恐怖を刈り払う鎌
ドン……。
背後から大きな足音が響き、三人がゆっくり振り返ると、そこにはゴリラのような魔獣が立ちふさがっていた。
「忘れるなよ。お前たち三人を、この学園から完全に消し去るのは──この俺だ!」
バルモンドが魔獣の頭上から叫ぶ。
魔獣の咆哮が大気を揺らし、三人は思わず耳をふさいだ。
「土くれになって消えちまえ!」
高笑いと共に、バルモンドの声が響く。
――――
【どうやって化け物なんか倒せばいいんだ】
コルヴィアンは険しい表情で考える。
【オレ、生きて帰れるか……?】
ルスクも不安を押し隠せない。
メラティは震えながら一歩下がった。
【も、モンスター……】
突然、ある光景がフラッシュバックする。
あの時──左目に伸びてきた“あの手”。
「だ、だめ……!」
メラティは叫んでしまう。
「メラティ、どうした?」
コルヴィアンが心配そうに声を掛けた。
「何があった?」
ルスクも眉をひそめる。
「ご、ごめん……。ちょっと、嫌なことを思い出して……」
メラティの声は震えていた。
突然、魔獣の両腕が唸りを上げて振り下ろされ、地面が砕け、土煙が一帯を包んだ。
「ハハハ……! これで三人とも終わりだ!」
バルモンドは勝利を確信したように笑う。
だが、土煙が薄れると、彼は違和感に眉を寄せた。
「……おかしい。腕が途中で止まってる……?」
まさかの光景だった。
魔獣の一撃は空中で止まり、三人の頭上には巨大な“空間魔法の壁”が展開されていた。
コルヴィアンが両手を掲げ、必死に防御していたのだ。
「メラティ」
「な、なに……?」
「もしまだ怖いなら、バルモンドは俺とルスクで止める」
コルヴィアンは安心させるように笑った。
「おい、本気か? あの召喚者を二人で?」
ルスクは肩をすくめる。
「大丈夫。協力すれば勝てる」
コルヴィアンの声には迷いがなかった。
ルスクは拳を握りしめる。
「……よし。やってやろうぜ」
「おう!」
魔獣の拳が連続で空間障壁を叩きつけ、ひび割れが走る。
だがコルヴィアンは次々と“空間層”を増やしていく。
ルスクは雷を纏って駆け出した。
【私は……ずっと過去に縛られて、この先も怯え続けるだけなの?】
【怖いまま生きるなんて、嫌。自由になりたい……でも──】
メラティの胸の奥で、弱い声と強い声がぶつかり合っていた。
「メラティ!」
コルヴィアンが叫ぶ。
「お前がどれだけモンスターを怖がってるのか、俺には分からない。だけど……ずっと怯えていたいのか? それとも、一歩でも踏み出したいのか!」
その言葉が、彼女の心を強く打った。
【……そうだ。私は変わりたい。昔の私じゃない。私は──自分を守れる力を持ってる】
メラティの魔印が淡く光り、足元に魔力が流れ込む。
次の瞬間、魔力の靴と大鎌が彼女の手に現れた。
「確かに……私はモンスターが怖い。でも、このままじゃ何も変われない」
彼女は大鎌を強く握った。
バキッ……!
「メラティ、走れ!」
コルヴィアンの叫びと同時に、空間障壁が粉々に砕け散り、地面が割れ、視界が土煙で覆われる。
「い、いつの間に私を抱えて逃げたの?」
コルヴィアンが戸惑いながら問う。
「空間が割れた瞬間に……あなたを引っ張ったの」
メラティは息を整える。
その頃、ルスクは巨大な手に締め上げられていた。
「ぐっ……ちょ、ちょっと! もう少し優しくしてくれない?」
苦しそうに言うルスク。
「黙れ……」
バルモンドの声は冷たかった。
「お前たち異常者はどうせ消える運命だ。だがその前に……こいつを先に“ご先祖のもと”へ送ってやる」
魔獣の握力が強まり、ルスクの悲鳴が響く。
だが──次の瞬間。
バシュッ!
魔獣の腕が肘から先ごと宙を舞った。
「……な、何だと?」
バルモンドが振り返った瞬間、コルヴィアンの隣から“誰か”が消えている。
「まさか……あの盲目の娘が?」
信じられないというように目を見開く。
メラティは冷ややかな表情で大鎌を構えていた。
「説明して。どうして私たちを襲ったの?」
穏やかな声だが、その足元の空気は鋭い。
バルモンドは後ずさる。
「ば、馬鹿な……盲目のお前が、そんな神懸かった力を……?」
メラティは静かに大鎌を向けた。
「左目を失っても、私を侮れば……その分、あなたが傷つくだけ」
「ふん……!」
バルモンドは息を吐き、指輪をはめて不気味に笑った。
「ちょうどいい。この魔道具、実験台になれよ」
すると、彼らが乗っていた魔獣が霧のように消え、二人はそのまま落下する。
「誰が卑しいか、見せてやるよ……奴隷娘」
バルモンドは地上に降り立ち、優越感に満ちていた。
メラティは軽やかに着地したが、視界が揺れ、足元がふらついた。
「な、何で……魔力が、一気に……?」
彼女の顔が青ざめる。
「メラティ、大丈夫か?」
コルヴィアンが駆け寄る。
「ただ……少し、力が抜けただけ……」
ルスクは地面に倒れ込み、息を荒げていた。
「はぁ……はぁ……。くそ、あいつの握力……まだ体が痛ぇ……」
と苦笑しながら起き上がる。
「モンスターに玩具みたいに扱われた気分はどう?」
コルヴィアンが冗談めかして言う。
「冗談じゃねえぞ、コルヴィアン!!」
ルスクが叫び、メラティは思わずクスッと笑った。
「ふふ……二人とも、こんな時でも喧嘩できるのね」
だが、その和んだ空気は次の瞬間、押し潰される。
地の底から沸き上がるような、重く濁った呼吸音が響き──
青白く光る瞳が闇の中に浮かび上がった。
ドロォ……ッ
黒い瘴気が地を這い、空気を凍らせる。
「運がいいな、お前たち三人は……」
バルモンドがにやりと笑う。
「高位の魔族の、最初の犠牲者になれるんだからな」
その言葉と同時に、魔族は一歩踏み込み──
次にはもう目の前にいた。
「なっ──はや……!」
巨大な腕が振り下ろされ、
コルヴィアンは咄嗟に空間魔法を展開した。
だが。
バキィィッ!
防壁がひび割れた瞬間、衝撃が爆ぜ、
三人はまとめて吹き飛ばされた。
「い、今の……何……?」
メラティが地面に手をつきながら呟く。
「間違いねぇ……あれ、ただの魔獣じゃない」
ルスクも青ざめている。
「レベルが違いすぎる……!」
コルヴィアンは立ち上がり、歯を食いしばった。
「今は考えてる暇はない……協力して倒すしかない!」
魔族が再び姿を消した。
いや、消えたのではなく──速すぎて見えないだけだ。
ギィン!
メラティの鎌が火花を散らし、
彼女は魔族の一撃を受け止めていた。
「今よ!!」
メラティが叫ぶ。
「分かった!」
コルヴィアンは瞬時に空間魔法を重ねて展開し、
ルスクは電撃を纏った拳を振りかぶる。
「はぁぁっ!!」
「行けぇぇ!!」
メラティが双手で鎌を振り下ろすと、
魔族の身体は裂け、
断末魔とともに地へと崩れ落ちた。
「──嘘だろ……」
遠くでバルモンドが震えている。
「高位魔族が……あんな簡単に……?」
その瞬間、彼の全身に電流が走り、
悲鳴を上げる間もなく、地面に倒れた。
「命中!」
ルスクが指を鳴らして笑う。
「見事だよ、ルスク」
メラティ。
「助かった、二人とも」
コルヴィアン。
三人は互いに顔を見合わせ──
息を整えながら、試験の続きへと進んだ。
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