35 転生者2
ハーニスとボードゲームで遊んでいると、マリアが紹介したい人がいると言って、一人の少女を連れてきた。
「セイト君、こちらは私の大親友のハナちゃん!聖女様・・・というより、異世界から来た人にすごく興味があるらしいの。よかったら、セイト君の世界のことをお話ししてくれませんか?」
「ハナちゃん?」
この世界の人間の名前っぽくないな。愛称か?
「ハナは愛称みたいなものです。カロリ・・・カルリ・・・まぁ、愛称でお呼びください、セイト様。」
予想通りだったけど、なんだか歯切れが悪いな。
まさかこの子、自分の名前を憶えていないとか・・・ないよな、そんなこと。3歳児ならあり得るかもしれないが、どう見たって彼女はマリアと同い年くらいだ。幼子ではない。
「ハナさんね、よろしく!えっと、俺の世界に興味あるって話だけど・・・例えばどんな話が聞きたいんだ?食べ物とか、服装とか、生活系か?」
「そうですね。セイト様は普段何をた・・・召し上がっておりましたのですわ?」
「え?・・・何を食べていたのかって・・・ことだよな?」
「ハナちゃん、また言葉がおかしなことになっているよ!セイト君、砕けた口調でも構いませんか?ハナちゃんは難しい言葉を使うのが苦手でして。」
「あ、そういうことか!全然いいよ!俺も砕けていたほうが分かりやすいし!」
「ご、ごめんマリアちゃん・・・」
「貴族の言葉遣いって難しいよね。私も苦労したよ~今も苦労しているけど。」
確かに、すごく丁寧な言い方をするよなみんな。俺は聞いているだけだけど、たまに何が言いたいのかわからない時があって、あいまいに返事しているときがある。
「それで、セイト様は何食べてたの?」
「そうだな~基本ごはん・・・たまにパンが主食だったかな。おかずはいろいろ食べていたけど、肉と魚のどちらかは必ず入っていた。休みの日はご飯を作ってくれないことがあったから、カップ麺っていうお湯を注いで作る麺料理を食べていたよ。」
「携帯食のこと?」
ハーニスが俺の首に腕を絡めながら聞いてきたので、逆に携帯食について聞いてみた。するとハーニスは懐からジャーキーみたいなものを取り出した。ジャーキーは、犬のおやつとしてよく見たな。
「これ。干した肉なんだけど、そのままだと固いから湯につけて柔らかくして食べる人もいるよ~」
「近いな。これの麺料理バージョンだよ。うどんとかそばとか・・・食べたくなってきたな。」
うどんやそばは無理でも、パスタならこの世界にもありそうだし、食べられるだろうか?
「私はごはん食べたいな。」
「確かに。みそ汁も特に好きではないけど、今はむしょうに飲みたくなってきた。」
「パンとは違うのですか?」
マリアの質問に対して、全く違うと説明をしながら、ハナに対しての疑問がわいた。
ごはんが食べたいと言ったのだ、ハナは。
マリアはごはんを知らないのに、ハナは知っているようだ。それはなぜか?
そういえば、ヘレーナが隣国に転生者がいると言っていた。そして、マリアに男性の名前を与えたのもその転生者だと。
ハナが転生者なのか。
この場で確認することはためらわれて、とりあえず当たり障りのない話をしてお開きとなった。
俺にしてはよくやった方だと思う。
ただ、この先が難しい。
ハナに真相を確かめるためには、ハナと2人きりで会う必要がある。
しかし、俺には常に護衛がついている。アムレットやマリアは俺の傍を離れることがあるので問題ないが、ハーニスは常に俺のそばにいるのだ。
これでは、2人きりになるのは無理だ。
「どうしたの、セイト。恋愛が進展しなくて悩んでいるの?」
「いや、それは確かに大きな悩みの種だけど、今はそれについてじゃなくって・・・」
「ふ~ん。なら、ハナちゃんと2人きりで会うにはどうすればいいかって悩んでいたりとか?」
「へぶっ!?え、そ、そそそんなことないぞ!」
「動揺しすぎ。あ~やっぱり考えていたんだね。セイトの浮気性~。もう、僕だけで満足してくれればいいのに、魔術師さんだけでなくあの娘にまで手を出そうなんて。」
「は?いや、そういう下心は一ミリもなかったんだけど。」
「あ、ごめん。本当になかったんだね。それはそれであの子可哀そうだけど。女の子と見れば鼻の下を伸ばすセイトに下心を抱かれなかったなんて。」
「お前の認識ひどすぎないか?」
「僕だけの認識ではないと思うけど?それより、セイトに良いこと教えてあげるよ。」
「いいこと?悪い予感しかしないんだけど。」
「いや、全くセイトの予感は当たらないね。僕が影と呼ばれる存在なのはわかっているよね?影はね、そこにはいない存在なんだよ。」
「・・・いや、いるだろ。」
「いないんだって。だから、会いに行ってきなよ。気になるんでしょ?」
「それって、聞かなかったことにしてくれるってことか?」
「まぁ、そういう認識でいいよ。ただ、内容によっては上司に報告するけどね。」
「・・・それは困る。」
ハナが転生者の場合、その事実がどれほど大きな影響を及ぼすのかわからない。上司とやらに報告されたら困る。
「僕の上司、ヘレーナ様だけど?」
「それ早く言えよ。それじゃ行ってくるわ。」
「中庭に呼び出しといたから、そこにいると思うよ。」
「・・・わかった。お前有能なのかどうか・・・いや、有能なんだな。そのうえで俺をからかって遊んでいるんだよな。」
「その通り!」
自信満々に胸を張って答えるハーニスを部屋に残して、俺は中庭へ向かった。
姿が見えないだけで付いてきているのだろうが・・・
中庭につくと、ハーニスの言う通りハナがいた。手入れされた薔薇を鑑賞している様子だったが、俺が近づくと顔をあげて俺に駆け寄ってきた。
「セイト様、さっきぶりだね。」
「あぁ。」
「私に聞きたいことがあるって聞いたけど、それって転生者かどうかって話?」
どうやって聞くか迷う暇もなく、ハナが話し始めた。
「あぁ。この国には転生者がいるって聞いたんだ。それで、さっきの会話でごはんが食べたいって言ったハナが、その転生者なんじゃないかって思って。どうなんだ?」
「あぁ、ごはん・・・もう、うっかりが抜けなくて困っちゃうな。そう、私は転生者なの。」
「やっぱり。その・・・」
「うん?」
「俺に何かできることがあれば・・・いや、何にもできないんだけどな俺。」
転生したことについてどう思っているのか知りたかったが、それを聞くのはどうかと思った。だって、俺は転移してこの世界に来たけど、相手は転生してこの世界に来たんだ。
つまり一回死んでいる。
死んだ気持ちはどうですかなんて聞けるかっ!
それで、何か同郷のよしみで何かできることがあればと思ったのだが、残念ながら俺にできることなんてないだろうな。
「それなら、友達になって欲しいな~」
「友達?別にいいけど・・・というか、もう俺たち友達だろ。」
「え、そうだったの!?」
「違うのかよ!?」
「違わない違わない!うん、友達だね!やった!3人目の友達だ~」
「3人目・・・まぁ、いいや。ハナちゃんって、それ本名?こっちの世界の名前っぽくないよな?」
「うん、そうなんだ~こっちの名前・・・今の名前3回くらいしか聞いたことなくて、覚えていないんだよね。カロリ、カルリとかだった気がするんだけど。」
「それは大変だな。」
「元から名前を覚えるの苦手で。実は、セイト様の護衛で覚えているのはマリアだけなんだ。アロなんとかと、バー何とかしか覚えていなくて。」
「・・・」
とりあえず、究極的に名前を覚えることが苦手ということはわかった。
転生者に会ったら聞きたかったことは聞けなかったが、別に聞く必要はない。俺の好奇心を満たすためだけに聞いていいことではないだろうしな。
それからよく通っていたお店や、好きなアニメや音楽なんかの話をして、俺たちは別れた。
久しぶりの前の世界での会話は楽しかった。
あの世界にいた時は、居場所が無くてつらいだけの場所だと思っていたのに、異世界転移すると懐かしく感じる故郷になっていた。
戻りたいのか?
その問いには答えは出ている。
「セイト、そろそろ出発の時間だよ。」
「ん・・・あ。」
そうだ、俺たちここに遊びに来たわけじゃないんだ。
完全に忘れてた・・・
「もう昼間だけど。」
出かけるときは早朝のイメージが強いので不安になる。
「元からこの時間に出るつもりだったから問題ないよ。さ、早く行こう。」
ホールではすでにアムレットとマリア、伯爵とハナが待っていた。
俺たちが来るとすぐに出発という流れになって、伯爵、ハナと簡単な別れの挨拶を交わし馬車に乗り込んだ。
国境も難なく通り抜け、目的地へ向かう。
ゴーストタウンとかした、元公爵領へ。




