第5話 美少女しか勝たん
レフティを包むまばゆい光は徐々に収束し始めた。
(うぅぅううわあぁぁあぁあああ………レフティーーーーーっ)
光が収まり砂埃が舞う。
(どうなったんだ?大丈夫なのかレフティ………)
中から現れたのは………
透き通るような白い肌を持つ、金髪ツインテールの小柄な美少女だった。
(レフティは………?この子は誰だよ?)
瞳は綺麗な青色だ。
比喩ではなく、その瞳に吸い込まれてしまったんじゃないかというくらい龍哉は動けなくなっている。
青い瞳と目が合う。
どうやらこちらに気付いたようだ。
小走りでこちらに駆け寄ってくる。
(………なな、なんだなんだっ)
「主様ー!」
(………?主様………?)
龍哉の目の前で急停止した女の子が心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫ですかー?顔色悪いですけどー?………あ、そっかー!あたしですー!レフティですー!」
(か………可愛い………、じゃなかったっ!えっ、レフティ?なんで………?あ、進化………)
「そうなんですー!気付いたらこんな感じでしたー!成長期なんでしょーかー?」
(成長期………は関係ないだろ。それにしても、あのレフティが人型?に進化するなんて………ステータスオープン)
とレフティのステータス画面を開く。
種族名 審判の堕天使 Lv1/100
個体名 レフティ
HP 3000/3000
MP 2500/2500
攻撃 3000
防御 2500
法撃 300
俊敏 250
天運 1
残SP 190P
〈特性スキル〉
斧使い Lv1 武具換装 Lv1 グレゴリウス言語Lv1
飛行Lv1
〈通常スキル〉
強靭 Lv1 無敵 Lv1 最強 Lv1
両断 Lv1
〈耐性スキル〉
全状態異常耐性 Lv1
〈称号スキル〉
堕天使 Lv1 醜悪の従者 Lv1
〈装備〉
滅ノ爆裂疾風斧
(はぁ?何故に天使?確かにぱっと見天使かと錯覚するくらいには可愛いんだけど………)
謎の美少女ことレフティは、右手で頭をかき、少し前屈みになって頬を赤らめるという不思議なポーズをとっている。
念話であるが故に、龍哉の"可愛い"発言が聞こえてしまい、照れているのだ。
自分の発言が、我が従者を辱めているとは露知らず、ステータスを深く見ていく。
グレゴリウス言語
グレゴリウスという世界においてほとんどの種族が有する言語
(ここ、グレゴリウスってとこなのか………、そういやあの時そんなこと言われた気もするな………)
全状態異常耐性
全ての状態異常に対して耐性を得る
(こ、これは純粋に羨ましいやつ………)
堕天使
罪を犯し地上に堕とされた天使に与えられる称号、全ての攻撃が冥属性になる
(堕天使………、だから羽が黒いのか………?)
前屈みになったレフティの背中からは、それで飛べるのかどうかはわからないが、小さな黒い翼が生えているのが見える。
と、龍哉の独り言を聞き、自身の翼に気付いたレフティが急に飛び上がる。
「あっ、これ飛べるみたいですねー」
と嬉しそうに宙を旋回する。
鼻歌まで歌いだした。
(うん、楽しそうだね♪………じゃなかったっ!………まぁでも、これでちょっとは過ごしやすくなるんかな?)
人型の、しかも人語を話す従者が仲間になったのだ。
この先、例えば集落などを見付けたとして、レフティがいるといないとじゃ大違いだ。
(となると問題は俺の方だな。まぁレフティのおかげで進化っていう可能性が見れたから、俺もワンチャン蝶とか蛾に進化すれば………)
今のままでは称号スキル"醜悪"が邪魔して人里には近付けない。
醜悪
可能なら生涯一度も出会いたくない程醜い容姿の者に与えられる称号
現状、龍哉の最も深刻な悩みである。
その悩みに光明が見えてきたのだ。
安心するのも無理はない。
しかしながら、進化すれば"醜悪"がなくなるなんて誰も言ってはいない。
この不幸な星の元に産まれた毛虫が、美しい蝶や蛾に進化するなんて一言も言ってはいない。
誰も、一言も、そんなこと言ってはいないのである。
~ side ???? ~ グレゴリウスのどこか
コツッ、コツッ、コツッ、と暗い顔で長い長い廊下を歩いているのは、"天界の中心"と呼ばれる町で、"執政官"という中々に高い地位にある役職を持つ、サーバスという名の天界人だ。
部下6名を引き連れて闊歩するサーバスは、最近とても憂鬱な気分が続いていた。
そもそも、地上で神に仕えていた頃に初めて承ったお告げでは、徳を積むと魂が浄化され幸せになれるだろう、とか何とか、そのような内容だったと思う。
だからこそ、地上で何十年も徳を積み、ようやく魂が昇華され天界へ、そこからさらに努力を重ね、今現在あの方々のお傍で仕事ができてはいるが、果たしてそれが我が魂にとっての幸せなのだろうか?
と、物思いに耽っているうちに目的の部屋に着いてしまう。
この部屋の中に入ったあとのことを考えるとさらに憂鬱になる。
(今日は果たして何人の部下が残るだろうか………)
そんなことを考えていると、後ろにいるはずの部下の気配が2人分消えた。
突然のことで、何が起こったのか分からないが、急いで振り返る。
そこには一人の、押せば倒れて割れてしまいそうな、それくらいに華奢で小柄な老人が佇んでいた。
「っ!?………こ、これはこれはモルダー様………、そんなところにお立ちになられて………、どうかなさいましたか?」
と言いつつ急ぎ確認する。
今サーバスの視界に入っている部下は4人。
(あとの2人はどこに………?)
と、モルダーと呼ばれた老人が口を開く。
「喰った」
「………はい?」
「じゃから喰ったと言っとろうに、邪魔じゃったからのう」
その発言により、その場にいた全員に緊張が走る。
気付いたのだ。
今この瞬間も、自分たちがこの老人の進行を阻んでいることに。
だが動けない。
あまりの恐怖に。
「大丈夫じゃよ。もう腹は減っとらん。年は取りたくないもんじゃのう」
「た、大変失礼致しまs………」
と、サーバスが遅過ぎる謝罪を言いかけたと同時に、残った4人の部下の首も飛んだ。
「ひぃっ!?」
大量の血飛沫を浴びる中、恐怖が臨界点に達し情けない声を上げたサーバスは、急ぎ膝をつき、頭を下げる。
そうだ
この人は
この人たちは
お戯れでこういうことをなさる人外たちだった
「モ、モルダー様、ど、どうか何卒………何卒お怒りをs」
「そうそう、儂の部下たちがのう、禁忌の森………何て名じゃったかのう?」
こちらの話など露ほどにも聞いていない。
聞く気もないのだろう。
「ニ、ニーゲルベイン………でしょうか?」
「そうじゃそうじゃ、そうじゃった。」
と、自分が聞きたいことが聞けたからか、モルダーは笑顔になる。
(あんな何もない森でモルダー様は一体何をなさっていたのだろう?)
モルダーが笑顔になったことで、サーバスにもほんの少し余裕が戻る。
戻ってはいけない余裕が。
「その森でな、消えたのじゃ」
「は?」
スパンッ
と小気味の良い音が響く。
余裕が戻ったが故に、油断し、失礼な態度、返事をしてしまったサーバスはその最期の瞬間、首の無い自身の身体と、右腕がカマキリのような鎌に変化したモルダーを視界の端に捕らえ、その儚い一生を終えた。
実にあっさりと。
「でじゃな………」
とそんなことはお構いなくモルダーは話し続ける。
「部下が消えたその森にな、儂も行ってみようと思うのじゃよ」
「儂の力を与えておった可愛い可愛い百足たちが消えてしまったんじゃぞ?原因も知りたいしのう………」
「単純に久しく下界へ降りてない故………」
「儂にも研究者としての矜持が………」
「これは儂の研究の集大………」
サーバスたちが立ち止まっていた例の扉が少し開く。
「おい、あの爺さんまだ一人で喋ってるぜ!あーあこんなに散らかしちゃってよー………、下界に降りるとか何とか言ってるけど、どうすんの?」
「フンッ、放っておけ………、関わるのも面倒臭いわっ!」
ガチャンッ、と乱暴に扉が閉まる。
そしてその長い長い廊下には、永遠に終わりそうもない老人の独り言だけが響き渡るのであった。




