22 そして新しい生活へ
私の新しい仕事は地方と王都の連絡係。
貴族令嬢が1人で出歩くのはご法度だから、いつも男装して馬を駆けさせる。
誰からも見とがめられないから便利なんだよ。
ある日、領地の兄から手紙を頼まれた。
行ったことのない町だし急ぎでもないからゆっくり観光しようと思っていた。
「護衛について行ってもよろしいでしょうか?」
ダッシュから声をかけてくれた!
忙しくしている間に、プロポーズが中々ないからあせっていたのよ。
「ん、お前だと返って危ないのだが」
渋る兄をダッシュは説得する。
「まるで婚前旅行だね」
「そんな所です。その代わり寄り道してもよろしいでしょうか」
おお否定されなかった! 期待していいんだよね、これ。
街道をひたすら下り、3つ目の町に入る。
貴族家へ手紙を渡し、宿を取った。
用意するよう言われていたワンピースに着がえ、町はずれまで歩く。
「ここです」
そこはただの民家だった。
ダッシュが扉をノックすると、くたびれた女が出てきた。
「誰だい、あんた」
「お袋の息子だよ。ただいま」
「まさか‥ダッシュ⁉」
そこは彼の実家だった。
「まあまあ、あんた偉くなったんだね。お貴族様なんて」
「ただの騎士だよ。一代かぎりの」
ダッシュの雰囲気が柔らかくなった。親の前では口用も変わるようだ。
「こんなかわいらしいお嫁さんまで連れて」
とてもすてきな親に育てられたのだな。
「初めまして、ブライアと申します」
庶民的な服を着させられたのだ、身分は黙った方がいいだろう。
「何もないけど、晩ご飯食べて行きな」
ダッシュの母親に手料理をふるまわれる。
粗末ではあったが心がこもっていた。
ダッシュは子供の頃、魔法の才能を発揮して魔法使いに引き取られていたそうだ。
「たまには会いに来てくれてたんだけどね、魔法使いがお貴族様に仕えてからは、音沙汰がなくなって。心配していたんだよ」
「師匠が生きていた時は手紙を送っていただろ。その後は‥業務内容も変わって帰る暇なんてなかった」
ああ、そこから暗殺者として仕込まれたのか。
食後に私は宿屋に戻されるが、彼はそのまま実家に泊まった。
「無理につき合わせてすみません」
「謝ることないじゃない」
翌朝迎えに来たダッシュはすがすがしい表情なっている。
「以前君が故郷に病気の親でもいるのかって言ったんですよ。それで気になって様子を見に来ただけです」
ほほう、私まで一緒に。好きな人に親を紹介されたってことは‥
ダッシュは珍しく目を泳がせている。
「安心させたかったんです。それから‥」
彼はポケットから小箱を取り出した。
「母が祖母から渡された物だそうで、今朝渡されました」
中身は琥珀がはまった指輪だった。
彼は私の手を取り、そっと指輪をはめる。
「婚約指輪がお下がりでは嫌ですか?」
いつもの軽口を装っているが、視線は緊張をはらんでいた。
婚約指輪、とハッキリ言ってくれたことに、私は高揚する。
「嫌じゃない。嬉しい」
そして私たちは結婚した。
式には絹のドレスを仕立てる。
結婚指輪はエナメルのかわいいのをダッシュが買ってくれた。
「とても綺麗です」
ダッシュが私に甘くほほ笑む。
私も幸せでいっぱいだ。
「すげえ、お嬢様がお嬢様に見える」
式場に入場したとき聞こえた周りのざわめきも気にならないくらい。
花嫁姿の私に、ローアン様が祝福の言葉をかけてくれた。
「おめでとう、ブライト。まさか花嫁の正体がお前だったとは。今日デイジーから聞かされたんだよ」
やっとか。彼はずいぶん振り回してしまった。
「ありがとうございます。黙っていて申し訳ありませんでした」
私の謝罪を公爵令息は笑って受け入れてくれた。
「気にするな。魔法で性別が変えられるなんて不確かなこと、言えないよな! おまえが女になっても私の友情は変わらないから安心しろ!」
‥あれ?
END
終わりです! ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
ブクマとかリアクション、嬉しかったです。とても励みになりました!
文字数増やそうと頑張ったのですが、やっと7万7千文字。10万字は遠いですね~




