第3話 観測区画にて
観測ドームの外では、恒星光がリングの外縁を淡く照らしていた。
ヘリオスリング、外層第七区画。探査班のアリュシアは、仄暗い制御盤の前に立ち、指先でホログラフをなぞった。
――周期に乱れ。微細な重力揺らぎ。
だがこの揺れは、惑星イオの軌道上では起こり得ない。数値は、人工的な干渉を示していた。
背後で足音。静かだが、規則正しい。
振り返ると、そこにイサム・レヴィンがいた。治世局の視察官。前回の邂逅から、まだ三日しか経っていない。
「……報告を見て、気になった」
イサムの声は低く、ドームの冷気に吸い込まれるように響いた。
「この波形、自然由来ではない。だが外部通信の痕跡もない」
アリュシアは頷く。
「検知範囲を広げたけど、出所はリング内部かもしれない。――もしくは、地下構造層」
沈黙が落ちた。
観測窓の向こうで、微細な粒子が恒星光に反射して踊る。
アリュシアは、彼の横顔を一瞬だけ見た。
整然としたその表情に、警戒と好奇心が奇妙に混じっている。
――この人もまた、未知のものを恐れながら、惹かれている。
「……ここに来る前、君は探査班の第零区画を見たか?」
イサムの問いに、アリュシアは小さく首を振る。
「閉鎖中でしょう? 制御核がまだ――」
「――ああ。だが、今回の波形はそこを経由している可能性がある」
短い沈黙のあと、アリュシアは静かに息を吐いた。
「じゃあ、行ってみるしかないね。ルクス様の意志が、私たちを試しているのかもしれない」
イサムはその言葉に僅かに眉を動かす。
「……信仰の話か?」
「違う。ただ――この世界で未知を見つけるのは、もう奇跡に近いのよ」
二人は互いに視線を交わした。
探査者と治世者。職務も目的も違う。だが今だけは、同じ一点を見ていた。
アリュシアが制御端末を操作し、観測データを解析する。
浮かび上がった波形は、まるで誰かの鼓動のように律動していた。
イサムが呟く。
「……これは、ただの現象ではないな」
ドームの照明がわずかに瞬き、星環塔の方角で光が揺れた。
微弱な電磁パルスが、静かに響き始める――。




