第33話 幻想世界
※この話は、若干短めです。
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~ユッケ視点~
(いいタイミングで登場したかったけど、間違えたかな?長いことずーっと出るタイミング待った意味が無くなったな)
俺は今までやってきたことが全て無駄になったことを心の中で嘆きながら、【臆病者】のアイリスと近くのモークタン(ペット!?)を見る。
アイリスとモーク、両方ステータスが見れるな。
ステータスを見られないようにする対策はした方が良いぞ?
……ふーん。
普通の冒険者並みのステータスだな。
素早さが他より高いのはそうなんだが……。
このステータス上の判断でハッキリ言うと、俺が今まで戦ってきた相手の中で一番弱い。
でも、何故だ?
どうしてスキルを開こうとしても開けない?
それに、どうしてステータスの一部が分からない?
探知系魔法【スキル能力可視化】、探知系魔術【全てが見える魔眼】の両方使っても無理とは……。
一体何のスキルだ?
……まあ、それは一旦置いておくとしよう。
モークタンの方は……じゃなくて、モークの方は……。
…………ん?
確かコイツの魔物ランクは基本Gのハズなのに、何でEなんだ?
【特殊魔物】という事か。
滅茶苦茶レア魔物じゃねーか!!!
Fクラスのモークタンは300年に一匹見るか見ないかという所なのに、E!?
普通は人間に刈り取られてお終いだぞ?
Fになっても危険は山ほどある。
(魔物の俺達からしたら、モークタンがランクGから抜けれる者は極稀にいる。でも人間はその事すら知らない。これが人間にバレたら、このモークという奴はタダでは済まない。実験材料の的だな。アイリスがコイツを匿っていると言うことか)
※実際そうではありません。ユッケは考えすぎているだけです。
それにしても、アイリスは少しビビっているようだな。
まあレベルが250も違えば、誰だってそうなるわな。
でも逃げ出さないのは多分、俺の方が足が素早いからかな?
ここは【カルッツイロ草原地帯】。
入り組んだ道が何一つない平坦な土地。
そうなると、直線勝負という所になる。
近くに森があるが、距離は700メートル。
これほどのレベル差で逃げ切れるか?と言う問題点があったのだろう。
となると、アイリスの戦い方は……。
(「どうやって生き残るか」だよな……本当は殺す気はほとんど0なんだが)
でも、逆に考えるとそれの方が厄介なのである。
さて、このままコイツとドンパチすると後処理が非常に面倒くさい。
綺麗な【カルッツイロ草原地帯】に火を付ける訳にはいかないからな。
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アイリスとユッケは互いに牽制する。
真上には凄まじい雷雲がゴロゴロとうなり声をあげていた。
どす黒い雲が【カルッツイロ草原地帯】の上空を彷徨いている。
【臆病者】はそれも視野に入れていた。
勿論、当たったら即死の可能性だって大いにある。
「じゃあ、このあたりでドンパチすると、【カルッツイロ草原地帯】を燃やすことになるから、別の場所でしよう。【浄化する自然の風】をいちいち使うのは面倒くさ過ぎる。そこまで範囲が広いという訳でも無いからな。」
突如、ユッケが【臆病者】にそう進言した。
「ああ、確かに金色一色で輝かせる【カルッツイロ草原地帯】を燃やすのはアレだな。ちょっと人間的にも都合が悪い。場所を移そ……。」
「チッチッチッ。そんな必要は無い。」
【臆病者】がそう言いかけた瞬間、ユッケは右手の人差し指を左右に振りながら舌打ちを3回鳴らす。
「じゃあ見てな。こういう手もあるんだぜ! 【幻想世界】!」
ユッケは右手に紫色をした魔力を溜めると、上空へと放つ。
魔法陣がほんの一瞬、僅かな間だけ表示された後、静かにフッと消えた。
上空へと放たれ、一直線上に伸びた紫色の魔力は、400メートル程の高さになると四方八方に分散する。
すると、ユッケの中心から半径1キロメートルに大きな膜が出来た。いや、膜と言うよりもバリアといった方が良い。
さらに、包み込まれた【臆病者】達は、いつの間にか別世界へ来たかのような光景に思わず目を大きくする。
そんな【臆病者】達を見たユッケは、両手を開けて歓迎の意を示した。
「ようこそユッケの【幻想世界】へ! 此処なら草原地帯にダメージは与えない。」
「どういう原理だ?」
「まあ、一言で言えば《パラレルワールド》って言う感じかな?」
「パラレルワールド?」
【臆病者】はユッケが言った《パラレルワールド》と言う単語に、思わず引っかかる。
ユッケは余り驚かずに《パラレルワールド》について説明した。
「この世界には異世界へと通じる扉みたいな物がある、と言うのは知っているか?」
「ああ。確かどっかの誰かが異世界とこの世界を通じる扉を、魔法を使って至る所に配置した。人間はそういう解釈で考察している。まあ俺が勝手にそう思っているだけで、具体的に何処まで研究が進んでいるかは知らないけど。」
「その解釈で大体あってる。じゃあ、ここで質問だ。もし、この世界を丸々コピー出来たとして、コピーする前の世界と同じ歴史を必ず辿ると思うか?」
「……いや、誰かが違った行動をとるかもしれんな。」
「じゃあ、よっぽどの事がない限りはコピーする前の世界とコピーした世界は、互いに直接干渉出来るか?」
「無理かもな。」
「つまり、この【幻想世界】は元々あるこの世界を自由自在にコピー出来る魔法なんだ。自分の好みにコピーの大きさを変えることも出来る。」
「相当凄い魔術じゃないか?」
「ところが実際はそうじゃない。確かに【幻想世界】はやっていることは凄くて、習得もトップクラスに難しいんだけどな。」
「じゃあ、何故だ?」
「残念ながら、基本はコピーしか出来ないんだ。例えば相手と戦うとき、コッチに有利な気候で勝負しようとしても出来ないんだ。そもそも天候が無いからな、この世界は。」
【臆病者】が首を傾げていると、モークタンが歩み寄ってヒソヒソと囁く。
「アイリス。つまり、コイツの言っていることは、『気候を自分の都合で出来ないから、自分に有利な戦いが出来ない』だよ」
「つまり、闘技場で戦うような公平な勝負になる。そしてさらに、この【幻想世界】で戦った事は実際僕達がいた世界に影響しないと言うことか。」
「ちなみにだけど、死んだら生き返る。という訳じゃ無いからな。それだけは気をつけろよ。」
【臆病者】は薄々納得した顔でユッケを見つめる。
すると、モークタンは周りを見渡すとユッケに言った。
「凄い綺麗だな。こんな幻想的な赤色見たことがないな!」
それを聞いた【臆病者】は辺りを見回す。
確かに非常に綺麗だと感じた。
赤ピンクが混ざったような空間に、バリアの外には大小のダイヤモンドのような形が何万と浮かんでいる。
ピンク色の美しい世界だ。
余りにも輝かしい光景に、思わずモークタンが感嘆したのだ。
「そうかそうか! これは俺の魔力を、ダイヤモンドみたいな形に形成させたものをいっぱい作ったんだ。流石にこれだけの量を揃えるのは大変だったぜ! 俺でもそんなに魔力が多くは無いからな。」
ユッケはモークタンが褒めてくれたことが嬉しかったのか、にこやかな表情で丁寧に説明する。
この人結構大変な事をしているな。と【臆病者】は思う。
ダイヤモンド一つ一つを作るために、わざわざ自分の魔力を注いでいるのだ。
どれほどの労力と時間を費やしたのだろう。
「さあ、長々と説明したけどそろそろいこうか。本気でかかってこい!!!」
「いくぞ! ユッケ!」
【臆病者】はユッケを睨みつけ、右手にあるナイフの持ち手を強く握る。
いや、恨む目ではなく、どうやって攻略するかという必死の目だった。
ユッケと【臆病者】は互いに火花を散らしていた。
一方、満身創痍であるナープクル・カルナも【幻想世界】の範囲内に入っていた。
ユッケとの戦いでかなりやられたのが響いていて、地面から起きあがることがやっとである。
数度か吐いた真っ赤な血が、彼女が受けたであろうダメージを物語っている。
現在、ユッケが発動した【幻想世界】にいる者は、
勝負を仕掛けた大悪魔
【防御力6000、強者冒険者の大悪魔】ユッケ。
勝負を受けた
【臆病者】アイリス・オーリア
そのペットであるモークタンのモーク。
ユッケとの戦闘で動けなくなった
【黒十字団・団長】ナークプル・カルナ。
の4人である(正確には、3人と1匹)。
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~ナークプル視点~
なに?
この景色……。
私は一瞬何が起こったのか分からなかった。
ユッケという男が放った紫色の魔力が上へと上昇し、ある高さで分散した。
そうしたら、まるで世界が変わったかのように辺りが赤とピンクの世界になった。
どうやら私もユッケに招待された気がする。
彼処からはかなり距離があるので、彼らがなにをいっているかは分からない。
魔法は全てユッケの魔法で妨害されている。私は何も出来ない。
でも、綺麗。
私の好きな色に近い色。
なんだか知らないけれど、ホッとする。
【臆病者】はユッケと火花を散らしている。
(多分、ユッケに殺されることは無いと思うけど、それでも保証は出来ない。おそらく両者本気で戦うつもり。私はただの観戦者……と言うわけね)
私は、ただじっとする事しか出来なかった。
ただそれと同時に私は、今までに見たこともない両者の本気を初めて見ることになる。
ランクやレベルの差なんて気にしない。そんな希望に満ちた戦いを!
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次の話からユッケ戦が始まります。
※ナープクル・カルナ→ナークプル・カルナです。修正しました。
※不備(詳細は省略)修正 加筆あり




