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皇甫嵩の策

な、なんとブックマークが11件で感想までとは……!確認した時はとても感動しました。

感動のあまり、指が動き早めに三話が出来たので投稿させていただきます!

 長社に密偵を放ったが、誰一人として戻ってくる者はいなかった。


「誰も戻ってはこないか……」


 数日経っても収穫のない情報に曹和は軽い溜息をつく。


 黄巾軍に曹操率いる官軍は居場所に気づかれたが、黄巾軍は城の包囲を緩めなかった。

 城外の官軍に牽制役として一万の軍を差し向けてきた。


 相変わらず長社の城は波才の手によって包囲されており、依然として状況は変わらないままだった。


「何とかして次の手を打たなければ、長社の城にいる両将軍を見殺しにしてしまう」


 無力な己に苛立ちを覚える曹和だが、到着五日目にして事態は急激に変化した。


 曹操は曹和に全体の指揮を任せると、本陣に籠り、地図をずっと眺めていた。

 曹操の頭の中では、すでに二十以上の戦いが想定されていた。


「……これは敵を逃がしすぎてしまう」


 二十数回目の策を想像したところで、曹操はため息をつく。


 曹操は皇甫嵩と朱儁のどちらかとさえ連絡を取れれば、この戦いは完璧に近い勝利を掴めると自信を持っていた。


 そう、連絡さえ取れれば。


 曹和とは対照的に苛立ちの感情はない曹操には、この現状を打破する策がないこともない

 しかし、暴走とも言える策しか残されていない。


 前々から曹操は情報の重要性に注視している。

 今でもその考えは変わっていない。


 可能であれば、自ら自由に使える間諜の組織を欲しいとさえ考えていた。


 この戦いにおいて、曹操が唯一後手に回ったことがあるとすれば、細かな情報収集である。簡易な情報は伝わってくるが、詳細な情報はほとんど耳に入ってこない。


 詳細な情報がいくつか手元にあるだけで、戦術や策の幅は大きく変わってくる。


 再び次の策を思い浮かべようとした時、大きな足音が近づいてくる。

 曹操は反射的に腰の剣に手をかける。足音はどかどかと次第に近づき、やがて足音は曹操がいる本陣の前で聞こえなくなる。


「そこにいるのは誰だ!」


 警戒を怠らない曹操は思わず大声で相手に名を尋ねる。


「曹和でございます!」


 曹操が生きている間に最も聞いたことのある聞き慣れた声が本陣の外から聞こえる。

 相手が曹和と分かると、腰の剣から手を放す。


「入ってよいぞ」


 許可をもらった曹和は本陣に近づいてきたような時のような足音で本陣に入ってくる。


「兄者、ついに朗報がもたされました!」


「朗報が届いたことは喜ばしいことだ。だが、あれほど大きな足音を立てると警戒してしまう……。現に、この手は腰の剣を握っていたからな……」


「そ、それは申し訳なかった、兄者。ついに朗報に足に自然と力が入ってしまいました……」


 恥ずかしそうに顔を下に向ける曹和に曹操は笑いが止まらない。


「わっはっはっは!そうか、足に力が!子元しげんにもまだ赤子のような心が残っていたか!」


「兄者……」


 曹和は再び恥ずかしそうな表情で弱弱しい声を出す。

 曹操は曹和と二人きりの時は、曹和のあざなである子元しげんと呼んでいた。


「それで子元、朗報とはなんだ」


「長社の皇甫嵩将軍より使者が参りました!」


「長社からだと……?これだけの黄巾軍の包囲網を掻い潜って、ここまで来たのか?」


「そのようです」


「ふむ……。敵の間諜の可能性はないのか?」


「敵の可能性も疑いましたが、その可能性はなさそうです」


「それは何故、敵の可能性がないんだ?」


 曹操は敵の間諜の可能性の選択肢を捨てていなかった。


「ここに到着した使者はすでに死にました……。敵がわざわざ使者の死を装ってまで、我々をあざむく必要がないかと」


「子元よ……。黄巾軍とて、生き残らなければならない。敵はいかなる卑劣な手を使って、我々を翻弄してくる……」


「いかなる卑劣な手を使ってでも……」


「そうだ。子元よ、覚えておけ。自分を疑い、味方でも信用するな……」


「自分を疑い、味方でも信用するなと……。兄者の言葉を肝に銘じておきます」


 曹和は曹操の言葉を肝に命じながらも、曹和は己の信念を忘れない。


「ですが、兄者……己の信念である『慈悲を忘れない』だけは忘れずに守っておきます」


 曹操は黙って首を縦に振る。


「それで、皇甫嵩将軍からの使者は何と?」


「こちらです」


 曹和は懐から血まみれになった竹簡を取り出し、曹操に差し出す。

 曹操は曹和から竹簡を受け取ると、竹簡を読み始める。


「なるほど……。使者は死ぬ前に何か言葉を発したか?」


「務めを果たせたと……。死ぬ直前までそればかりを申していました」


「務めか……。その使者の亡骸は手厚く葬ってやれ」


「はっ!皇甫嵩将軍からは何と書かれておりましたか?」


 曹操は曹和に皇甫嵩からの竹簡を渡す。

 曹和は渡された竹簡を読みながらうなる。


「……これは!仮に皇甫嵩こうほすう将軍からの策が成功すれば、波才の黄巾軍を全滅にすることができる……」


皇甫嵩こうほすうも愚かではない。おそらく、一気に豫州よしゅうの黄巾軍を殲滅しようとしているのだろう」


「して、兄者。いかがなさいますか?」


皇甫嵩こうほすうの策が最もだろ。皇甫嵩こうほすうのいる長社に向けて狼煙のろしを上げろ。狼煙を合図に今夜、策を決行するだろう……」


「御意!兵士には十分すぎるほどの兵糧を取らせておきます」


「そうだな……。厳しい戦いになるだろう」


 曹操は険しい表情で本陣の外に向かって歩きはじめる。


 曹和の指示により長社に向けて狼煙が上がる。

 当然であるが、狼煙を上げたことは長社にいる官軍への合図だが、黄巾軍にも気づかれる。


 波才の黄巾軍も空に狼煙が上がったことを確認する。

 黄巾軍は明らかに不自然な異変に気付く。


 長社の城攻めの攻撃の手を緩め、周囲を警戒する。


「さすがに異変に気付くか……。波才が策を見破らなければいいのだが……」


 曹和は多少の心配を抱えながらも、皇甫嵩の策に向けて最善の状態で戦いに臨むだけである。


 城外にいる曹操が率いる官軍には贅沢すぎるほどの兵糧が配られる。

 一部の兵士は贅沢すぎる兵糧を食べながら、急すぎる振る舞いに違和感を覚える。


 ある兵士は与えられた食事を必死に食べる。


 ある兵士は疑念を払拭できず、不安を募らせながらゆっくりと食事をとる。

 どの兵士にも共通していることは、曹操の命令を遵守することである。


 辺りは夕日が完全に沈み、徐々に暗くなっていく。暗闇の中で冷たい風だけが吹く。


 曹操は外に控えている伝令数人を呼び寄せると、全軍に通達させる。


「今夜、黄巾軍を殲滅する」


 短い言葉ながら、曹操の瞳は一切の迷いを感じさえない鋭い瞳をしている。

 伝令は指揮官の迷いのない言葉に連動するように、迷いのない動きで各軍に曹操の命令を伝えるために走る。


 伝令の一人が曹和の元に向かい、命令を伝える。

 曹和は真剣な眼差しで、曹操の伝令を聞く。


「兄者の命令、確かに承った!」


 曹和は着慣れた黒の鎧を着けると、黒騎こっきを集結させる。

 曹和の号令に瞬く間に集結した黒騎に向かって一言だけ発する。


「死ぬなよ」


 黒騎こっきは指揮官である曹和の言葉に頷くと、散らばってゆく。


 全軍が伝令で準備を整えると、曹操自身も馬に跨る。

 乗馬し皇甫嵩こうほすうの策である、火計の火が見えるのをじっと待つ。


 城外にいる官軍の目の前で長社の草原が燃え始める。


 草原の丘陵にいる曹操は遠目で火の手が上がるのを見えていた。


 火をかけてすぐに長社の城から喚声に近い声が遠くである丘陵にまで聞こえてくる。

 おそらく全軍が総攻撃に移ったと曹操は直観した。


「全軍出撃!」


 曹操の低い大声が全軍に響き渡る。全軍は曹操の出撃の一言で丘陵から下り、草原にいる黄巾軍に攻撃を行う。

 全軍の先頭には黒の騎馬隊が走っている。曹操は子元であろうとにやりと笑いながら、全軍と同様に丘陵を駆け下っていた。



次回の更新は6月22日を考えていますが、早めの投稿になるかもしれません。

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