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1.異世界

溢れる光が瞼の裏にある瞳を焼いている。

その強烈な光に抗うことなく瞼を開くとやはり、強烈な光が差し込んできて思わず顔をしかめた。


そこには広大な景色が広がっている。

緑溢れる草原に、少し向こうの方にある浜辺と崖と港と海。

視界の大半を占めている人の活気が溢れていそうな巨大な城壁に囲まれた都市。

その都市の中心に位置するかのようにある、小高い丘にある遺跡。


このような風景は未だ日本という国に暮らしていて出会ったことは無い。

というよりか、ここは本当に日本なのだろうか?

そして俺の体に纏わりついているこの炎のような気体は一体なんなんだ?

ひとまず、自分の体に起こっていることは害が無さそうだから置いておくとして……。


「ここどこだよ」


それが異世界に来て初めて喋った俺こと白草総真しろくさそうまの言葉だった。




「……でかい」

城壁に設置されていた門(兵士っぽい人間がじろりとこちらを見たが問題なく通ることができた)から中に入ると都市の巨大さが目の当たりにされる。

建物自体は縦に大きくは無い。

しかし横に広く、建材が分厚いためか重厚感のある建物が多い。

さらに拍車をかけるのは人の多さであった。

目が痛いほどのカラフルな髪色の彼ら彼女らは特定の種族に限らない。

二メートルと軽く超えるような大男もいれば130くらいしか無い爺ちゃんも歩いている。

尖がった耳を持つ者もいれば獣っぽいふさふさの毛が生えた者もいる。

まさしく混沌。

しかし、一様に皆明るく人々に活気があるように見える。

ただなにより驚いたことがあるとしたら。


「いらっしゃい!近場で獲れたピグピグの串焼きだよ!」

「がはははは!だから昨日の酒場の女がよう!」

「ふむ、今日は市場の魔法薬が少ないのう。これでは納期が……」


などと言った外国人というより異世界人っぽい格好の彼らが普通に日本語を話しているということだ。

いや、よくよく観察してみれば実際に日本語として理解できている部分と理解できていない言葉もある。

しかし、言葉の基本は日本語という珍しい異世界のようだ。

こればかりは異世界という世界にいる自分としては有難い。


「夢……じゃないんだろうなあ」

それなりにファンタジーな世界を夢見る16歳の少年であることは理解しているがここまで壮大な異世界を夢の中と言えど構築できるような想像力を自分が持っているとは思えない。

肌を焼く日光も、耳に心地よく残る雑多な人の活動の音も、汗と土埃の香る空気は間違い無くここが異世界であることを俺に認識させていた。


「しかし楽しそうな世界だよな」

俺は賑やかな都市の中をゆっくりと歩いて見渡しながらそんなことを呟く。

俺の頭の中には最初から帰るという選択肢は無い。

別段、向こうに未練が無いとか親との仲が悪いという訳ではない。

読み残した漫画だってあるし明日のアニメだって見たい。

両親はいきなり居なくなった俺を心配しているかもしれない。

ただ俺はこの新鮮過ぎる異世界の空気に当てられてかわくわくと胸が躍っており、この世界に対する興味が次々と湧いてきているのだ。

ここで、暮らしてみたい。

16歳の少年が異世界に一目惚れしてしまうのはおかしくないことだと俺は思う。


「ちょっとお兄さん」

誰かに話しかけられた。

そのお兄さんという言葉が自分に向けられたのに気付いたのは一度側を通り過ぎた人がわざわざ戻ってきて俺の前に立ちはだかろうとしたからだ。

それは尖った耳を持った綺麗な女の子だった。

周りに比べてちょっと高価そうなローブを着ているため、中々のお金持ちの家の子なのかもしれない。


「えっと、なにかな」

異世界に来て初めての人間とのコンタクトが美少女というのはこれからの生活に行幸なのかもしれない。

そんなことを考えていたが彼女から来た言葉は注意であった。

「街中でそんな魔力垂れ流しにしてたら他の人に迷惑でしょう?少しは抑えなさいな」

そう言われて俺は一瞬何を言われているのか分からなかったがふと、自分の体に纏わりついている炎を思い出す。

異世界っぽいよなあと楽観的に思考していたがこれが恐らく魔力と呼ばれるものでどうやらこのまま放置していると周りの人に迷惑がかかるようだ。

そういえば異世界の都市を歩いていても誰ともぶつからなかったのは他の人が俺を少し避けて歩いていたからか。

それに確かに俺みたいに炎みたいな物を纏った人間はいなかった。

しかし抑えろと言われてもどうすればいいのか分からない。

ここは正直にいこう。


「すまない。魔力を抑える方法を知らないんだ」

「へ?」

俺の言葉に一体何を言っているのこの男はと言った顔をした女の子であったが直ぐに俺を観察しだして、次第に納得顔になり頷いた。


「確かにエルフの王侯貴族の生まれたての赤ん坊のような純粋な魔力だけど量だけが多くて薄いわ。これで魔力の扱い方を知らないなんて今までの人生無駄に過ごしてきたような物よ。お兄さん結構残念で不幸ね」

散々な言われようだが魔力に関してはこの世界に来てから認識したのだから扱いようが無い。

地球は魔法が無い世界だ。

それでも歴史には魔女と言った人物が出てくることもある。

ということは何かしらの理由があって地球人は魔力が封じられた状態にあるのかもしれないな。

まあ、向こうに戻れるかは分からないし確認のしようが無いのだけれど。


「全く文化が伝わっていないようなどんな田舎から来たのやら。ちょっと来て」

そう言って彼女は俺の腕を掴むと引っ張って歩き始めた。

意外に力があって俺は引きずられそうになりながら彼女について歩く。


「ちょ、ちょっと君、どこに連れて行くんだよ」

「せっかく出会ったんだもの、これも迷宮の導きでしょう。少し魔力の扱い方をレクチャーしてあげるから大人しく付いてきなさい」

それと、と彼女はそう言って歩きながら振り返る。

にっと笑ったつもりのようだがどこか上品さも感じる顔で。

「私は君なんて名前じゃないわ。リーエル・クエラというのよ」

との言葉に何故かくらっと感じた。

そして自然に俺はその言葉を告げるために口を開く。

「総真。白草総真だ」

「ソーマか。いい名前ね」

彼女、リーエルはそう言ってくれた。

やはり異世界は素晴らしいところだと俺は実感しながらリーエルに連れられて都市の奥へと歩いていった。

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