第32話 黒い大悪魔!?ユッケ参上!
「ちょっと疑問に思ったことを言っていい? 僕は魔術と言う言葉は聞いたことがあるんだけど、魔法とは何が違うの?」
俺は気になった事をアイリスに質問する。
魔術と魔法の違いが俺には全く理解出来ない。
昔、人間が魔術の事を「禁じられた魔法」と呼んでいた。
もしそうであったならば、魔術は少し聞いてしまうのは駄目なのかも知れないけど。
「うーん、俺も魔術は薄々耳にしたことがあって人に聞いたことはあるんだけど……【臆病者】という理由で完全無視状態だったからな。悪いが俺にもイマイチわからん。」
「サングラスに聞いてみようかな?」
「そうだね。俺も気になるし。」
結局、俺達は魔術と魔法の違いを確かめるべく、サングラスに質問する。
《……少し回答しづらい質問ですね。これは人間の間では少々タブー。つまり、あまり触れてはいけないものです。》
少しだけでいいんだ。
頼む。
《少々失礼な態度ですが致し方ないですね。一部分だけ教えます。ただし、これはあくまで幻である可能性も視野に入れてください。》
俺はコクリと頷く。
アイリスはサングラスの言葉に耳を傾けている。
《まず、魔術と魔法は異世界ではほぼ同じ意味として定義されています。異世界には魔法や魔術というものの情報が薄すぎた為であると私は推測しています。》
「モーク。異世界と言うのは知ってるか?」
アイリスは俺に異世界について訪ねてきた。
前におじいちゃんから、少しだけ聞いたことがある。
でも異世界人と、この世界の人の姿を比較してもほとんどわからない。
「うーん、ちょっと聞いたことがある。けど、どうやって異世界人がこの世界にやって来たかはわからない。」
「異世界では、魔法というものは存在しないらしい。」
「ええ!? じゃあ文明を作っているのは何なのさ?」
「科学だよ。ハッキリ言って、今の異世界人が作るものはこの世界の人間よりも驚くほど優れている。反対に、この世界の人々は魔法に特化していたから、魔法を覚える速度は異世界人のおよそ4倍位らしい。」
「つまり、お互いにメリット(長所)とデメリット(短所)をそれぞれの特技でカバーしているの?」
「そう言うことだな。でも、色々な意味でちょっと中途半端過ぎて、父さんはこの世界を多少は愚痴ってたけどね。これで異世界の事はわかったかな?」
「うん。やっぱり人間はそう言うところは妙に出来るんだよな。」
正直、人間が羨ましいなんてことは幾度もある。
もし、人間になったら俺は何をしようかな?
魔物討伐?
得意の果物栽培?
必死に勉強して料理人?
想像した回数は数え切れない。
でも、最近は違った考えをするようになった。
人間と同じ扱いになるにはどうすればいい?って。
《あなたも非常に苦労していますね。成敗するのが段々悲しくなってきました。》
わかるか?
知ってるか?サングラス。
俺達モークタンは、テレパシーで全てのモークタンの様子がおおよそわかるんだ。
つまり、死んだモークタンの数もおおよそだけどわかる。
《……。》
今日までの10年間で殺されたモークタンの数はどれくらいだと思う?
ざっと20000000だ。
世界中何処にでもいるから、世界中で捕獲されるんだ。
スライムより経験値が多くて一番弱いからって、この有り様。
1日でおよそ5400匹超とは、世の中酷いもんだよね。
……ごめんなさい。話がそれましたね。
《……。(ほとんどの人間は、利益と欲望に弱いのです)。》
ん?
今何か言ったか?
《否。魔術の話を続けます。この世界での魔術と魔法は似ています。》
似ています?
違うということか?
《はい。簡潔に言いますと、魔術は範囲攻撃に特化したもの。魔法は個人戦に特化したものです。》
「でも、魔法のなかでも範囲攻撃に近いものはレベル6からは山ほどあると聞く。どうして違う扱いなんだ?」
アイリスが気になったのか、質問をサングラスにぶつける。
多分俺にも聞こえるように、わざと口に出しているのだろう。
《魔術は余りにも規模がおおきすぎて、残虐性が高いものが多すぎるのです。およそ1000年前、その時代は【魔法、魔術戦争】に遡ります。》
何となくこの地点で嫌な予感しかしない。アイリスも顔が複雑な表情になっている。
恐らく、結果を何かしらの方法で知っているのだろう。
《魔法を中心に栄えていた旧イミルミア帝国(昔はアルセア帝国)と、魔術を中心に栄えていたダウガウ連合王国との激しい戦争が始まりました。同時に、小国だった他の国々も、魔法派と魔術派にわかれ、戦争は大規模、泥沼状態に。結果、10年にも及ぶ戦争になってしまいました。》
え?
ちょっと待てよ!
どうして魔術と魔法という違いだけで、10年間も泥沼状態の戦争をするの?
《この世界の魔法や魔術は、いわば宗教のような存在。また、一部の過激派が上層部に大勢いた事により、事態は深刻化しました。最も被害を受けたのは、律儀に魔術や魔法を信仰していた、一般人です。しかし、ダウガウ連合王国は戦争をしたくなかったと文献には書かれています。》
旧イミルミア帝国の上層部で、魔法の過激派である一部が起こした戦争ってこと?
でも、魔術がどうして「禁じられた魔法」になっちゃったの?
残虐性というより、単に戦争に負けただけなんじゃ……。
《残虐性は証明されています。実際、連合王国は旧イミルミア帝国の城に魔術での爆撃を計画していました。しかし、これはあくまで一部の過激派だけを抹殺する最終手段でした。この戦争の実行犯を一掃すれば、終わるのではないかと考えていたそうです。》
なるほど。
戦争仕掛けた人達を一網打尽にぶっ潰そうとしたのか。
滅茶苦茶大胆で荒い作戦だな。
《はい。結果は失敗しました。魔術は直撃しましたが、旧イミルミア帝国の城は何かしらの魔法で防いでいました。バリアは打ち消すというものではなく、受け流す役割をもっています。》
受け流す?
つまり、ダウガウ連合王国が放った魔術は、魔法で防がれても消えていなかったと言うこと?
《はい。そして、受け流された魔術は城を経由して、城下町に直撃しました。威力は余りにも凄まじく、数万にも及ぶ命が失われました。人間から流れた大量の血が、熱でブクブク沸騰するほどだったそうです。城下町一帯はこの世の地獄みたいだったと、文献では鮮明に書かれています。》
うわー、マジか。
それは凄まじい威力だな。
それで、その後はどうなったの?
《旧イミルミア帝国は、城に受け流す魔法を張っていたという真実を隠し、「ダウガウ連合王国が城下町に向けて撃った! これは残虐極まりない悪質な行為だ!」とウソをつきました。結果一般人は、やられても死ぬ気で抵抗し、ついにダウガウ連合王国は逃走しました。》
一般人すげーな。
死者はどれ位なんだ?
《この結果、旧イミルミア帝国は民間人合わせて5800万人。ダウガウ王国は民間合わせて100万という数で終戦しました。被害が大きくなる前に、ダウガウ王国は逃亡したのが被害が少ない唯一の理由です。》
5800万は酷いな。
なんか、「試合で勝って、勝負に負けた。」そんな感じがする。
《ちなみに、今回の戦いで旧イミルミア帝国は完全に腐敗しました。戦う為に資金を使いまくった為、財政どころか経済まで破綻しました。そんな中、クーデターを起こした少年がいました。それが現在イミルミア帝国の帝王、イミルミア・アルト・リーア=ローゼルです。クーデターは成功し、彼は帝王になりました。彼は腐れ切った帝国を、わずか1ヶ月で立て直しました。》
ん?
これ、1000年位前の話だよね?
今も生きているってこと?
《はい。現在でも、何かしらの方法で延命しているとしか考えられません。それも、体が衰えるどころか、段々強くなっているようです。》
蘇生の魔法ならそんな事が可能なの?
《無理です。生き返ることは出来ますが、体が若返る事はまずあり得ません。》
ここで考えるのは面倒くさい。
一旦保留にしよう。
《これが、私が語れる魔術の歴史です。数々の文献を見ても、この後の魔術の歴史はありませんでした。此処からは、魔術の特徴について話したいと思います。》
ヤッパリそうだよな。
負けたダウガウ連合王国の魔術は、この戦いで消えたと言うことか。
《まず、魔術の最大の魅力は、なんといっても詠唱する際に出現する、魔法陣です。》
まほうじん?
なにそれ?
「モーク。魔法陣とはこんな形をしている。あくまでこれはほんの一例だが、大体こんな感じだと言うのは覚えておいた方がいい。」
アイリスは収納魔法から本と何かしらの細い棒のようなものを取り出し、何かを書いた後俺に見せる。
……確かに、ある意味カッコイイっちゃカッコイイかな?
一部の熱狂的なファンが出来そうな感じがする。
大きな丸のなかに、よくわからない文字や幾何学的な形が折り混ざっている。
「実際に唱えたらどんな感じになるんだろう?」
俺は色々な妄想が膨れ上がりすぎたのか、つい独り言を言う。
「魔術!? 実際に見たいのか? 俺は一応唱えられるけど、見る?」
すると、背後から突然声がした。
俺はビックリし、背筋をブルブルする。
(コイツ……強い!)
《!!!! モーク。至急このサングラスをアイリスに渡してください!》
俺は直感的に渡さないとマズいと思い、アイリスの元へすぐさま走る(走ると言っても、2メートル位だけど)。
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―【臆病者】アイリス視点―
「実際に唱えたらどんな感じになるんだろう?」
モークは色々な妄想が膨れ上がりすぎたのか、つい独り言を言っている。
(モークとサングラスの話を全部聞いていたが、モークの人生も強烈だな。)
「魔術!? 実際に見たいのか? 俺は一応唱えられるけど、見る?」
すると、背後から突然声がした。
俺はビックリする。
もしかして、さっきからずっとそこにいた?
全くわからなかったぞ!
《警告! 警告! 警戒レベル5、警戒レベル5。彼はやる気です! 即座に戦闘態勢に入ってください!》
サングラスが異常に警戒している。
「アイリス! サングラスを一旦返すよ!」
モークは俺の所にすぐさま接近し、サングラスを渡す。
そして、俺はサングラスを急いで装着する。
とりあえずモークにあることを聞いてみた。
「モーク。魔物のカンで、アイツはヤバイか?」
「……ああ、ヤバイ。本気でヤバイ。最悪、一瞬で死ぬかも……。」
「だよな。今まで10年間魔物とドンパチしてきたが、この地点で俺が絶望な状況は初めてだな。」
俺は額から冷や汗を流しながら、突然声を掛けてきた方を見る。
黒色の半ズボン。
綿で出来ている灰色の長袖。
がっちりとした黒色の分厚いセーター。
武器装備は、左手には大きな4本の爪状の武器。
腰には剣を携えている。
防具装備は、ふくらはぎ辺りに鋭い針が数本付いている鋼鉄の防具。
頭には異世界人の【にほん】が昔付けていた【戦国時代】の兜のようなものがある。
間違いなく強い。
下手に動くと死ぬな……。
《逃げ出せる方法を探しています。》
サングラス。
逃げる選択肢はナシだ。
逆に聞くが、この平面で隠れるところがほとんどない所で逃げきれるか?
《……正直ほぼ0です。》
そこでサングラス。お前に命令だ。
奴のステータスを欠片でもいいから片っ端から調べてくれ。
頼む。
《……了解。相手のステータス解析に全力を注ぎます。》
一方、相手は何故か少し戸惑っているようだ。
「出るタイミング間違えたかな?」みたいな態度を、ずっととっている。
「えーっと、まず最初にアナタは誰ですか? まだ敬語が苦手なので、そこは許してください。俺の愛称は【臆病者】とアイリス・オーリアと申します。初めまして。」
敬語が苦手と言うよりは、相手の出方がわからないので戸惑っているだけだ。
それに、今更【臆病者】を隠す必要もない。
「ああ、……ゴホン。俺の名前はユッケ、下の名前はない。こちらこそ初めまして。」
ユッケと名乗る人物は俺の微妙な敬語に反応し、わざと咳き込んでいる。
(コイツ……魔法、滅茶苦茶使えるバケモンかもな)
現在、俺とモークは最大級の警戒を敷いている。
死にたくないから全力でユッケに集中している。
「それより、魔術だっけ? 最初の発言で魔術を唱えられるとか言ってたけど、ちょっと見せてくれないか? 単純にモークと俺が興味があるだけだけどな。」
「ああ、そうだ。昔、人間が『魔術は禁じられた魔法』とか言っていたのに興味が湧いたんだ。それで、ついつい僕が独り言を言っちゃったんだ。」
俺が魔術に興味を寄せた後、モークもすぐさま反応する。
(魔術で、出来るだけ相手の魔力を削ってみるとするか。まあ、全く無駄な気がするけど)
「そもそも、魔術に興味があること事態、稀だな。他の冒険者や猛者は興味すら持たなかったのに。まあ、俺が最初に言ったことだし……特別に魔術の詠唱を一例だけ見せてやろう。」
ユッケは右手に絶大な量の魔力を込めた後、手を自分の額に当てる。
「【親愛なる雷の守護者たちよ! 今こそ解放の時なり。この天の空に雷雲を創造し、我が力を天下に見せつけよ! 創造たる天の雷!】」
ユッケは右手を全力で上に高々と勢い良く上げる。
直後、俺の身長よりも大きい魔法陣がユッケの右手の上に幾重にも重なる。そして、上空に向かって凄まじい速さで、ドーンという爆音と共に直径2メートル位の白くて細長いビームのようなものが飛んだ。
さらにそこから数秒後、晴れ晴れの天気であった場所が【カルッツイロ草原地帯】にだけ黒い雷雲が立ちこめている。
「さあ、守護者たちよ! その絶大なる力でアイリス・オーリアとモークに魔術の凄まじさを叩きつけるのだ! 【雷の裁きを受けよ! 成敗!】」
ユッケは俺からおよそ300メートル位離れたところに雷を落とす指示をする。
「バーーーーーーーン!」
直後、ユッケが指示した場所に天から豪速球で雷が地面へと落ちた後、思わず耳を塞ぎたくなるほどの爆音と、目を塞ぎたくなるほどの閃光が俺達を襲う。
「うわあああああああ!」
衝撃の余り、モークはその風圧に耐えられずに数メートル後方に転がる。
俺はたまらず腰を落とした。
10秒後……。
雷が落ちた場所を見たときは、それは余りにも荒れた光景だった。
金色の枯れ草みで彩っていた【カルッツイロ草原】は、赤色の火で燃やし尽くされている。
あの時にあの場所にいたら……と思うと思わずゾッとする。
(ヤバイ。本気でコイツはヤバイ。)
俺はユッケの恐ろしさを再認識した訳だが。なるほど、どうりで魔術が「禁じられた魔法」と噂されるわけだ。
「おっと、【カルッツイロ草原地帯】の金色一色を赤色に染め上げるのはちょっと御免だな。【浄化する自然の風】!」
ユッケは燃えている所に手をかざす。
緑色の風のようなものがユッケの右手から出てきた。
そして、その緑の風が燃えている部分に触れた。すると燃えていたハズの枯れ草はいつの間にか、元の金色一色を取り戻した。
火は今まであったものが無かったかのように何処かへ消えていった。
「他にも、色々あるんだけど面倒くさいからあんたと戦っているときに色々見せるよ。もう言ったけど、俺の目的はただの勝負。どうかな?」
「……わかった。勝負だ! ユッケ!」
俺は渋々承諾の返事をする。
雷で数メートル飛ばされたモークが、それを耳にしたのか、俺の元へ駆け込む。
そして、俺はモークとひそひそ話をする。
ユッケはちょっとモークと俺の話に興味があるのか、羨ましい顔をする。
どうやらひそひそ話はオッケーのようだ。
「アイリス! 流石に彼奴と勝負するのは無理だって!」
「逆に聞くが、この状況で今更『戦いません』なんて言えるか? 彼奴から逃げれる勝算はあるのか?」
「……ゴメン、無いです。」
モークは諦めたかのように呟く。
あのサングラスが、逃げれる確率は0と言っているのだ。
モークも、無理であると言うことはわかるのだろう。
「よく聞けモーク。この世界には、戦わなくてはいけない状況がいくつかある。」
「何?」
「1つは仲間を馬鹿にされたとき、2つ目は相手が完全に俺らにとって悪だったとき、3つ目は大切な誰かを守らないといけないとき。最後は、余りにも強さが別格の相手に戦いを挑まれたときだ。」
「わかった。」
「別格の相手と戦うときは、『如何に勝つか』じゃなくって、『如何に生き残るか』だ! それを忘れんなよ!」
「なるほど、わかった。」
俺はモークに自分なりの心構えを言う。
「もうそろそろ良いかな?」
「ああ、何時でもオッケーだ。」
「それじゃあ、バトルスタートだ!!!」
俺は収納魔法から1本の短剣を取り出し、右手に構えた。
いくぞ!ユッケ!
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こうして、【カルッツイロ草原地帯】史上最大の激戦、
アイリス&モークVSユッケの勝負が始まった。
ピクニック程度のこの場所が、今運命選択の道になった。
勝つか負けるか。
全ては運命のみぞ知る。
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※不備(詳細は省略)修正 加筆あり




