カイルの回想
カイルside
十二歳の頃、流行病で俺の母が亡くなると、今度はエミリアの母が流行病にかかり、この世を去った時の光景が思い出された。
流行病は大人への感染力が強く、看病を尻込みする使用人が多かった。
そんな者達に看病されるより、俺がした方が良いと後継者教育を中断して、看病にあたろうとしていたところ、エミリアの母が「私に看病をさせて欲しいわ。親友に恩返し出来る機会だもの」と手を挙げてくれた。
だが、その結果ーーエミリアの母が病に感染してしまったのだ。
『お母様、私を一人にしないで!お母様ーー!!
』
必死にベッドへ縋りつくエミリアを見て、俺はただ、側にいることしか出来なくて、自分も母を失ったばかりで余裕がないと言うのもあったが、自分の母を看病した結果起きたことで、謝罪を言うべきなのか、だがそれも違う気がして、なんの慰めの言葉もかけられず、静かに涙を流すだけだった。
そうしているうちに、前線の守備にいた父が王都から駆け付けてきた。
お墓の前で泣き続けるエミリアの肩を抱いて、一緒に泣いていた時、俺だけ執事に呼ばれ、父の元へ行った。
『カイル、おまえはもう泣くな。
それよりも今、この状況がどうして起きているかわかるか?』
『ーー』
俺が首を横に振ると、父は言った。
『今回の流行病は、敵国が意図的に流行らせたものだと噂が流れている』
『…敵国が、何故こんな田舎を…?』
『ああ。そこが引っかかるがーーともかく感染の仕方が不自然なのは確かだ。我々に悪意を持つ者など敵国にしかいないだろう。
もう終戦にする話も出ていたが…まだ、長引くことになりそうだ』
『……そうですか。では、まだ俺達は王都に帰れないんですね』
『それどころか、カイルがいつ爵位を継ぐかわからない状況だ。
だからこそ、おまえはこれから弱さを捨て、これまで以上に後継者教育を急ぐことになる。
勿論泣いている暇も、遊ぶ暇も無い。
何故かは、もうわかるな?』
カイルはこくりと頷いた。
十二歳にもなれば、ある程度自分の置かれた状況は把握出来る。エミリアの父も母も他界して、自分の母も他界した。
この状況で、まだ戦争が長引くのであれば、次は父がそうなってもおかしくはない。
そうなれば、次は自分が伯爵として戦争へ行くことになる。自分が弱いままで戦場に出て死んだらエミリアがどうなるのか…。
親戚の誰かが伯爵位を継いで、エミリアを娶るか、娶らないのなら適当な伴侶をあてがうのかわからないが、この状況下でエミリアの後ろ盾が無いことから言って、好条件をあてがわれる可能性は限りなく低い。
先日まで令嬢だった者が、婚約者を亡くして老人に嫁ぐ話を良く聞くようになった昨今ーーむしろそれならばまだマシとも聞く。
その後がわからなくなった者達がどうなったのかなど、想像もしたくはない。
『…わかりました。
俺はもう泣きません。
敵から、これ以上奪われないために…
残された者を守る為に。
あらゆる可能性を考え、思惑を阻止する知識を蓄え、剣を磨くよう励みます』
『…ぁあ、それでこそ我が息子だ。家政は信用出来る者に任せる。
おまえの伴侶の教育もこちらで手配をしておく。何も心配することはない。
大人に頼れる間に頼れる部分はあまえ、自分のなすべきことに集中するんだ。わかったな?』
『はい、父上』




