34 本気
「あぁ、イラつくなぁ、ホント・・・」
ソファの上で無防備に眠ってしまったセイトを見下ろして、ハーニスはセイトのほっぺを軽くつねった。
「なんで、僕のことを考えてくれないの?あんな、手のひらの上で踊らされているような騎士さんよりも、周りを混乱に陥れる魔術師さんよりも・・・ずっと君を見てる僕に・・・その心をちょうだいよ、セイト。」
つねっていた指を離して、頬に手を添える。
「・・・はぁ。さて、仕事をしないとね。おやすみ、セイト。」
そっと掛布団をかけて、ハーニスは部屋から出て行った。向かう先は、アムレットの部屋。護衛はセイトの部屋の両隣の部屋を用意されるのが普通だが、とある事情によりアムレットは離れた場所に用意されていた。
「そろそろ、騎士さんの元同僚が出るころだね。」
外からアムレットの部屋を覗き見て、アムレットがいることを確認する。それから、アムレットの元同僚が勝手口から出てくるのを待った。
アムレットの部屋がここに用意されたのは、その元同僚をこの屋敷で見てもらうためだった。
「ヘレーナ様は、本当に恐ろしいお方だよね。まぁ、僕の誘導がうまかった、ていうのはあるけど・・・全部シナリオ通りだからね。お、来た来た・・・」
アムレットの元同僚が出てくるのを見て、手元にキープしていた小石をアムレットの部屋の窓にぶつける。
こつんっ。
小さな音だが、アムレットがこの音に気づかないわけがない。ハーニスは静かに物陰に隠れて、様子をうかがう。
アムレットの元同僚は、すでに屋敷の敷地内から出て行ってしまった。そんな彼を追って、アムレットが屋敷から出てくる。
それを見て、ハーニスはつまらなそうに、セイトの部屋へと戻っていった。
隣国に行くことも、この屋敷に行くことも、アムレットの同僚にアムレットが会うように仕向けることも、すべてがヘレーナに指示されてのこと。
ヘレーナに対するアムレットの不信感を軽減するため、ヘレーナは死んだはずのアムレットの同僚をアムレットに会わせることにしたのだ。
「やっぱ、セイトは僕が守ってあげないと。ヘレーナ様の思惑を防ぐどころか、手のひらの上で転がされている騎士さんには、任せられない。あのお馬鹿な性別転換女にも任せられない。僕が、守るんだ・・・」
決意を新たに、ハーニスはセイトの元まで戻った。
俺は、暑苦しさに目を覚ました。俺の体にぴったりと張り付く何かを、ぼやけた視界で捉える。
「ハーニス・・・離れろよ、暑い・・・」
ハーニスがまたふざけているのかと思い、身体を引きはがそうと思った手が止まる。いや、だって・・・マジで寝てるみたいだから。
茶色の柔らかそうな髪からいつものぞいているいたずらっ子のきらきらとした青い瞳が、今は瞼の奥に隠されていて見えない。それだけで、なんだか邪険にできないと思ってしまう。
幼い顔立ちに、俺よりも小さい体。こんな小さな体で俺の護衛だというのだから、本当に不思議だ。
「ハーニス・・・」
子供が母親に縋りつくように、決して離さないと俺の体に抱き着いているハーニスに、なぜだか罪悪感がわいてくる。
もしかして、本当に寂しいのか?
冗談のように笑っていたが、もっと自分のことを考えて欲しいと言っていたハーニスを思い出す。
「・・・ハニー。」
「なぁに、だーりん?」
「!?」
返事が返ってきたことに驚いて、身体がびくりとなった。それを笑って、ハーニスが離れる。
「そんなにまじまじ見て、恥ずかしいなぁ~僕のこと、欲しくなっちゃった?」
「ち、違う!全く、そんなこと一ミリも思っていない!」
正直に否定してからしまったと思いハーニスを見る。だが、ハーニスは面白そうに笑っていて、ほっとした。
でも、その顔の下で泣いていたら?
そんなことが頭によぎって、俺はハーニスの肩を掴んで抱き寄せた。
「え、セイト?」
「だって、もう俺のものだろ、ハニーは。」
「!?・・・うん。」
恥ずかしい言葉だが、少しだけからかってみようと思い言った。だけど、頬を染めて頷くハーニスを見て、相手の方が一枚上手だということに気づいて、俺は顔を赤くして目を背けた。
「お前、手ごわいな。」
「え、そうでもないと思うけど?僕、セイトには弱いよ?」
「・・・あ、暑いな・・・」
「そうだね、僕も少し熱くなってきちゃった・・・」
胸元をくつろげるハーニスを見て、いつもの調子を取り戻した俺は、ハーニスをペイっと床に捨てた。もちろん、床にふかふかのカーペットが敷いてあるのは確認済みだ。
「え?」
「そういえば、マリアたちは?」
「・・・セイト・・・」
疑問に思ったことを聞いた俺に、ハーニスは聞いたこともないような低い声を出して、俺を睨みつけた。めちゃくちゃ怖くて、少し漏らしそうだった・・・
「な、なんだよ・・・」
「・・・ふんっだ。僕の純情をもてあそんで、セイトってばひどいんだから。あー、騎士さんは外に行って、魔術師さんは伯爵の娘さんとお話ししているよ。仲がいいみたいだね。」
そっぽを向いて怒っている様子のハーニスだが、俺の疑問にはちゃんと答えてくれる当たりいいやつだ。
「そっか。・・・俺、トイレ行ってくるわ。」
「部屋を出て右の突き当りを左に行って、2番目の部屋だよ。」
「わかった、ありがとう。・・・戻ったら、一緒に遊ぼうな、ハーニス。」
「・・・仕方がないなぁ、もう。」
まんざらでもなさそうなハーニスの顔を見て、俺は安心してトイレに行くことができた。
機嫌が直ったようで良かった。やっぱり、あいつ子供なんだな。定期的に遊んでやらないと、すねるようだ。
明日から、新作を毎日投稿予定です。
「ギャルゲ式無差別テイマー」というものを書く予定です。
よろしくお願いします。