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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
71/116

第66話 真と偽の宣戦布告 5. 密偵、洞窟へ



 【ゴブリン軍団】がモークの帰還を祝っていた午後8時過ぎ。


 ワゼリス達は無事、本拠地のル・レンタンに到着した。

 今度は反対の東門で検問を受けたが、検問員は特に何事もなくすんなりと通してくれた。


 検問中、検問の規則が色々書いてあるボードに一枚の貼り紙を目にした。



 【この街で殺人モークタンが徘徊中。見つけた・捕まえた方はお近くの検問所やこのマークのある店舗まで↓】



 そしてテキストの下矢印にはマークが描かれていた。


 ひし形の枠の中に【地域安全隊加盟店】というフォントと、男女の絵がそれぞれ腕組みをしている絵が描かれていた。

 団結力と安心を強くアピールしているのだろう。


 (あれ?今日の朝にはありませんでしたが……どうしてでしょうかな?)


 妙な違和感を覚えたワゼリスだったが、モークが【ゴブリン軍団】の所に戻ったなら大丈夫だと判断した。

 モークはもうこの街には居ない。





 本拠地に戻ったワゼリスは夕食を取らずに、自室の椅子に座って幹部達と共に、本日最後の会議を執り行うことにした。

 会議、というよりは後処理に少し近いものだが。



 「諸君。今日の作戦は全て成功した。誰も死者が出なかったことは私は非常に嬉しく思う。……そして、今回の作戦において最大級の功績を残したノノアとモークには感謝する。褒美は全ての作戦が終了次第、皆の前で表彰を行おう。馬車の中でモークには了解済みだ。」

 「誠に有り難き幸せ。ワゼリス様のお力添えになれた事に感謝致します。モークもお喜びになるかと。」



 ノノアは頭をワゼリスに深く下げた。


 皆の目の前で、表彰されることは【朱の騎士団】にとっては最大の目標であり名誉である。



 「うむ。……では、諸君らに新たな任務を発令する。」



 ワゼリスは机の引き出しの中から数枚の紙を取り出し、命令をだした。



 「ロガー。あなたは2日後の朝、この【警告書】と【宣戦布告】の紙を持って【グルドの森】へ向かいなさい。奴らの密偵が見ている可能性が高いので上手く演技をして【宣戦布告】をするように。戦闘はその日から3日後の昼にするようにお願い致します。」

 「了解。必ずやワゼリス様御期待の通りに動いて見せましょう。」


 「あと、昨日モークが書いたあの紙は灰になるまで燃やして捨てなさい。あの紙が奴らにバレれば全てが水の泡です。」

 「……宜しいのですかな?」


 「ゴブリン村長殿に作戦の全容を教えてもらいました。……あの紙の全容は後で私が解説致します。必ず奴らに勝てる方法でしたぞ?」

 「了解。ワゼリス様の解説、楽しみにしております。」


 「ノノア。アナタにもう一つ頼みたい。」

 「何でしょうか? ワゼリス様。」


 「アナタは私達よりも長い間、あの森の中のゴブリン達と過ごしたハズです。万が一ゴブリン達が人間を派遣するのを許可した場合、その人達数百人を纏める役についてもらいたい。ゴブリン達も喜ぶことでしょうな。」

 「!!! そのような重大な任務を私に、ですか?」


 「ええ、人間達がゴブリン達と仲良くなるための仲介役になって頂きたい。」

 「……感謝致します。……明日【グルドの森】へ向かっても宜しいでしょうか? ゴブリン達の仲を更に深めて来ましょう。」


 「ええ、構いません。ですが、模擬戦争終了時には直ぐに帰ってきてください。」

 「ありがとうございます。」


 「あと、使用人・伝達係と調達班には解散後に此処に残ってほしい。極秘の任務を与える。」

 「「畏まりました。ワゼリス様。」」


 「よーし! 解散!」



 幹部達は礼をしてワゼリスの自室から出ていった。


 残ったのはワゼリスと一部の人間である。



 「よし。今からお前たちに秘密の任務を与える! 心して聞くように。」

 「「はい。」」


 「調達班。戦争の前日までにゾンビ牛を一頭調達しなさい。トドメはさしておくように。それを料理人に一頭丸ごと新鮮な状態で送ってください。寄生虫がびっしり付いていると思いますがそれも全部無視してください。」

 「??? ……了解。」


 「使用人・伝達係。調達班がゾンビ牛を料理人に送った時に、私の手紙を料理人へ持って行ってください。その時になったら私が手紙を渡します。必ず届けるように。」

 「畏まりました。」


 「私からは以上だ。最善の結果になるよう頑張って下さい。」

 「「はっ!」」


 「「解散!」」


 

 使用人達もお辞儀をして部屋を出て行った。

 これで部屋の中にいるのはワゼリス一人となった。


 (ゴブリン村長殿、後は御願いします。此方はこれで最後の命令を下しましたぞ!)


 ワゼリスはそう心の中で願いながら、今日説明されたゴブリン村長の作戦を反芻した。


 (それにしても、あれほどの知能を持つゴブリンがいたとは……素晴らしい。もしかすると、いずれ【ゴブリン軍団】は大物になる気がしますなぁ)



 それは、ほんの僅かな可能性だった。

 有り得ないくらい薄く、小さな欠片に過ぎなかった。


 それでもワゼリスはこの時、微かに感じていた。

 新たな時代に移り変わろうとするその微かな変化を!






 しかしそれはまだ時間が掛かる、かなり後の話である。



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



◆◆◆◆◆19日目◆◆◆◆◆



 【朱の騎士団】達の使者が来るまであと24時間もなくなった。


 振り返れば、俺達がゴブリン達の先生になってすでに19日も経っている。

 「日数と言うものは経てば経つほど短く感じる気がする」と何処かの誰かが言っていたが、正直納得である。



 俺は生徒達の訓練を行っていた。

 訓練というより、直前の練習のようなものである。


 生徒達の攻撃はもう油断出来なくなっていた。

 余所見が出来ない程に。



 「もらったあー!」

 「背後からの奇襲は静かにやれ!」



 後ろからゴブリンが掛け声と共に槍で俺に襲いかかってきた。

 残念ながら掛け声を出してしまったせいでバレバレである。


 俺は槍を両手で鷲掴みして投げようとする。



 「掛かった!」



 しかし、俺が投げる前にアッサリと槍を手放したかと思えば、背中に隠していた剣を俺に放ってきた。


 (しまった!フェイクだったか!)


 槍を投げようとして足を固定していたため、身体を捻って回避しようとする。

 左頬にギリギリ当たってしまった。



 「イヨッシャァーーー!」と共にゴブリンがガッツポーズをして空中で喜んでいる。



 掠っただけだが、ゴブリン達には刃をいれている。

 小さな切り傷がら血がにじみ出てきた。


 (ユッケの野郎……なかなか良い戦闘方法を教えるじゃないか!それを上手く工夫するゴブリンも凄いな)


 ユッケの教える技術と、それを自分なりに工夫するゴブリン達の試行錯誤の末に生まれたものなのだろう。

 これは賞賛する他ない。


 ……だが、残念ながらその攻撃では俺を仕留められない。

 ゴブリンが手放した槍は俺の手にある。



 「ガッツポーズをしている場合か? 今はいいが本当の戦争では禁止だぞ?」



 ゴブリンが地面へ着地した瞬間、槍をゴブリンの首に近づけた。



 「えへへ……最近先生に当てたことがしばらく無かったんです……つい喜んでしまいやした。今度からは気をつけます。」



 特に怯えることもなく少しデレデレしながらゴブリンは答える。

 よほど当たったのが嬉しかったのだろう。

 槍を向けられた恐怖は微塵も無さそうである。



 「そうか、それはおめでとう。頑張ったんだな! 次は俺に当てられる事が普通になるくらいになれよ。」

 「ハイ!」



 俺は槍をゴブリンに返して肩を優しく数度叩きながら褒めた。

 凄い尊敬の目でゴブリンは威勢溢れる返事をする。


 すると、突然サングラスからとある報告が入ってきた。



 《アイリス様、密偵のノノアさんが来ました。ゴブリンの洞窟を目指しています。如何致しますか?》



 ノノア……あの密偵か。

 モークと……念の為ユッケに報告しておいてくれ。

 村長には俺が急いで報告する。


 情報を共有する事は大事だからな。



 《了解。》

 


 俺はうでどけいの短針長針を見る。

 13時丁度だった。



 「すまん。ちょっとあの密偵がここへきた。」

 「あの密偵ですか? それなら仕方ないですね。……じゃあ今日の夜、槍部門の人達呼んで気でも良いですか? 久し振りに同じ部門の人と一緒に戦いたいです。」


 「そうだな……大丈夫だ。良かったら他の部門も呼んで貰って構わない。戦うなら大人数が良い。大きな経験になるだろう。」

 「ありがとうございます!」


 「じゃあ俺は行く。たまには休むの大事だぞ。」



 俺はゴブリンの返事を聞いた後、急いでゴブリン洞窟の元へと向かった。






 「村長、あの密偵がやってきます。」

 「ほう……私の予想通り来ましたねぇ。」


 「予想していたんですか?」

 「はい。ワゼリス殿の判断とノノアさんの行動で予想はつきます。」



 俺は急いでゴブリン村長に報告をした。

 だが、村長は既にノノアが来ることは分かっていたらしい。


 (頭使うボートゲームとかで対戦したら、絶対勝てる気がしないな)



 そんな事を思っていると、ゴブリン村長が味方からの【情報伝達(テレパシー)】をキャッチした。



 「ノノアさんがお見えのようですな。ついでにモーク殿も到着したようです。ユッケはどちらに?」

 「ユッケなら【カルッツイロ草原地帯】のどこかで凄い魔法とやらを練習中らしいです。『【幻想世界(ファントムワールド)】を使っているから草原は傷つけない。何かあったらサングラスで伝えてくれ。』……とかそんな事を言ってました。情報共有は必要だろうから、とりあえず報告はしておきました。」


 「なる程。理解致しました。折角ですからデザートの準備はしておきましょう。」

 「それは良いと思います。」



 ゴブリン村長は女ゴブリンに、デザートを用意するよう命じた。








 それから数分後、ノノアが村長の部屋に入ってきた。

 ついでにまだ()()()()()()()()でいるモークも入ってきている。


 体がデカくなりすぎたため、村長の部屋の正面入り口から入るには少し体を変えなければ入れない程である。

 最初に俺達が入ってきた隠し口からでは絶対に入れないだろう。



 「村長殿、申し訳ありません。直前の連絡も無しにその――。」

 「いえいえ構いません。それよりも今後の話とやらで来たのでしょう?」


 「! ……既に私が来ることも読まれましたわね? ……はい、そうです。」

 「では、デザートを用意しますが……毒耐性はありますか?」



 毒耐性を聞くということは、あの【毒草ゼリー】が食べられるかどうかを聞いているのだろう。

 いくら密偵とも言えど、多分ノノアには無理だ。



 「【毒耐性中】を持っていますが……それ以上はありません。」

 「……そうですか。では、昨日お出ししたフルーツをご用意致します。」


 「どうして【毒耐性】をお聞きしたのでしょうか?」

 「我がゴブリン達の名物、【毒草ゼリー】をお召しになるには、【毒無効】以上の耐性をお持ちでないと血を吐く程の苦痛に見まわれます。」

 「ノノアさん、絶対軽い気持ちで食べるのは止めたほうがいい。毒の耐性をつけるために食べるのは良いけど……興味本位で食べたら絶対後悔するよ。」



 モークはノノアに忠告するように言った。

 毒耐性がほとんどない状態で、一気にゼリーを食べてしまった本人が言うのだから間違いない。




 あれからモークは俺達が見ていない所であの毒草ゼリーを食べまくっていた。


 何で気付いたかって?


 たまたま魔法部門に教えに行こうと通りがかった時に、近くにあった穴の中から「ギャアアアアア!!!」って叫ぶ音が聞こえて……。


 そっからはバレないようにサングラスを使って調べてたら……俺達を見返す為に毒草ゼリーをこっそり村長に頼んで食べていたらしい。


 そのおかげか、サングラス曰わく【毒耐性大】を持っているとのこと。



 この頃になると出血も少なくなり、最初の頃よりはマシになる。


 まあ、猛毒くらすの毒草が相手だから大でも一般人にはかなりキツイ。

 その上の【毒従順】からは比較的楽になってくる(それでも結構辛いけどな)。

 モークは後少しの辛抱だろう。




 そんなわけで、モークも影で努力はしていた。

 いつかそれが報われる時が来るのだろう。



 「……お気遣いありがとうモーク。アナタが止めるのはよほどの事ね。」

 「わかってくれてなにより。」


 「アナタって本拠地にいるときとあまり性格変わってないわね……。」



 ちょっとモークがふんぞり返ったが、いつものことなので見なかったことにしよう。


 (って言うか、【朱の騎士団】の本拠地でも態度一緒だったのかよ)



 結局、俺とゴブリン村長は【毒草ゼリー】(俺は甘味材料無し)。

 モークとノノアはフルーツで決まった。


 すると、早速ノノアから重大な情報が入った。



 「私は今の所ワゼリス様からのご命令はありませんが……重大な任務につく可能性があります。」

 「重大な任務を俺達に具体的に聞かせてくれ。」


 「昨日村長殿と取引の交渉中お話した件ですが……あなた方の村に我々【朱の騎士団】を派遣するお話が決まった場合は、私が彼らを纏める任務に付くように命じられました。」

 「なるほど。そう言うことか。」

 「アナタは我々と何度も顔を会わせています。勿論、一部の我が生徒にも面識がありますからね。ワゼリス殿がアナタを選出するのは当然です。」


 「はい。私もそう考えております。そのためには、もっと彼らとの距離を私が縮める必要性があるかと。」

 「ごもっとも。それが最善の判断ですな。」



 村長は納得している。


 要はゴブリンと人間を繋ぐ橋渡し役に、ノノアは任命されたって事か。


 悪い話ではない。

 上手く行けば、ゴブリン達が他の冒険者達に襲われる可能性がグンと下がるだろう。


 裏切られる可能性は否定できないが……。



 《通達。ワゼリスの過去の行動を見てきましたが……私達【ゴブリン軍団】裏切る可能性は0.001%未満だと推測します。私達を裏切るメリットは殆どありません。寧ろデメリットの方が大きいです。》



 ……だろうな。



 俺もワゼリスを見てきたが、そんな考えを持つような人とは到底思えない。


 ゴブリン村長と相談していたあの暗殺計画は、まるで悪を粛正するかのような言動だった。

 大丈夫だろう。






 俺がそう考えていたその頃、女ゴブリン数人がフルーツと毒草ゼリーを持ってきた。


 俺の目の前には、村長よりも毒草の濃度が高いプルプルとしたゼリーが器に盛られていた。

 各個人で食事の挨拶をした後、俺はスプーンを使ってゼリーを口の中に運んだ。


 ……うん、甘い。

 ビックリするほど甘い。


 だが、甘ったるいとう舌の倦怠感はなかった。


 (最近森の中にクレーター作るあの作業で殆ど甘味を口にしてなかったからなぁ。まさか、『生えている木を残したまま、上から見たときに直径1000メートルのクレーターになるように掘れ。』とユッケから言われた時には絶望したな。昼夜問わずダークゴブリン達と頑張ったお陰で出来かけている所だけど)


 と甘味を久し振りに味わったついでに、心の中でユッケと村長に少しだけ愚痴を言った俺であった。



 ノノアとモークはリンゴとミカンだった。


 モークが俺を凄く羨ましそうに見てくる。

 毒草ゼリーを無糖で美味しく食べている俺が非常に羨ましくて仕方がないのだろう。


 まだ血を吐かねばならない苦痛が残っているのだ。


 (気持ちは凄くわかるぞモーク。もし、お前の立場なら俺だってそんな目で見るよ)


 モークが飛ばす視線を気にしつつ食べていると、ゴブリン村長がノノアに質問した。



 「折角ですから、此処へお泊まりになってもかまいませんよ? 衣服と部屋は御用意致します。」

 「……え? 宜しいのでしょうか?」


 「勿論料金はタダです。我が生徒達との仲を深める。それを御代と致しましょう。」

 「ありがとうございます。」



 ノノアは頭を下げて感謝の意を示す。

 すると、モークから意外な提案が入ってきた。



 「アイリスとノノアさんが戦ったらどうなるんだろうね? ちょっと見てみたいなー。」

 「えっ?」

 「えっ?」



 俺とノノアは同時に、モークに目を向けてそう言った。


 ところが村長は、モークの言っていることに否定出来ないでいる。

 何か思い付いたのだろうか?



 「いっそのこと、ゴブリン達と混じってアイリス殿と戦うのは如何でしょうかな? 真剣でも模擬剣のどちらでも構いません。」

 「……ああ、それならいいでしょう。丁度今日の夜にゴブリン達の稽古をつけるつもりでしたし。勿論真剣でやらせていただきます。」

 「真剣!? アイリス殿……宜しいのでしょうか? ケガ所か致命傷の可能性も――。」


 「何時もやっていることです。躊躇なく刃を向けてきてください。」

 「は、はぁ……」



 ノノアは俺の発言に困惑する。

 何から説明して欲しいのかわからなくなっているようだ。


 すると、モークがここでフォローする。



 「ノノアさん。アイリスはフツーの一般人とは違うんだよ。昔ここの森で、地獄レベルの特訓をしてきた人間なんだ。例えば……【カゲヲアヤツルモ()】!」



 (虚偽詠唱(フェイク)か。大抵の人間はコレに引っかかりやすいんだが……全部を警戒している俺にそんなもの通じない)


 モークは俺に目掛けて突っ込んできた。



 「はいはい。フォローありがとう。」

 「ギャフン!」



 俺はアッサリとモークの突進を回避する。


 モークは壁に突っ込んでパタリと倒れた。

 気絶はしていない。


 身体自体が柔らかいため、ぶつかっても壁はビクともしない。



 しかし、ノノアはまだ理解出来ないようだ。

 サンプルが一つでは流石にこうなる。



 「……まぁ、真剣でもアイリスは大丈夫だよってのを示したいだけだね……。」

 「……わかったわ。私もアイリス殿の稽古に出させていただきます。」

 「ああ、此方は攻撃はしない。防御や回避のみを行う。死ぬことはないから安心してほしい。」


 「了解。」

 「決まりましたねぇ。それでは、本日の夜に致しましょう。アイリス殿、『夜までには帰還するように』とユッケ殿にはそうお伝え下され。」

 「ああ、通達しておく。」



 その後、俺達はちょっとした小話をしながらデザートを堪能した。


 途中、気になった事があるのでノノアに質問する。



 「ノノアさん。アリスの事で少し聞きたいことがあるけど良いかな?」

 「何でしょうか?」


 「アリスは【()()()】を持っているか?」

 「【毒耐性小】ならお持ちです。」


 「……なる程。随分参考にさせてもらった。」



 俺はニヤリと微笑む。

 もしかしたら俺の作戦はあながち行けるのかも知れない。



―――――――――――――――――――――――



 一方その頃、ユッケは【カルッツイロ草原地帯】にいた。


 【幻想世界】を使用して他人に見られないようにしている。


 両手に濃密な魔力を込め、空へと飛ばす。

 ユッケがやっているのは……。


 【特殊魔法】の中でもかなりの魔力消費量と根気が必要の魔法。



 【下位魔法・時間一時停止(ワンタイムストップ)】と、

 【中位魔法・時間停止(タイム・ストップ)】である。



 時間を少しだけ(1分から5分)止めることが出来る魔法と、時間を好きなだけ止められる魔法。



―――――――――――――――――――――――

―ユッケ視点―



 ク……しんどい。


 流石に魔力を2000以上一気に消費するのは堪えるな。

 腕が破裂しそうな位痛い。


 これでもまだ弱い【下位魔法】だぞ!


 【大剣舞(ダイケンブ)】以下の魔法でこの魔力消費量はコスパが悪すぎる。


 (コレやる前に一回、サングラスから急に伝達がきて失敗したんだけどな)


 そんな感じで痛みに耐えながら根気良く待っていると、その時は訪れた。




 ……キタ!

 両手に込めた魔力が真っ白な安定した魔力の塊になっている。


 …………今だ!



 「【下位魔法・時間一時停止】!」



 俺は溜めた魔力を一気に両手を使って上へと飛ばす。

 俺を中心に地面と両手から様々な魔法陣が入り組み、それぞれが白色の光を灯しだした。


 突き上げされた魔力の塊は数百メートルを越えた辺りで突然爆発した。



 すると、風でたなびいていた草原がまるで石になったかのように固まって動かなくなった。


 (成功だな。魔力と痛みを3分ガマンして集中が途切れなければほぼ行く。問題はこの次だが……その前に)


 収納魔法を発動し、中から金色に光る細い瓶を2本取り出した。

 それを一気に飲み干す。カラになった瓶を収納魔法に戻した。


 (ふぅ……マズイ。アイロンで売ってた【()()()()()()()()()()()()()()】みたいなヤツよりも独特の味で、個人的には非常に嫌いな部類だな)


 飲み物の愚痴を心の中で叫んだ俺は、地面にあった葉っぱをチョンとつつく。

 今までピクリとも動かなかった葉っぱは、振動で動き始めた。


 (使用者が触れたら動けるようになるのは、どうやったらそうなるんだ? そんなもの、誰かの肩を叩いただけで強制的に地獄へ引きずり降ろすのと一緒の事だぞ?)


 色々と疑問は浮かぶ。

 すると、当然パリンという割れる音が聞こえた。


 風が吹き始め、草原は風でたなびいている。

 たなびく度に金色の布がくねくねと動いていた。



 魔法の効果が切れたのだろう。

 3分と少しってとこかな?


 ……良し!今度は本命の――。



 《通達。アイリス様から御命令です。「本日の夜には帰還せよ」との事。》


 

 ああ。わかった。

 ……それで、結局ノノアは何のために来たんだ?



 《ノノア・リリーはワゼリス・ダートから、ゴブリンの生徒達と人間の仲を深める為の橋かけに任命されました。彼女は私達と何度も会っているので適役と判断されたのでしょう。此処へきたのは仲を良くするための一環とのことです。》



 ……なるほど。

 わかった。今からソッチヘ戻る。



 俺は一旦魔法の練習を終えることにした。

 急いで【試練の森】へと帰還した。


 (中位魔法は戦争が終わった日に練習するとしよう……)

 


―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 ユッケは伝達後直ぐに帰還した。


 そして和やかな夕食から数時間後、ノノアの実力を見る戦いが始まった。






 相変わらず12月の夜は寒い。

 真っ暗闇の森の中、俺とダークゴブリン達が手分けして木を切って作った空き地。


 通称【ゴブリン決戦場】とも呼ばれるこの場所は、数十本の設置式松明により一際明るく闇を照らしていた。



 「よーし、みんなー! 突然の事で申し訳ないが、スペシャルゲストが来たぞ!」



 俺は集まったゴブリン達に向かって大声で司会のように振る舞う。

 初めて前に立ったあの日に比べればマシにはなっただろう。


 ゴブリン達は興味津々だ。



 「じゃあスペシャルゲストの登場! 【朱の騎士団】密偵、ノノア・リリーさんです!」

 「ノノア・リリーです。……宜しくお願い致します。」

 


 ノノアが戸惑いながらも、頭を下げてゴブリン達に挨拶をする。


 ザワザワしているが、別に嫌悪感をゴブリン達が抱いている訳ではないようだ。

 ノノアをよく知る一部のゴブリン達が、余り知らないゴブリン達に色々と教えている様子である(こういう時って【ミニチャン】便利だな)。



 「よーし! 今からノノアをお前らのメンバーに加える。彼女と協力して俺に一発攻撃を加えてみろ!」

 「「「ハイ!」」」



 ゴブリン達は大きな返事で俺の命令に賛同した。




 今回集まったゴブリンは100名。

 他の者達は自主練習か風呂に入っているかの二択だろう。


 参加自由の戦いにこれだけの人数は流石に俺一人ではキツイな。


 そう思っていると、観戦していたモークが突然俺の側に来た。



 「やっぱり僕もちょっと戦いたいなー。アイリス側で。それでもいい?」

 「構いません。寧ろこれで釣り合いが合ったのでは?」

 「そうだな。俺は構わないぞ?」



 観戦席にいるゴブリン村長はモークの参加を許可した。

 ゴブリン達も異論はないらしい。



 「じゃあルールを説明する! 俺に真剣があたったらゴブリン達の勝ち、ノノアの頭に付けてある着飾りを取ったら俺達の勝ち。それでいくぞ!」

 「「「了解!」」」


 「村長! 合図をお願いします。」

 「それではよーい………………初め!」



 俺達はゴブリン達の元へ突っ込んだ。



 「モーク、ヘマすんなよ。真剣だから痛いぞ!」

 「そっちこそ、ヘンな小手先攻撃で当たらないでね!」



 久し振りのコンビで戦えた俺は少し嬉しかった。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~ノノア視点~



 アイリス達がゴブリンさんへ突っ込んできた。


 ゴブリン達はアイリスを狙って様々な攻撃を……えっ?



 「甘いぞ! この程度の攻撃では俺にケガをさせられんぞ!」



 アイリスは飛んでくる魔法を全て回避する。

 飛んでくる矢も、まるですり抜けるかのようにスルスルと抜けていく。



 どうしてあの濃密な弾幕を避けられるの!?

 私は近くにいたゴブリンに聞いてみることにした。



 「……ねぇ。アイリスはどうしてあの濃密な弾幕を回避出来るの?」

 「アイリス先生は嘗て、()()()()()でこの森に10年間特訓をしてきたんです。実はダークゴブリン達とアイリス先生は昔、互いに敵だったんです。死ぬかもわからない凄まじい戦闘だったそうです。それを10年も……尊敬しますね。」


 「え? まさか……今の回避力って……。」

 「後でアイリス先生の【ステータス】を見てくると良いですよ。正直、あんなステータスは今まで見たことが無いです。」



 私はどうしてアイリスが真剣相手に動揺しなかったのかがわかった。




 死を恐れていないから。




 今思えばモークも凄かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()をもろともしない戦闘をすぐ近くで見てきた。


 じゃあ、そんな人達がコンビを組んだらどうなるか?

 答えがこの戦闘で出ていた。



 場外に吹っ飛ばされ、投げ飛ばされたゴブリンがこの地点で半数を越えた。



 「ノノアさん! 後ろに下がってください! アイリス先生が徐々に近付いています!」

 「待って! 私に考えがある!」



 ある作戦を考えた私は、彼女に託した後に木の上に登った。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 半数を突破した。


 残り50。

 真剣に変わった所で怖いものはない。


 寧ろ模擬剣の方がやる気が出ないのは何故だろう?


 (特訓時代は相手が本気で殺しにきたからなぁ。多分それがあるから怖くないのかもな)


 そんな事を考えている間にも、槍部門のゴブリン達7人が俺に槍を突く。



 俺は勢いをつけてジャンプする。

 3メートルを超える俺のジャンプに、槍はギリギリ届かなかった。


 ゴブリン達は槍を俺に構えている。

 真上にいるのだから自分の上に槍がある状態だ。



 俺は槍の刃を触らないように太刀打ち(槍の真ん中よりも刃に近い部分)の部分を掴む。

 そして俺はゴブリン達に向けて槍を突き返した。


 ゴブリンの肩に石突(柄の底につける金具)が強く当たった。

 続けて近くにあった槍3本も同様の方法で怯ませた。



 「モーク! 吹っ飛ばせ!」

 「りょーかい!」



 モークは槍を俺に向けたゴブリン達に横から突進攻撃を掛けた。



 「「「ウワアアアアア!!!」」」



 場外に飛ばされた槍部門のゴブリン達は大きな呻き声を上げながら退場した。



 「ナイスフォローだぞ! モーク!」

 「えっへーん! デカくなったのが活きたね!」



 その時の俺は勢いよく地面に着地しようとしていた。



 「よーし! このまま押し切って――。!!!」



 着地を決めて踏ん張った俺は、「このまま押し切ってコンビで勝利しよう!」とモークに意気込もうとした。

 その瞬間、ゴブリン達の僅かな隙間から短剣が俺に向かって飛んできた!


 (ノノアかな?凄い技だけどこれなら余裕で――。……やってくれるな)


 いつの間にか、足が植物に絡みついて動けないことに気づいた。


 (……舐めてかかっては困るな)


 俺はその体制から体を右回転しながら反らす。


 ナイフは俺の横腹ギリギリをそれた。

 当たらなかったからセーフだろう。


 (ふぅ……あぶな……えっ?)


 一旦落ち着こうとしたが、なんとノノアがゴブリン達の間をすり抜けるように移動し、俺にめがけてもう一本のナイフで切りかかる。


 俺は【収納魔法】から模擬剣を取り出し、鍔迫り合いになった。



 「モーク! ノノアの着飾りを取れ!」

 「りょーかい! 【カゲヲアヤツルモノ】! ……え?」


 「……かかったわね。」

 「しまった!」

 「ギャアアアアア!」



 ノノアの陰から出たモークは、飛んできた魔法の直撃を食らってしまった。


 予めモークの出る場所が自分の陰と予想したノノアが魔法使いに打たせるように指示したのだろう。


 (戦略負けか……)


 やられた俺はにやりと微笑む。



 足も動かせない、手はノノアの攻撃を受け止めるので精一杯。



 つまり……。


 全てを悟った時、ノノアがとどめの言葉を放つ。



 「……アナタの真後ろはがら空きよ。」

 「完敗だな。流石ノノアさん。おめでとう。」

 「えい!」



 後ろにいた剣部門のゴブリン達が、俺の背中を斬った。

 久し振りの痛みが俺を襲った。

 血が溢れ出し、地面にポタポタと落ちている。


 ゴブリン村長が試合終了の合図をだした。



 「そこまで! アイリス負傷! ゴブリン達の勝利じゃ!」

 「やった~~~!」



 ゴブリン達はノノアを掲げて胴上げをする。

 ノノアも嬉しそうだ。


 (これで、ノノアとゴブリン達との仲が深まればいいかもな)


 俺は収納魔法から緑草を取り出し、一枚食べた。

 傷はまるで何事も無かったかのように消えていった。


 (俺とモークは反省会を開かないとな)


 胴上げを見ていた俺には、悔しい気持ちはこれっぽっちも無かった。



※不備修正

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