第34話 アイリス&モークVSユッケ 1. 毒草の境地
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―【臆病者】アイリス・オーリア視点―
ユッケとの距離はおよそ10メートル。
あいつなら1秒もたたずに俺の所へ向かってくるのだろう。
多分だけど、俺がユッケに突っ切るのを待っているのか?
(もしそうだったら、しばらくこのままだな。全方位、念の為に気をつけておこう)
そして、60秒程経過した時、ユッケは痺れを切らす。
「んー。ずっと構えているのも面倒くさいな。仕方がないから、こちらからいくぞ。試しに、【火球】!」
ユッケは右手に魔力を込めると、レベル1の魔法【火球】を直線で俺に放つ。
……まあ、レベル1程度で躓くものでも……無いな。
(ヤバイ!これも食らったら強力な奴だ!)
いち早く気づいた俺は、右に少し移動してギリギリ回避する。
(あの【火球】、まだ警戒が必要だな。)
素通りした【火球】は後ろへと飛んでいく。
「アイリス! 気をつけろ! 【火球】がまだ生きているぞ!」
モークの言うとおり、俺は後ろを一瞬だけ見る。
「【火球】が浮いたまま止まっている?」
【火球】は直進する事もなく、消えることもなく、俺の15メートル程の距離で佇んでいた。
すると、今度は俺にめがけてやや加速しながら飛んでくる。
(このタイプ、まさか追尾してくる奴か?)
俺は【火球】を回避したあと、ユッケを見る。
「一球だけだと思うなよ! 【火球】! 【火球】!」
ユッケは続けて【火球】を2発追加する。
2発の球が俺に飛んできたが、直進タイプなのでアッサリと回避。
しかし、さっき回避した最初のが俺の所に飛んできた。
(面倒くさい【火球】だな!)
「【氷生成】!」
俺は赤の魔法に強い青の魔法を飛んできた球に当てる。
赤い球は氷に当たっても止まることはなく、俺に向かってくる。
若干飛んでくるスピードが遅くなったので、回避は簡単だった。
俺はさっき回避した球を見る。
すると、球は止まることなく直進し地面に激突する。
地面に衝突した瞬間、轟という凄まじい音と衝撃がバリアの中を包み込む。
さらにそこから、10メートルは余裕で越えるであろう業火の舞い上がる様子がまじまじと見えた。
(大体予想はしてたけど、【火球】でこれはヤバイな……相当魔力を込めたんだろうけど)
俺はユッケの魔力に少しだけ畏怖する。
非常に厄介な奴に目を付けられたものだ。
「【氷生成】で追尾を解除出来ると言うのに気付くのが、かなり早いな。冒険者の一部は、たかがレベル1だと舐めてかかって、結局それに痛い目を見る。魔法のレベルと言うのは、『強さや威力』というものではない。最小限の魔力を使っての『強さや威力』だ。」
(なる程、今のさっきはレベルの概念を見るための試験みたいな奴だったということか。でも、なんか戦いとはちょっと違うんだよな……。まるで、教えられている感じがする。)
ユッケは再び魔力を込めて、見当違いな場所にわざと【火球】を打ち込む。
ひょろひょろと飛んでいった【火球】は、わずか10メートル程で力尽き、地面を燃やす前に消えていった。
ふと、残り放った2発の【火球】が来ていない事に気付いた俺は、見渡すと【火球】が止まっていた。
向かってくる様子もない。
おそらく、何かしらの方法で魔法を止めているのだろう。
「つまり、しっかりと魔力を込めてあげれば、たとえレベル1であろうと威力や強さはレベル6や7にも匹敵する。単純な強さだけでレベルを図る能なしの人間にはピッタリな試し攻撃だったが、必要ないな。」
ユッケは右手の魔力を握る。
すると、さっき放った残り2発の【火球】がフッと消えた。
「どうして【火球】を消したんだ?」
「消したわけではない。戻したんだ。攻略がわかってしまえば、後は繰り返すだけ。そうしたら、せっかくそこそこの魔力を積んだこの【火球】は無駄に使ったことになる。」
ユッケの右手の手元を見ると、いつの間にか籠もっている魔力の量がかなり増えている。
(【火球】を唱える魔法を放つ前に戻したのだろうな。恐らく、無駄に魔力を使いたくないのだろう。)
《アイリス様、ユッケのステータスの一部が判明しました。》
ありがとう、助かる。
《ちなみに、ユッケはアイリス様のステータスを執拗に覗こうとしていました。》
ステータス?
聞いたことはあるけど、詳しくは知らんぞ?
《ステータスとは、簡単に言えば人間の様々な能力を数値化したものです。》
そんな事をしてなんのメリットがある?
俺はそもそもステータスなんて一流冒険者がやるもんだと思っていたが……。
《そうですね、確かにステータスが詳細にわかる魔法は数が少ないですし……》
「アイリス! こんな戦いの最中によそ見なんて余裕だな!」
サングラスがそう言いかけた瞬間、ユッケは下腹辺りに携えていた太刀を鞘から抜いて構え、俺に急接近してきた。
《!!! アイリス様、ユッケの攻撃です。左に移動して回避してください!》
……言われなくてもわかってるけど、ありがとう!
ユッケはアイリスのすぐ目の前まで接近すると、構えていた太刀を振りかぶり、斬り下ろす。
一瞬だけだが、虚を突かれた。
幸いにも、大太刀の行動が若干遅かったため、間一髪で回避する。
しかし、ユッケはそれだけでは終わらない。
空いていた左手をアイリスに向けて襲いかかる。
太刀でかわすのに精一杯だった俺は右に回避しようとするが、少し遅かった。
ユッケが左手に装備していた4本の爪の内の1本(小指)が、俺の左腕の太ももをかする。
そこそこの痛みが来たが、我慢出来ないものではない。
回避した俺は今がチャンスとユッケに襲いかかる。
右手に持っていたナイフをユッケの右肩に当てる。
「カン!」
石を木の板で思いっきり叩いたような音を鳴らす。
確実に当たった。
が、まるで効いていなかった。
すぐさま危険を察知した俺は、太刀を警戒しながら後方へ移動する。
イタタタ。
俺は怪我をした左腕のももを見る。
かすり傷だった。しかし、
(ん? なんだコレ? なんか透明な水っぽいものがついてるけど)
俺は透明のトロトロした液体に触れる。
「気をつけろ! ユッケの装備の左腕の4本の爪に何かしら塗っている! なんかヤバイ奴だ!」
焦ったモークが俺に警告している。
……何かしらの液体が傷の中に入ったから、もうすでに遅い気がするけど。
「アッハッハ! それは猛毒クラスの毒草という奴の100%エキスだ! 大抵の冒険者は地獄の苦しみを味わい、その他の冒険者は様々なステータスがガクンと低下する劇物! さあ、此処に毒草の効果を打ち消す万能薬がある。どうだ? 潔く敗北すれば、この万能薬をあげよう!」
ユッケはかなり悪い顔で俺をかなり馬鹿にしている。
なんだか、滅茶苦茶わざとっぽい感じがする。小物を演じているような感覚。
なる程、毒草か……。
……。
……。
……。
……えっ?
その薬、いる?
俺は何の躊躇もなく、発言する。
「その薬はいりません。」
「……えっ? いやいや、毒草だからその……。」
「だからいりません。」
「……えっ?」
ユッケはポカーンとした顔をしている。
普通は何かしらステータスの低下とかいう奴が来るのだろう。
しかし、俺にはもう通じない。
(嘗ての特訓で、毒草なんて既に8000枚ぐらいは食べてる。特に、毒草と緑草の区別が全くつかなかった初期の頃は、120枚連続で毒草を食べた事だってある。そんな苦しみを乗り越えたから、今は毒草なんて蜂蜜とあまり変わらない程になった。)
俺は昔の苦痛を思いながら透明の液体を口に運ぶ。
それを見たモークとユッケは驚愕している。
8000枚も毒草を食った境地がこれだった。
誰にも認められなかった特訓をひたすらずっとやった結果だ。
……甘い。
トロトロ濃厚なタレと砂糖みたいな甘さ。それと、若干の毒草の苦さが意外にマッチする。
それはまさに、ハチミツだった。毒なんて入っていないと言える程に。
「マジか……毒草を無効出来る程の耐性、【毒物無効】以上の耐性を所得していることになる。」
すると、俺の左腕のももにあった切り傷はいつの間にか消えていた。
それを見ていたユッケは衝撃のあまり身震いした。
意味が分からないと言いたそうな表情になっている。
「は? 【毒物無効】どころか、【毒物吸収】!? 一体何枚の毒草を食べたらそうなるんだ? じゃあ、俺が左手に装備しているこの爪は、もう役にたたないな。」
ユッケは何故か諦めたように自分の左手の武器を見ている。
俺は何故、ユッケが落ち込んでいるのかがしっくり来ていない。
すると、モークが俺に詳しく説明してくれた。
「アイリス、わからないか? お前は今、毒草のおかげでさっき負った傷が回復したんだ。となると、ユッケが左手の武器を使ったら逆にアイリスは回復してしまう。お前はたったそれだけで、ユッケの左手武器を完全に無効化させたんだよ。」
つまり、俺に【毒物吸収】とかいうわからない何かのお陰で、ユッケの武器(左手)を無効化。
ダメージを受けなくなったのである。
「この武器はもともと、冒険者を確実に弱らせるためなんだけど、塗った毒で相手に回復されるなんて事は初めてだな。」
ユッケは左手にあった爪武器を外す。
(逆にあれ、使えないかな?)
「でも、まだ俺にはこの太刀がある。俺が1年ほどかけて発見、改造した最高傑作だ。」
そして、刃長85センチにもなろう太刀を俺に見せつける。
流石にこれをまともに食らえば敗北どころか、一撃で死ぬ可能性もあるな。
閑話休題。
それよりも俺が気になったのは、俺がユッケに与えた一撃である。
(確かにあの時、ユッケに一発ナイフを当てたハズ。でも、ユッケは全く気にしていなかった。いや、気にする必要が無かった?)
《ユッケのステータスの中に、別格に高い数値があります。》
別格に高いと言うことは何かに特化しているのかな?
《ユッケの防御力のステータスは6000です。この数値を簡単に説明しますと、彼にまともにダメージを与えられる人間は、私の中にあるデータではたったの5人です。》
なるほど、厄介極まりない人間に出会っちまった俺達は非常に運が悪いのかな?
《否。ユッケは最初からアイリス様を狙っていたのではないかと推測しています。》
ん?
とすると、ユッケは俺をどうしたいんだ?
《アイリス様の回避能力が見たいのでしょう。ユッケは確かに強いですが、回避能力はアイリス様の方が圧倒的に上です。》
俺はユッケを警戒したまま複雑な気持ちになった。
ユッケがもし、回避能力を見たいと思っているのなら見せてあげたい気持ちもある。
しかし、あの特訓を見られていたかもしれないという何ともいえない嫌な気持ちもある。
(回避能力というものは、他の能力がある一定数より大きくなって初めて花を咲かせる。そんなものだけどな)
「モーク。ちょっとコッチへ来てくれるか?」
「ん? まあ、わかった。」
モークは幻想の草原をピョンピョンしながら俺の所へ駆け込む。
俺より頭が上のモークに、なんか策略見たいなものを考えてほしかったからだ。
※タイトル一部修正
1マス空白開けて見やすくしました。
不備(詳細は省略)修正 加筆あり




