ……そうか。もしかしてお前らもそれを望んでたのか……。人間と魔物が歩み寄れる」

 「グゥオ、グォォォ(はい。何時か人間が我々の言葉を理解し、共に歩んででゆける道をずっと望んでいました。しかし……()()()()()()()()我々の()()故、人間を仕留める魔物が多いのも事実。多難が重なるばかりでした……と言っている)!」


 「……。」




 俺は黙ったまま少し俯く。


 願っても、努力しても癒えない深い傷だなと感じた。

 だから人間と魔物は血を流し合うのか。


 そう思うと俺とダークゴブリンが仲良くなれたのは奇跡に近かったって訳だ。


 クモは更に話を続ける。




 「グゥオ、グォッ、グゥォォォ、グゥォォォ(しかし、アナタは今までここにきた冒険者とは違いました。アナタの心は影があっても温かい。だからアナタはこの10年間の間、大抵の魔物の命を取らなかったのです。そんなアナタが、私達に頭を下げているのです!許さない訳がありません!……と言っている)!」

 「「「そうだそうだ! 魔物の俺達でも、人間の()()()ぐらいは区別する!」」」




 黙って聞いていた他の魔物達も、まるで俺を後押しするかのようにクモの意見に賛同する。


 (こいつら……善の人間だな)


 そう心の中で思いながら、俺は魔物達に頭を下げてこう言った。




 「ありがとう。お陰で救われた。」

 「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」




 俺の言葉に反応した魔物達は歓喜の喜びを上げる。

 ……ついでだからクモに一言言っておこう。



 「……あ、クモ。せっかくだから後で俺と軽く手合わせしないか?」

 「グゥ(えっ)? ……グゥォォォ(私……アナタとの戦いは随分トラウマなんですよね……全然毒効かないし……しかも今は【毒物吸収】?電……無理無理)。」



 やっぱり人間なんだなと思った。



―――――――――――――――――――――――


投稿が遅れてしまいすみません。


※誤字・脱字修正しました。


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