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第八話 常識への申し子

「『重力増加(グラビティ・アップ)』!」

 トニクがそう叫ぶと、プリアスの足が地面に沈み込んでいった。

 俺の心臓に向かっていた針は途中で途切れた。

「なっ、体が急に重く……!」

 アスファルトにヒビを作りながら。

 サッとその場から離れることに成功をした。

「トニク、なんでここが?」

 今のうちに窮地を脱出したのはいい。

「だ、だって、ミアさん怖いし、他の人と喋れないし、屋上なら一人になれるって、思って。」

 なるほど、ぼっちになろうと思って来たら俺らが戦っていたというわけか。

「とりあえずトニク、手伝ってくれ。」

「は、はい!」

 プリアスはトニクのことをじっと見つめる。

「あら、貴方、重力魔法の……。」

「ひぃ!覚えられてる!」

 さて、今のうちに攻撃するしかないな。

 狙いはプリアスの足首、切れば少しは足止めできるだろう。

 しかもトニクが妨害をしてくれている。

 明確なチャンスだ。

「風刃!」

 プリアスの足首に向かい、一直線で走る刃はダメージを少しだけ与えた。

 赤い液体が、足首から滴り落ちていく。

「チッ……風ごときが、私の足に傷をつけるだなんて。」

「悪いが伊達に風で生きてきていないんだ。使えるものは使うさ、今回は味方を使う。」

 トニクに合図を送り、もう一段階重力を重くしてもらった。

「そっちは2人、卑怯でなくって?貴方の実力も確認できていませんのに。」

「どうとでも言ってくれ。負けるわけにはいかないんだ。お前に負けると何をされるか分からないんでな。」

 プリアスは悔しそうな表情を浮かべた。

「今日はこのくらいでいいでしょう。でもいつか、貴方の風について調べさせていただきますわ。」

 プリアスは自分自身の影に、溶け込むように消えていった。


「助かったよ、トニク。あの時に魔法が無かったら俺、やばかったぜ。」

「いえいえ、その、困ってそうな人を助けるのは、当たり前、ですから!」

「困ってそうというか、めちゃくちゃ困ってたんだけどな……。助けてくれたことに変わりはないから、嬉しいよ。本当にありがとう。」

 ドアがガチャリ、と開いた。

「アランー!どこに行っ……アンタ達、そんなに仲良かったの?」

 ミアが怪訝な顔でこちらを見てくる。

「恩人だ。かなりの。」

「えぇ……?!そ、そんなことないでしゅっ。」

 噛んだ。

 明らかに噛んだなこいつ。

 ミアが前だと緊張するらしい。

 物怖じというか、単純に身に纏うオーラが怖いらしい。

「アンタ、トニクだっけ?恩人って、何したの?

 トニクは震える手を抑えながら、ミアに話す。


「そんなことがねぇ。アラン、プリアスに目付けられてるわね。アンタというより、持ってる風かもしれないわ。」

「俺の風が?全く、持ってるだけなのに目を付けられるなんて。生活しにくすぎるだろ。」

「Aクラスに来た時点で生活云々抜かしてるんじゃないわよ。」

 それから30分ほど、プリアスのことについて対策を練った。

 最終的な結論は、戦闘に発展しないようにすぐ逃げること。

 それが難しい場合は自身の力を最大限使うこと。

 何しろ、闇という定義がまだよくわからない。

 影を操れることができるのは分かった。

 黒いものならなんでもいいのか?

 もし夜に戦闘すると考えると……いや、考えたくもないな。


 三人で階段を降りながら、寮に向かう。

「そういえば、もうすぐ夕食の時間じゃないか?プリアスって食堂に来るのか?」

「さあ?私は今まで見てきてないけれど。見るからに貴族って格好してるじゃない。自室でシェフの料理でも食ってんじゃないの?そもそも寮にも名前無いし。」

 なるほどな、寮ではなく、近くにあるメイル家の別荘から来ていると考えればいいだろう。

「偏見じゃないと断言できないのが辛いな。」


 食堂について、三人で席に座った。

 トニクだけ、料理の量が異様に多い。

 牛の丸焼きくらいのサイズが5皿ある。

「い、意外と大食いだったんだな、お前……。」

「あ、えっと、昔から食べるのが好きで。」

「人は見かけによらないわね。」

「にしても食べすぎだろ。育ち盛りだとしても、俺でも食えねえ量だぞ。」

「いいじゃないですか、美味しいものは、たくさん食べたいですもん。」

 こいつ食事目的だけでAクラス来たんか?

「まあいいわ。とりあえず食べましょう。」

 なんでお前は平気そうなんだよ。

 トニクはすっかり俺たちと打ち解け、前までのオドオドした話し方はあまりしなくなった。


 食事が終わり、自室へと向かう。

 トニクと部屋の方向が同じらしく、話しながら向かう。

「Aクラスって変な奴が多いな。」

「貴方も結構変だと思いますけど……。」

「俺が?どこが?」

 トニクはうーん、と唸る。

「風だけで来る人いませんよ?」

 それはそう。

「まあ風の才能がありすぎたってことだ。」

「そうですか。」

 なんか淡白じゃない?


 部屋の前に着いた。

「じゃ、俺ここだから。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

 ベッドに倒れ込んだ。

 いきなり放課後に戦うことになるとは。

 それも格上の相手に。

 そもそも俺の風に何か特殊なものがあるわけでもないし、一体なんのために風に執着しているんだ?

 物思いに耽っていると、だんだん瞼が落ちてくる。

 気になる点はいくつかあったが、それはその時に解決するか。

 そう決意して、眠りにつく。



◇



 わたくしはお父様にご挨拶に行く。

 勿論、あの風のことについて。

「プリアス、情報は回収できたか?」

 お父様は椅子に座り、こちらを見下ろしてくる。

 圧倒的強者の余裕を感じる。

「ええ、お父様の読み通り、あれはただの『風』ではありません。風が罠を設置しているところから不思議には思っていましたが……。」

「風が小細工を仕掛けられる、とな。元々が小細工のような弱々しい魔法のくせに、以前までの風邪とは違い、威力は向上。さらに罠か。」

 お父様は頬杖をついて、考え事をする。

「プリアス、今日は下がれ。まだあいつには不可解な点がある。脅威となる存在になるかもしれん。」

「分かりました、お父様。」

 お父様は強くて賢いけれど、私に対して疑うそぶりを一切見せてこない。

 そういうところが、常に心配になるけれど、とても喜ばしい。

 いつか殺して、わたくしがメイル家の頂上になるわ。

 それにあの風、わたくしの邪魔をしないとは限らない。

 早めに始末しなければ、秘密裏に進めている計画がバレてしまうかもしれないわ。

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