第35話 アイリス&モークVSユッケ 2. 作戦会議
「モーク。ちょっとコッチへ来てくれるか?」
「ん? まあ、わかった。」
モークは幻想の草原をピョンピョンしながら俺の所へ駆け込む。
俺より頭が上のモークに、策略見たいなものを本気で考えてほしかったからだ。
「モーク、とりあえずユッケのステータスを言っておく。あくまでこれはほんの一部だ。今サングラスが一生懸命解析している。」
「うん。でも、サングラスさんも大変なんですね。」
モークはサングラスをチクチク刺激するような言葉を吐く。
《……。アイリス様、後でモークをシバいてもよろしいですか?》
……止めておけ。
モークも多分気遣ってくれてるんだよ……多分。
……ほら、さっきまで「です。」とか丁寧語じゃないか。
それに、今はこんな状況だから焦っているんじゃない?
大目に見てやった方がいいって。
(モークがどういう態度とってるかは知らないけれどな)
《……マスターがそこまで言うなら……見逃します。》
なんとかサングラスを諫めることが出来た。
「モーク。ひとまず俺がユッケを引きつけておくから、お前は何かユッケを倒せるアイデアを考えていてくれ。」
「そういうのは人間の仕事じゃないの?」
「ハッキリ言って、お前の方が俺より賢いだろ? 頭の回転という観点からしたら。だからこそ俺はこうやってモークに頭を下げて言っているんだ。」
「……頭下げてないけど?」
いや、そこは俺の気持ち的に頭下げているという解釈をしてくれると思ったんだけどな。
(モークは確かに人間の言葉をマスターしているんだけど、それはあくまで外面的な話。例えば「申し訳ございません」と「ごめんなさい」を、モークはすこし別の意味で捉えている。そんな気がするな)
俺がモークの言葉理解の事を真剣に考えている間、ユッケは若干退屈そうな表情をしている。
(普通なら此処のタイミングで攻撃してくる可能性があるんだけどな。戦い方が紳士的だな)
「ねぇ、1分ぐらい待ったけど作戦会議みたいなものは終わったの? 俺との戦いに慣れてきたのかな?」
わざと皮肉を言い出したユッケは俺にめがけて一発の【火球】を打つ。
「【氷生成】! 言っておくけどこれはちゃんとした作戦会議だ。当然お前を警戒しないと、普通に負けちまうからな。今、お前の防御力が高すぎるからそれを突破する方法を一生懸命考えているんだ。」
「まあ、そうか。だったら突破してみろよ! この防御力6034とかいう分厚くて堅い壁を!」
そしてアッサリと【火球】を打ち消した俺はユッケにめがけて言う。
―――――――――――――――――――――――
ユッケはわざと自分の防御力のステータスを俺達の前で公開した。
今更防御力の数値がわかっていても、対処法がわかるというわけでもない。
ユッケにとってのステータスの公開は、此処では圧倒になるのだ。
すると、モークは俺に一つ目のアドバイスを提案してきた。
「アイリス、防御力を下げる魔法はどうだ?」
モークがサングラスを通じて俺に聞こえるようになっている。
実際、ユッケには聞こえていない。
悪くない案だが果たしてそんな魔法がユッケに通じるのか?
(自分の長所を潰す魔法は確かにある。だか、ユッケはその魔法の存在を知っているハズ。対策しない訳がない。)
《通達。防御力を減少させる魔法を、ユッケに効く確率はおよそ0.0001%です。何かしらの対策をしている証拠です。》
非現実的な確率だな。
100万分の1はいくら何でもキツすぎる。
俺が防御力を減少させる魔法をユッケに当てられるのは精々50発。
神頼みが過ぎる。
仮に成功させたとして、どれ位防御力が落ちるのかは見当がつかない。
最終手段の1つとして残しておこう。
「じゃあ、相手の急所は?」
モークは諦めることなく、次の提案をする。
どうだ?サングラス。
ユッケに急所はあるか?
《通達。急所は存在します。場所は人間と全く変わっていません。その中で、心臓辺りが最も有効でしょう。》
なる程、心臓辺りが一番有効なのだな?
だとしたら、ユッケも何かしら対策しているだろ?
《はい。その心臓辺りも異常に高い防御力で囲まれています。結局、防御力6000の壁を乗り越えなければ、急所を付いたところで何も意味がありません。》
だよな。
でも、攻撃をする場所はそこで間違いないな。
ヘンな場所に攻撃しても無駄なだけだし。
《はい。私も賛成です》
とりあえず、攻撃する場所はユッケの心臓辺り。
問題はどういう方法でユッケに大ダメージを与えられるか。
「うーん。サングラスさんの解析待ちですね。ユッケの弱点に対する情報がまだ全然足りていない。もう少し、ユッケがビビるような何かが欲しい。お願いします。」
モークはサングラスに懇願しているようだ。
バカにしている訳でもなく、本気で考えた結果の答えだ。
《……。》
サングラスはモークに命令されるのが若干不満のようだ。
(いくらマスターをバカにしたからって、そこまで意固地にならなくてもいいのに……。)
サングラス。
非常に申し訳ないが、俺も解析待ちだと思う。
でも、何か新しい情報が出たら俺達に報告してくれ。
現状、ユッケの弱点を解析出来るのはお前しかいない。
頼む。
サングラス、お前しか居ない!
《!!!……はい。アイリス様の要求に従います。(私はアイリス様の秘書ですから。)》
ん?
なんか最後らへんに言っていなかったか?
《否。ただの空耳だと思います。》
……そうか、悪いことをいった。
ともかくこれで、サングラスはなんとか引き受けてくれたようだ。
頼むぞ、サングラス!
―――――――――――――――――――――――
そんな作戦をモークとサングラスと一緒に、必死に考えていた俺は何をしていたかというと……。
モークに言った通りユッケを引きつけている。だが、ユッケを無傷でやり過ごせるのかという疑問は残る。
ハッキリ言って非常に難しい。
サングラスからの情報だと、ユッケのレベルは276。
俺のレベルはたったの25。
レベル差はおよそ250。
こんな理不尽過ぎる戦いは生まれて初めてだ。
でも、やるしかない。
わざわざユッケは【幻想世界】とかいう魔法まで使って勝負を挑んできたのだ。
明らかに格下の俺達は、文句も言えないだろう。
「いくぞ! アイリス! 全力で回避してみろ!」
ユッケは右手の太刀を構え、俺に襲いかかる。
そこそこ重い太刀のハズなのに剣を振るスピードがかなり速い。
※正確には剣ではなく刀です。しかし、アイリスは剣だと誤解しています。刃が片方が両方あるかで呼び方が変わってきます。
「キーン!」
激しい金属音が鳴る。
金属同士が激しく衝突しないと出ない特殊な音。
え?
俺がいつ金属を持ったかって?
言っておくけど、サン・グラースに貰った鉄の塊じゃないぞ?
※第20話参照。【創造魔法】で鉄の塊を生成したサン・グラースが、サングラス奪還の褒美に渡したものです。
俺だって一応小さいけれど持っている。出前店長の今田さんに貰ったあの特製ナイフだ。
元々は蕎麦を入れる四角形の容器だった奴を、今田さんが知り合いの鍛冶屋に頼んで作って貰ったナイフ。
※第12話参照。チンピラ達から逃げる最中にぶつかった(第3話参照)出前店長さんの弁償をするため、【臆病者】が蕎麦屋に入店しました。出前店長さんとの交渉の末、2本のナイフを入手しました。
(あの時、謝っていなければ今頃死んでいた可能性は全然あるな。今田さん、本当に感謝していますよ。)
壊れる可能性もあったが、そんな心配は無さそうだ。
金属のこすれるギチギチという音が耳に響く。
ユッケは出前店長のナイフに興味津々だ。
「俺は回避すると思ったのだが……そのナイフどこで手に入れた? 国宝の剣をも壊したこの太刀と互角に渡り合えるとは……。」
「蕎麦屋で手に入れたお手製のナイフだ。そうそう簡単に壊れる代物では無いぞ?」
「??? お前の住んでいた所は、蕎麦屋でナイフが手に入る町なのか? 制作場所を知られたくないから、大っぴらな嘘を言っているのだろう?」
ユッケは俺の説明で余計にわからなくなったのか、鍔迫り合いながら首を傾げる。
別にウソは一言も言っていないのだが……。
それにしても、このナイフ強くないか?
国宝クラスの剣を壊す剣の攻撃を防げるんだぞ?
(そんだけ硬ければ、あの時出前店長さんとぶつかった時に出来た傷はそう言う事なのか。どおりで、容器の角が頭にクリーンヒットした時に滅茶苦茶痛かった訳だ……。)
「じゃあこれならどうかな? 【剣舞】!」
ユッケは白色のオーラのようなものを体の周りに発生させると、鍔迫り合っている状況を解除させ、10メートル後方へ一旦下がる。
そして、目にも止まらぬ速さで剣を自由自在に回しながら俺にめがけて襲いかかってきた。
(これはキツいな。一発でも食らったら只では済まない。かと言って逃げようにもここは【幻想世界】、範囲はそこそこ限られている。だったら……)
俺は回避するという一択の選択肢を選んだ。
剣ではなく、ユッケの手を真剣に追いかける……。
……見えた!
まずは右足にめがけて剣が向かってくる。
幸い高さが低かった為、足を上げて回避した。
次に右足を回避した剣は、俺の背後から背中を狙って襲いかかる。
腕の動きで気づいた俺はしゃがんで回避する。
背中を狙えなかった剣のいく先は下。足元である。
これもアッサリとジャンプで回避した。
足元ですら回避された剣の行く先はまた足元だ。しかし、さっきの高さよりも幾分か高い。
ジャンプを見越しての攻撃だ。
(なる程、ジャンプしている最中は確かに身動きがとれないものだが、以外に動けるんだよなぁ。)
俺は足がつく前に思いっきり地面を足で蹴る。
高さがちょうど良かったのか、着地した場所は剣だった。
つまり、俺は剣の上にたったのである。
その事に気づいたユッケはいやな顔をする。
恐らく今ので【剣舞】が強制的に解除されたのだろう。
それに、自分が愛用している刀の上に他人が乗っかったら嫌なのである。
「あの、他人の太刀の上に乗らないで欲しいんだけど……。」
「嫌です。だってこのまま落ちたら剣の餌食です。」
「じゃあ、そこでダンスでも踊ってな!」
ユッケはすこし苛ついたのか、収納魔法から50センチほどの脇差を左手にもつ。それを俺に向かって連続でついてきた。
まるでダンスを踊っているかのように俺は連続で回避する。
途中、一回だけ右足の付け根に激痛が走ったが我慢する。
俺は一発ユッケの顔に蹴りを入れることが出来た。しかし、ユッケの顔はまるで石を蹴ったような硬さだったため、逆にこっちが痛い思いをした。
「ハーッ、ハッハッハ! 防御力6000が顔に適用されないとも思ったわけか? そんなに世の中は甘くないぞ?」
俺は既に幼少期から世の中は甘いどころか、冷たくて苦いと言うのを思い知らされたんだぞ?
(ッチ。さっきの脇差のせいで右足を軽く切ったな。一旦剣から離れるか。)
俺は危険を察知し、剣の上から離れる。
ユッケの攻撃が数発飛んできたが、なんとか回避した。
10メートル後方へ戻った俺はユッケを警戒しながら右足の傷を確認する。
足の付け根辺りでパックリと4センチの傷が、赤い液体を流している。
赤くてドクドクと露骨に血が流れているのがどことなく気味が悪い。
回復しないとマズイ。
特に足は早く回復しないと後々損傷が大きい。
「なる程、さっきの脇差の奴でケガをしたか。だったら、それを重点的に狙ってやるよ!」
ユッケは太刀を俺の右足に向けて襲いかかる。
痛みをこらえてギリギリ回避した俺は、収納魔法から緑草を取り出し、傷口に直接当てた。
すると、傷口はゆっくりと塞がっていき、数秒後には消えて無くなっていた。
驚いたユッケはすぐさま足を止めた。俺との距離およそ4メートル。
そして彼はその回復速度に疑問を持ち、俺に向かって質問してきた。
「あれ? さっきの傷口がいつの間にか消えてんな。良い緑草を使ったのか? 治りが早いぞ?」
「これは生まれつきだ。何故か知らないけど、俺は低級の緑草でも、結構回復出来るんだ。」
「へぇ~。結構めんどくさい奴だね。」
そういう会話を終えた後、ユッケと俺は再びバチバチと火花を散らした。
粘り強い俺がユッケの防御力を如何に突破出来るか。
絶大な防御力を持つユッケが俺の回避と粘り強い戦いを如何に攻略出来るか。
それはユッケも俺もわからない。
※タイトル一部修正
1マス空白開けて見やすくしました。
※不備(詳細は省略)修正 加筆あり




