第6話 恋は盲目
レフティが進化した日から早2ヶ月が経った。
俺たちは立ちはだかる魔物を倒し、少しずつレベルを上げながら、あてもなく森の中を彷徨っていた。
食料は、魔物の襲撃の2回に1回は、猪や兎などの獣系統だったので、なんとかなっている。
問題となったのは水分だ。
1度だけ水色のプルプルとした、いわゆるスライムのような魔物と遭遇した時に、これでやっと水分が補給できる、とレフティと共に喜び、2人してかぶりついた。
結果、苦過ぎて食えたもんじゃなかった。
その数日後、レフティがたまたま川を見付けたので、その日からは川沿いを下流に向けて移動している。
レベルが上がったレフティは新たに、”眷属召喚”なるスキルを覚えた。
字面から、男子的にわくわくするものを感じたので、すぐに試してもらうと、レフティの目の前の空間にヒビが入った。
小さな天使なんかが出てくるのかな?とかのん気に予想していると、ヒビの中から出てきたのは、審判の左腕(小)という名前の魔物だった。
しかもそのサイズに合った、小さくも禍々しい斧を携えている。
レフティはそのコンパクトな左腕が気に入ったようで、その日からずっと出しっぱなしである。
妹か弟でもできたのかというくらい、甲斐甲斐しく可愛がり、今も一緒に歩いている。
鼻歌まで歌い、上機嫌だ。
出しっぱなしでMPとか大丈夫なのか?と聞いてみたが、
「大丈夫ですよー、魔力が必要なのは出すときだけみたいですしー、可愛いですし―♪」
と返された。
可愛いかどうかは聞いていない。
ちなみに俺の方はというと、レベルが上がった以外は特に変わりはない。
もうすぐ上限レベルに到達するので、俺もついに進化か、と今からわくわくが止まらない。
「じゃあこのあたりでそろそろ見てきますねー」
という掛け声と共に、レフティは真上に飛び上がっていく。
定期的に近くに人里らしきものがないか、上空から偵察してもらってるのだ。
(あーい、よろしくー)
ま、今んとこ一度もそんなもん見えた事無いんだけどな。
大体すぐに戻ってくる。
「何にもなかったですよー」
てなもんだ。
だが今日は違った。
「主様ー!何か見えますー!………煙、ですかねー?」
(やっとかー、長かったー。レフティ、煙以外に何か見えるかー?)
レフティが空から降りながら答える。
「なんかー、木でできた建物とー、大きくて赤い剣が刺さった祭壇?みたいなのがありましたよー。」
(煙ってのが気にはなるけど、建物があるなら人もいるだろ………、よしっ、行ってみるか!)
~フェニキア村~
「ひどい………、なんで………?」
と黒焦げになった住居を見上げ、狼の獣人は嘆いている。
「全て私の責任だ。すまん皆、この通りだ。」
年老いた猫の獣人が他の獣人に向けて頭を下げる。
「村長のせいじゃねーよっ!あの得体の知れない化け物がっ………」
「こらよさんかっ!」
と村長と呼ばれた猫の獣人が若い馬の獣人を窘める。
そして声を潜め、
「いつどこであれが我々の言葉を聞いているか分からんのだ。迂闊な発言はするな。わかったか?」
と言った。
言われた方の若者は首をブンブン縦に振る。
「にしてもトレイシーさん達一家がなにしたってんだよっ!孫が産まれたばっかでこれからって時に………」
すると焼け焦げた建物の裏からカサカサと何かが這い出てくる。
「ただの見せしめだよ。お前ら全然食い物持ってこないじゃん?主激おこだよ。」
と、蜘蛛の胴体から人間の上半身が生えた奇妙な生き物が現れた。
「蜘蛛神様………?なぜまたここに………」
「僕みたいな下等な存在を主と間違えるなんて、実に不愉快だよ君。」
と蜘蛛の口からドロドロした何かが飛び出し、今しがた不敬を働いたであろうワニの若者はそれを全身で浴びる。
「ぎゃあああぁぁぁああぁぁあっ!」
と、最初からそこには何も無かったかのようにワニの若者は煙を上げ、溶けて消えてしまった。
「とまぁそんなことはどうでもよくて、さっき我が主を化け物呼ばわりした不届き者がいたよね?」
蜘蛛の目がギョロリと村長を睨む。
「いえいえそんなことは決して………」
「良いのかな?嘘つくなら潰すよこの村。どうせ食べ物ももう無いんでしょ?」
「村の者の発言は私の責任です。どうか私の命で………」
「こんな小汚いじじいの命なんていらないんだよぉっ!」
と前足で殴られた村長が吹き飛ぶ。
村の外壁に当たり、気を失ったようだ。
「さぁどうする?今ならそいつ一人で許してあげるけど?」
化物のその一言で辺りは静まり返る。
すると、馬の若者が意を決したように1歩前へ出る。
「大変よくできました。」
と蜘蛛はニタリと不気味な笑みを浮かべ、その新鮮な馬肉を飲み込もうとした。
その刹那、
ザンッ
と無骨な音が鳴り、蜘蛛が縦に真っ二つに割れた。
「もう主様ったらー、天使使いが荒いですよー」
そこには身の丈ほどもある大斧を掲げた美少女がいた。
数分前
村での惨劇を木陰から覗いていたレフティは開口一番こう言った。
「嫌ですよーあんな村、みんな暗い顔ですしー、活気が無いっていうかー、何より食べ物も無いって言ってますしー」
と目の前で口を尖らせ、身体をクネクネさせている。
なんでだろう?
可愛くねー。
だが主らしくここは冷静に対処しないと。
(お前の性格ならそう言うだろーと思ってたよ。でもいいか?目の前で困ってる人を見捨てた日に食う飯は、美味しいと思うのか?)
「思いますねっ!ご飯の美味しさはいつでも不変ですっ!」
うん即答だ。
なんて良い笑顔なんだ。
ダメだ。
意思が固い。
(もう何でも良いから助けてやってくれよ………。余ってる百足肉全部あげ………)
「行ってきまぁぁぁあああああぁぁぁぁすっ!!!!!」
………百足肉効果すげー。
(それにしても、あの蜘蛛みたいなやつのステータス………、どうなってんだこれ?)
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龍哉の目に見えたあの蜘蛛みたいなもののステータスは、盛大に文字化けしていてレベルくらいしか読める部分がなかったのだ。
(しばらく森の中で生活してたけどこんなこと初めてだ。………うーん、分からんし読めん………あっ、蜘蛛死んだ。やっぱり強えーなーレフティは………)
そろそろ自分も行こう、と軽い気持ちで木陰から出て、レフティの元に向かう。
近付いてみると、村のみんながレフティのことを、女神様だとか救世主だとか持ち上げているところだった………
………のだが、龍哉の姿が見えた瞬間、それこそ蜘蛛の子を散らすように、秒で逃げていった。
(そういや”醜悪”がちゃんと効果を発揮したのって初めてだけどこれは………精神的にくるものがあるな………)
醜悪
可能なら生涯一度も出会いたくない程醜い容姿の者に与えられる称号
(結局これがある限り、人里は難しいのかもなー………。さて、どーしたもんか………)
そうなのだ。
これから先、仮に蝶や蛾に進化ができたのだとしても、この称号がある限りは醜いままなのだ。
もしかすると一生このままかもしれないと、元中学生にとってはある意味絶望的過ぎる未来を憂いていると、レフティが声をかけてきた。
「主様ー?肩落としてどうしちゃったんですかー?ていうかー、主様の肩ってどこからなんですかねー?」
(うっせーよ………でも、ありがとうな。なんか元気出たわ)
レフティの少し天然?な発言はこういうとき正直助かる。
この2ヶ月の間も何度安心したことか。
「おねえちゃんたち、たすけてくれてありがとう」
とそこへ急に幼い声が聞こえびっくりした。
その声の出所を探すと、レフティの服の裾を掴む、黒い羊の小さな小さな女の子がいた。
(なんでこの子は逃げないんだろ?なんだったら笑顔でこっちをずーっと見てるんだが………、いや、視えてないのか?)
その子の両の眼は、その漆黒の体毛とは対照的に、新雪の様に純白だった。
白眼。
盲目。
(そうか視えないからここに残ってくれてるのか)
と少し卑屈になった龍哉と、笑顔の眩しいその子は、いつまでも見つめ合ったままだ。
(………いやなんか照れるんだがっ)
評価、コメント、誤字脱字報告等々、頂くと次話の投稿が若干早くなるかもしれないですはい。。




